たけぞうさん
レビュアー:
▼
2008年の直木賞受賞作。穏やかな恋愛小説です。
はじめての作家さんでした。当たりを引いて嬉しくなりました。背表紙の紹介文には、繊細で官能的な大人のための恋愛長篇とあります。しかも不倫を匂わせる記述もあります。たしかにそういう捉えかたもできるのですが、誤解しやすい文章です。
わたしが紹介するならばこうなります。
踏み出したくなるような危険な恋愛感情がこころに湧き上がってくることってありますよね。そんな気持ちが行間に込められていて、主人公のセイは自制していますが、読者の目には自制しきれていないよう見えるのです。控えめな感情表現がなんとも奥ゆかしい大人の人間性を感じさせ、おしゃれな雰囲気となって読者に伝わってくる作品です。
田辺聖子さんの作品の魅力に近いといえば伝わるでしょうか。
事件はなにも起きません。展開だけみると退屈かもしれません。だから楽しめるかどうかは人によって違う気がします。わたし自身も、書評を書き始めた頃だったら、楽しめたのかは自信がありません。文章は難しくないです。でも、文章の繊細さをすくい取るのが難しい、そんな作品です。
切羽(きりば)とは、掘削中のトンネルの内側からみた先端部のことです。トンネルがつながってしまえば切羽はなくなります。でも、掘り続けている間はいつも一番先頭なのです。
作品の終盤にそんなことが書いてあり、切羽という言葉が題名にもなっているのですが、トンネルの文章が示そうとしていることも、題名の意味も、直接的なことはなにも書いてありません。読者は感じるしかないのです。
主人公のセイは、小さな島の小学校の養護教諭です。あるとき石和という音楽教諭が島に赴任してきて、小さなコミュニティに波紋が広がっていくというお話です。でも、主題は波紋ではなく、表面の波の下でゆっくりとうねっていく深い部分の水の動きなのです。わたしは、人間の深層心理の混じり合いが、深い水の動きと思っています。
どきっとする文章です。でも読み進めるうち、身体的な性的表現ではなく、愛情表現として書かれていることが伝わってきます。穏やかで品のいい恋愛小説です。
わたしが紹介するならばこうなります。
踏み出したくなるような危険な恋愛感情がこころに湧き上がってくることってありますよね。そんな気持ちが行間に込められていて、主人公のセイは自制していますが、読者の目には自制しきれていないよう見えるのです。控えめな感情表現がなんとも奥ゆかしい大人の人間性を感じさせ、おしゃれな雰囲気となって読者に伝わってくる作品です。
田辺聖子さんの作品の魅力に近いといえば伝わるでしょうか。
事件はなにも起きません。展開だけみると退屈かもしれません。だから楽しめるかどうかは人によって違う気がします。わたし自身も、書評を書き始めた頃だったら、楽しめたのかは自信がありません。文章は難しくないです。でも、文章の繊細さをすくい取るのが難しい、そんな作品です。
切羽(きりば)とは、掘削中のトンネルの内側からみた先端部のことです。トンネルがつながってしまえば切羽はなくなります。でも、掘り続けている間はいつも一番先頭なのです。
作品の終盤にそんなことが書いてあり、切羽という言葉が題名にもなっているのですが、トンネルの文章が示そうとしていることも、題名の意味も、直接的なことはなにも書いてありません。読者は感じるしかないのです。
主人公のセイは、小さな島の小学校の養護教諭です。あるとき石和という音楽教諭が島に赴任してきて、小さなコミュニティに波紋が広がっていくというお話です。でも、主題は波紋ではなく、表面の波の下でゆっくりとうねっていく深い部分の水の動きなのです。わたしは、人間の深層心理の混じり合いが、深い水の動きと思っています。
明け方、夫に抱かれた。
大きな手がパジャマの中にすべり込んできて、私の胸をそうっと包んだ。
どきっとする文章です。でも読み進めるうち、身体的な性的表現ではなく、愛情表現として書かれていることが伝わってきます。穏やかで品のいい恋愛小説です。
お気に入り度:







掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。
自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。
この書評へのコメント
 - コメントするには、ログインしてください。 
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:新潮社
- ページ数:241
- ISBN:9784101302546
- 発売日:2010年10月01日
- 価格:420円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。






















