三太郎さん
レビュアー:
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アラン・シリトーの代表作「長距離走者の孤独」を再読しました。レースの場面以外は忘れていました。
「#やりなおし世界文学 読書会」への参加書評です。表題作について書きます。
シリトーの短編「長距離走者の孤独」は若い頃に一度読んでいましたが、主人公のレースのシーンが印象的で、細部はほとんど忘れていました。
作品は1959年に英国で発表されました。僕がまだ二歳の頃で、高度成長が始まったばかりの頃です。
著者の父親は工場労働者で本人も14歳から工場で働いていたとか。小説の主人公とその点は良く似ています。主人公の父親は工場勤めでしたが、癌になり血を吐きながら自宅の寝室で亡くなります。その父の死亡保険や会社からの見舞い金で一時的に裕福になった母親と息子は2,3か月で有り金を使い切ります。その間の贅沢な暮らしになれてしまい、17歳の主人公はもう働く意欲を無くして、行きずりのパン屋の家に窓から忍び込み、金の入った金庫を盗み出しますが、警察に捕まり感化院(少年院のようなもの?)に入れられます。
そこの院長はいかにもブルジョア風の太った男で、主人公に誠実に生きるように諭しますが、主人公はこの言葉に猛烈に反発します。彼はもともと早かった足を院長に見込まれ、感化院対抗のクロスカントリーの選手に選ばれますが、主人公は院長に復讐する機会を虎視眈々と狙います。そしてレース当日、彼はぶっちぎりのトップで競技場のトラックに入ってきますが・・・そこで彼はあるやり方で院長に復讐を果たします。
この主人公は社会の支配層の大人たちを徹底して憎み、すべてが自分と支配層との戦争なのだと言います。ですから法律を守る気持ちはまったく持ち合わせません。彼はレースの半年後に感化院を出て、犯罪に手を染めて生活しつつこの手記を書き、もし自分が警察に捕まったら手記を公表するように信頼している友人に託したのですが、僕らがこれを読んでいるということは、彼は今は刑務所の中なのかな、というお話です。
僕が生まれた頃のイギリス社会の時代背景は分かりませんが、労働者の生活環境も人心も荒廃していた様子が伺えます。主人公は働くことに意味を見出せず、ものを盗むことに疑いを持ちません。
でも最近の日本でも、生活に困窮しているわけでもなさそうな家庭の子供が、大学に入っても勉強はせずに金儲けを目指し、闇バイトに手を出して、住宅から金庫を盗んで逃走中に交通事故で亡くなった、というニュースを読んで、日本社会もまずいことになっているかもと思わずにいられませんでした。
一方、戦後のイギリスは「ゆりかごから墓場まで」といわれた社会福祉制度で有名でしたが、制度では人心の荒廃は止められなかったのだろうか、という疑問を感じました。
小説としてはレース中の主人公の心理の揺れ動きが読みどころですね。
シリトーの短編「長距離走者の孤独」は若い頃に一度読んでいましたが、主人公のレースのシーンが印象的で、細部はほとんど忘れていました。
作品は1959年に英国で発表されました。僕がまだ二歳の頃で、高度成長が始まったばかりの頃です。
著者の父親は工場労働者で本人も14歳から工場で働いていたとか。小説の主人公とその点は良く似ています。主人公の父親は工場勤めでしたが、癌になり血を吐きながら自宅の寝室で亡くなります。その父の死亡保険や会社からの見舞い金で一時的に裕福になった母親と息子は2,3か月で有り金を使い切ります。その間の贅沢な暮らしになれてしまい、17歳の主人公はもう働く意欲を無くして、行きずりのパン屋の家に窓から忍び込み、金の入った金庫を盗み出しますが、警察に捕まり感化院(少年院のようなもの?)に入れられます。
そこの院長はいかにもブルジョア風の太った男で、主人公に誠実に生きるように諭しますが、主人公はこの言葉に猛烈に反発します。彼はもともと早かった足を院長に見込まれ、感化院対抗のクロスカントリーの選手に選ばれますが、主人公は院長に復讐する機会を虎視眈々と狙います。そしてレース当日、彼はぶっちぎりのトップで競技場のトラックに入ってきますが・・・そこで彼はあるやり方で院長に復讐を果たします。
この主人公は社会の支配層の大人たちを徹底して憎み、すべてが自分と支配層との戦争なのだと言います。ですから法律を守る気持ちはまったく持ち合わせません。彼はレースの半年後に感化院を出て、犯罪に手を染めて生活しつつこの手記を書き、もし自分が警察に捕まったら手記を公表するように信頼している友人に託したのですが、僕らがこれを読んでいるということは、彼は今は刑務所の中なのかな、というお話です。
僕が生まれた頃のイギリス社会の時代背景は分かりませんが、労働者の生活環境も人心も荒廃していた様子が伺えます。主人公は働くことに意味を見出せず、ものを盗むことに疑いを持ちません。
でも最近の日本でも、生活に困窮しているわけでもなさそうな家庭の子供が、大学に入っても勉強はせずに金儲けを目指し、闇バイトに手を出して、住宅から金庫を盗んで逃走中に交通事故で亡くなった、というニュースを読んで、日本社会もまずいことになっているかもと思わずにいられませんでした。
一方、戦後のイギリスは「ゆりかごから墓場まで」といわれた社会福祉制度で有名でしたが、制度では人心の荒廃は止められなかったのだろうか、という疑問を感じました。
小説としてはレース中の主人公の心理の揺れ動きが読みどころですね。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:246
- ISBN:9784102068014
- 発売日:1973年08月01日
- 価格:500円
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