Yasuhiroさん
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さても面妖な三つの「うそばなし」。変なヘビを踏んでしまったものだ。
川上弘美を読むシリーズ、次は最初期の作品で塩味ビッテン提督曰くゴミ川賞を受賞した「蛇を踏む」です。まあ、芥川賞を云々する気はないので(とするりと逃げておく)ニュートラルな気持ちで読んでみました。
「蛇を踏む]
芥川賞を踏んでしまった作品。塩味提督曰く「1mmも面白くない」短編。ふむふむ、塩味提督には合わんわなあ。でも一ページ目がよろしい。
これだけで、十分ようございます。あとは蛇が人間に憑りつく(しかも複数の人間が憑りつかれている)話の中で主人公の女性が内省していく怪奇譚。よくあると言えばよくある話なんですが、憑りつき方が面白くてやがて怖いですね。最後はもう暴走気味でこんな面白い文章も書ける人なのかとニヤリ。
文章フェチの私としては、「あると思います!」的な感じ。
「消える」
。。。。。まあよくこれだけ不思議な文章を連ねたものです。塩味提督のお言葉通り、最初のつかみが上手くてずるずると引き込まれていきます。和風シュールレアリスムとでも言いましょうか。一応褒め言葉です。
「惜夜記(あたらよき)」
これは分かりやすい、川上弘美版「夢十夜」。
最初の話の「1 馬」の冒頭。
フムフムなるほどと思う。そして最終話の「19 イモリ」の結びの文に
と書いてあります。
「4 ビッグ・クランチ」では少女の吐息が百合の香りです。
漱石が「夢十夜」を書いたのは1908年のこと。この作品が書かれたのは1995-6年頃だそう。ここは90年ちょっとだろとか固いことは言わずに「百年はもう来ていたんだな」と思ひたまへ。
百年の間には、「シュレジンガーの猫」「クローニング」「ブラックホール」「フラクタル」「アポトーシス」といった新ネタも出ては来ますが、人間の見る夢の不可思議さは変わらない。川上弘美の「うそばなし」はそのことを教えてくれます。秀作です。
川上弘美を読むシリーズ
神様
センセイの鞄
「蛇を踏む]
芥川賞を踏んでしまった作品。塩味提督曰く「1mmも面白くない」短編。ふむふむ、塩味提督には合わんわなあ。でも一ページ目がよろしい。
ミドリ公園に行く途中の藪で、蛇を踏んでしまった。(中略)
蛇は柔らかく、踏んでも踏んでもきりがない感じだった。
「踏まれたらおしまいですね」と、そのうちに蛇が言い、それからどろりと溶けて形を失った。煙のような靄のような曖昧なものが少しの間たちこめ、もう一度蛇の声で「おしまいですね」と言ってから人間のかたちが現れた。
「踏まれたので仕方ありません。」
これだけで、十分ようございます。あとは蛇が人間に憑りつく(しかも複数の人間が憑りつかれている)話の中で主人公の女性が内省していく怪奇譚。よくあると言えばよくある話なんですが、憑りつき方が面白くてやがて怖いですね。最後はもう暴走気味でこんな面白い文章も書ける人なのかとニヤリ。
「ヒワ子ちゃん、いいかげんに目をさましなさい」女が言う(これ蛇です)。
「目をさますのはあなたでしょう」
「そんなこと言って」
女はぐいぐい首を締める。気持ちいいんだか苦しいんだが、女は相変わらずへんな顔だ。それならばと思って女の首を締め返す。
青く放電するものであたりは目を開けていられなくなるほど明るく輝き(中略)部屋はものすごい速さで流されてゆく。
文章フェチの私としては、「あると思います!」的な感じ。
「消える」
。。。。。まあよくこれだけ不思議な文章を連ねたものです。塩味提督のお言葉通り、最初のつかみが上手くてずるずると引き込まれていきます。和風シュールレアリスムとでも言いましょうか。一応褒め言葉です。
「惜夜記(あたらよき)」
これは分かりやすい、川上弘美版「夢十夜」。
最初の話の「1 馬」の冒頭。
背中が痒いと思ったら、夜が少しばかり食い込んでいるのだった。
フムフムなるほどと思う。そして最終話の「19 イモリ」の結びの文に
泡のようないくつもの夢を、夜の間に見るために、深い眠りについた。
と書いてあります。
「4 ビッグ・クランチ」では少女の吐息が百合の香りです。
漱石が「夢十夜」を書いたのは1908年のこと。この作品が書かれたのは1995-6年頃だそう。ここは90年ちょっとだろとか固いことは言わずに「百年はもう来ていたんだな」と思ひたまへ。
百年の間には、「シュレジンガーの猫」「クローニング」「ブラックホール」「フラクタル」「アポトーシス」といった新ネタも出ては来ますが、人間の見る夢の不可思議さは変わらない。川上弘美の「うそばなし」はそのことを教えてくれます。秀作です。
川上弘美を読むシリーズ
神様
センセイの鞄
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馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
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