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星落秋風五丈原
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世の中うまくいかないことばかり それでも前にしか進めない~故郷を遠く離れて、アメリカの中国人街・フラッシングで生きる人々の喜怒哀楽を綴ったハ・ジンの短編集
 海外の至る所に中国人街があったのは、新世紀になる前からだ。あんなに広い国土があるのに、法律上も言葉の面でも不便な海外にわざわざ出ていくなんて、随分バイタリティがあるなぁと感心していたら、今や、日本人が国内で仕事を探すことが困難になった。先見の明があった中国人たちは、さぞや裕福な暮らしをしているだろう。アメリカの中国人街、フラッシングをそっと覗いてみた。

 ところが彼等も順風満帆とはいかないようだ。中国に比べれば良いが、米国人に比べれば雀の涙の給料。例え中国でどれほどの業績があろうと、米国では相手にされない現実。不法移民の弱みがあるため、中間搾取は当たり前。それなのに、本国の親戚からは、さぞや稼いでいるだろうと当てにされる。これなら故国の方が、楽なのでは?

 表題作の主人公は寺で二年以上武術の講師をしているが、給料未払いで首になり、更にビザ更新も叶わず、不法滞在で追われる。28歳なのに気持ちはすっかり年寄りと嘆く気持ちもわからなくはない。八方ふさがりの彼は、ある行為に走る。行為自体、決して褒められたものではないが、事態は意図したものとは逆の方に、ころころ転がってゆく。なぜ、苦しい時にこうならなかったのだ!と言いたいくらい、易々と。「信じる者は救われる」という教訓めいたところが少しもない展開に、思わず笑ってしまうが、いかにもフィクショナルな話の裏には、彼をはじめとする中国人が耐えてきた現実があり、笑いに苦みが混じる。

 表題作や『しだれ桜のある家』など、若い人たちの方が、失うものがないからなのか、フットワークも決断も早い。『年金制度』のヒロインは彼等より年配の48歳だが、持たざる者ゆえの強さを持っている。セクハラまがいの職を捨てる代わりに庇護者を失うがこれからは生き方を変えるんですと、雇い主に言い放つ。遥か彼方の異国で頑張る彼女に背中を押されて、厳しい現実に向き合う勇気が持てそうだ。

 ハ・ジンの著作
狂気
待ち暮らし
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2324 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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