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Wings to fly
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ポルトガルの小さな漁師町から届いた、小さな幸せの風景画。(祝! #書肆侃侃房15周年 記念読書会 参加書評)
南ポルトガルの、日本人はおろかアジアの人もいない田舎の漁師町での14年を綴ったエッセイである。著者の青目さんは劇団「天井桟敷」(寺山修司主催・60~70年代に起きた小劇場ブームの担い手)の創立メンバー、脚本家でもある。巡り合った人生の伴侶はマグロの蓄養を手掛けており、ご夫妻はモロッコやスペインを経てポルトガルに引っ越してきた。

引っ越したその日に夕食に誘われたスペインとは違い、挨拶をしても無視され、買い物をした店でも無視される。深い孤独を癒やしたのは「ども、ども、奥さん。」と笑いながら寄ってくる、町の至る所に放し飼いにされた人懐こい犬たち。そして、足に水かきがあって平泳ぎが得意なポルトガル・ウォータードッグ、愛犬アトゥンであった。とはいえ、月日を重ねて少しずつ人の輪は広がってゆく。色んな国からやってきた人間の友だちと犬の友だちのエピソードには、人肌の温もりがある。

夜明けに響く教会の鐘の音、大きなやしの木から囀り飛び立つ小鳥たち、青い空と海が広がる港。カフェのカウンターに立てば、何も言わずとも好みのガロット(泡たっぷりのエスプレッソのカフェオレ)が出てくる。路地では子どもたちが暗くなるまで遊び、鰯を焼く煙が立ちのぼる頃には夕飯のおかずのやりとりが始まる。子どもを呼ぶ母親の声、家々に灯る明かり。人々は正直で他所者にはなかなか打ち解けず、涙もろくて情に厚い。

ひと昔前の日本にちょっぴり似ていて懐かしいような町だが、口絵の写真を見れば異国情緒に浸ってしまう。船べりに並んで海を見ている日本男児の漁師と真っ黒でモジャモジャの犬の背中には、何も言わずとも気持ちが通じ合っているのが見てとれて、微笑ましい。

「私はいまポルトガルの漁師町で
ささやかな幸せを拾い集めながら暮らしている。」

穏やかな日々を得るまでに耐えた寂しさを思う。挨拶を交わし、人と触れ合い暮らすことの愛しさを思う。四切れ残ったかまぼこを夫と犬が食べてしまい、地団太踏んで泣いた時のニッポン恋しさを思う。優しさを与え合う人々、人と犬が友だちづきあいする町の、心温まる風景画を届けてくれた青目さんに、オブリガーダ!

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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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