kon吉さん
レビュアー:
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+或る「本が好き!」レビュアーの読書遺産+
本書は故・山村修氏が生前<匿名書評家・狐>として発表されていた書評群を収めたものである。
1テーマ毎に2冊の本を書評している。たとえば「新しい人」というテーマのもとに、『龍馬の手紙』宮地佐一郎著と、『夜の果てへの旅』上下 セリーヌ著を4~5ページの文量のもとに一緒にレビューしている。
「声が聞こえる、姿が見える」というテーマの下で『志ん朝の落語』全六巻・京須偕充編と『能 梅若六郎』梅若六郎著を取り上げているがこの書評がとても楽しく、かつ深い。
<狐>は上記引用で(宣言するように)と但し書きを入れた京須偕充の仕事が素晴らしいと言う。この但し書きがあることで、「あたくしは、好きです」のやや高めの声のトーンを読者が想像することができ、笑いを生むのだとする。
<狐>の書評を読むと、自分がいかに多くの事柄を一緒くたに「楽しい」「素晴らしい」などといった利便性の高い言葉に押し込めていることに気づく。一口に黒と言っても、そこには墨色、薄墨、栗色、漆黒、濡羽色、鉄黒、消炭色、憲房色と多くの呼ばれない色名があるのだ。プロで書評を書く人のすごさを本書を読んで感じた。今後素人ながらレビューを書くうえで少しでも参考にしたいものだ。
さて、私はもう一人素晴らしい匿名書評家を知っている。
先日本サイトを退会されてしまったb-be-bさんだ。
退会前、ありがたいことにメールをいただいたのだが、本サイトがどうと言うわけではなく、ネットは今後、メールの利用のみにとどめるお考えのようだ。個人的にb-be-bさんのレビューがとてもとても好きだったので、自分でも驚くほど茫然としてしまった。
b-be-bさんの書評は、特に小説に対する深い洞察と美しく詩的な文章が特徴だった。
以下『うたかたの日々』純粋さと現実のこと、幸福と苦しみのこと 。より抜粋。
素晴らしく的を得ていて、けれん味のない、透明な文章だと思う。凛とした空気をまとった文章だ。何かと大げさになってしまう私の文とは雲泥の差である。最後に私がb-be-bさんの書評の中で最も好きな文章は、『ルナアル詞華集』の書評の中のこんな文章だ。
上記のように本に向かい合うb-be-bさんの表情はたぶんこの先もずっと笑顔だろうなと思うのだ。
<匿名書評家b-be-bの読書遺産>どれも素晴らしかったです。ありがとうございました。
1テーマ毎に2冊の本を書評している。たとえば「新しい人」というテーマのもとに、『龍馬の手紙』宮地佐一郎著と、『夜の果てへの旅』上下 セリーヌ著を4~5ページの文量のもとに一緒にレビューしている。
「声が聞こえる、姿が見える」というテーマの下で『志ん朝の落語』全六巻・京須偕充編と『能 梅若六郎』梅若六郎著を取り上げているがこの書評がとても楽しく、かつ深い。
目で追う活字がそのまま、あの志ん朝の声となって頭のなかに聞こえてくる。棒読みなど、たとえしたくても不可能だ。声のほうから否応なくひびいてくる。~中略~「えェ、よく、噺のほうでご婦人を採り上げますけども、うゥ、やっぱりご婦人というのは、いいもんでしてェ・・・、(宣言するように)あたくしは、好きです。ンなことは・・・(と、照れて)。ただあの・・・、」
<狐>は上記引用で(宣言するように)と但し書きを入れた京須偕充の仕事が素晴らしいと言う。この但し書きがあることで、「あたくしは、好きです」のやや高めの声のトーンを読者が想像することができ、笑いを生むのだとする。
<狐>の書評を読むと、自分がいかに多くの事柄を一緒くたに「楽しい」「素晴らしい」などといった利便性の高い言葉に押し込めていることに気づく。一口に黒と言っても、そこには墨色、薄墨、栗色、漆黒、濡羽色、鉄黒、消炭色、憲房色と多くの呼ばれない色名があるのだ。プロで書評を書く人のすごさを本書を読んで感じた。今後素人ながらレビューを書くうえで少しでも参考にしたいものだ。
さて、私はもう一人素晴らしい匿名書評家を知っている。
先日本サイトを退会されてしまったb-be-bさんだ。
退会前、ありがたいことにメールをいただいたのだが、本サイトがどうと言うわけではなく、ネットは今後、メールの利用のみにとどめるお考えのようだ。個人的にb-be-bさんのレビューがとてもとても好きだったので、自分でも驚くほど茫然としてしまった。
b-be-bさんの書評は、特に小説に対する深い洞察と美しく詩的な文章が特徴だった。
以下『うたかたの日々』純粋さと現実のこと、幸福と苦しみのこと 。より抜粋。
わたしも、ずっとそのことを考えていた。クロエはなぜ死ななければならなかったのか。
著者が冒頭に書いたように、クロエは人生でたいせつにすべき「きれいな女の子との恋愛」そのものであり、ここは「その他のものはみんな醜い」世界だ。コランとクロエの転落の分岐点はどこにあったろうか。何を機に、現実はコランの前に強固さを増し、クロエの肺に睡蓮を咲かせたのだったか。そして、その結末が悲劇であったのはどういうことか。考えることは、この物語に書かれている恋愛や純真さの意味も揺るがしてしまう。
だが、この美しい小説を自分勝手に解釈してしまうのは、つまらないことだ。わたしはもうあまり考えない。本作は、レーモン・クノーのいうところの「現代においてもっとも悲痛な恋愛小説」(『心臓抜き』序文)であり、本作を楽しむには、著者にしか書けない、喜びや苦しみの喩におどろき、愛することがふさわしいにちがいない。
素晴らしく的を得ていて、けれん味のない、透明な文章だと思う。凛とした空気をまとった文章だ。何かと大げさになってしまう私の文とは雲泥の差である。最後に私がb-be-bさんの書評の中で最も好きな文章は、『ルナアル詞華集』の書評の中のこんな文章だ。
ルナアルの言葉は美しい。ユーモアがある。毒がある。痛々しい繊細さがある。
気にいった言葉があっても、付箋は貼らない。ただ、ぱらぱらと拾い読みをする。そうすると、ルナアルのとりとめのないことばと、ぼんやり本を読むわたしのとりとめのない思考がまざって、そういうのが、とてもいいと思って、度々本書を手にとる。
上記のように本に向かい合うb-be-bさんの表情はたぶんこの先もずっと笑顔だろうなと思うのだ。
<匿名書評家b-be-bの読書遺産>どれも素晴らしかったです。ありがとうございました。
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かしこまったものは書けませんが、
マイペースに書いていけたらと思います。
よろしくお願いします.
この書評へのコメント
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- かもめ通信2014-07-14 09:59b-be-bさん,kon吉さんのこのレビューや皆さんのコメントを読まれて,とても感激しておられました。 
 退会するとここにコメントしたり,個別のメッセージを送ることが出来ないので,他の連絡先がわかった私のところに伝言が届きました。
 皆様にくれぐれもよろしくとのことです。
 時々,時間があるときには,みなさんの書評を覗きに来てくださるそうですから,miol morさんもしょんぼりなさらずに,ぜひ書評をアップしてくださいね!
 「読みに来て~」といった伝言係ならいつでも引き受けますので。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
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