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三太郎さん
三太郎
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母と娘、あるいは母と息子の難しい関係について。
久しぶりに角田さんの作品を読む。8篇からなる短編集で、2004年から2007年にかけて雑誌に掲載されたもの。全体を通してのテーマがあるとしたら、家族の問題、それも母親と息子、母親と娘の面倒な関係だ。

たとえば空を蹴るの主人公は30歳前後の二人兄弟の弟で、父親は既に亡くなっている。彼は大学卒業後も定職に就かず、昔の友達とカラオケに行ったり借りたCDで好きな音楽を聴いたりして過ごしている。生活費は、想像だが、付き合っていた女性からせしめたり母親に無心したりしてきたのだろう。ところが、その母親が認知症を発症して介護施設に入ることになる。これからは、たぶん、主人公の兄が母の年金や資産を管理するようになるだろう。金に困った主人公は空き家になった実家に忍び込み、母親の宝飾品などを盗みだして質屋に行くが大した金額にはならない。それでも本人は平気で何とかなると思っている。

きっと親に甘やかされて育ったのだろうなあ。しっかり者らしい兄にとっては弟は生涯悩みの種になるのだろうな。僕の身近にも働いたことのない中年の末っ子がいて兄弟が世話をせざるを得なくなっている。身につまされる話だった。

ところで、この小説に出てくる母親達は皆いわゆる専業主婦のようだ。つまり職業についていない。シングルマザーでさえ働いていないらしいのは元夫からの仕送りで暮らしているのだろうか。娘の世代はもう結婚退職が前提という時代には生きていない。そのあたりの世代間の齟齬もありそうだ。もっとも僕の母親は小学校教師として結婚後も働いていたから、僕自身は家にいつも母親がいる家庭というものがピンとこないのだが。

初老の母親と未婚のあるいは離婚した娘という組み合わせのお話も幾つかあった。一見仲良し親子だったり、そっけない関係の親娘だったりするが、娘が同性の母親を理解してるかというとそんなことはなさそうだ。一方、息子と父親との関係はこの小説ではほとんど触れられていない。

クライ、ベイビイ、クライは30代の息子と彼が中学生の頃に家を出て行った母親の話だ。主人公はふとしたはずみで新聞広告にあったシナリオ募集の広告を見て、脱サラしシナリオライターで生計を立てようとする。しかし退職してもシナリオは採用されず、専業主婦希望の妻は家を出ていき、生活に生き詰まって、20年ぶりに母親に電話を掛ける。そして「おれだよ、おれ・・・」というオレオレ詐欺まがいの電話で50万円を無心する、というお話。

息子の方が母親に求めるものがはっきりしているようだ。無条件で息子を信じてほしい、という甘えのようなものがある。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:826 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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