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ぽんきち
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さまざまな民族が語り継いだ、魅力あふれる物語たち
コミック『シュナの旅』絵本『犬になった王子』とたどってきて、本書。
『シュナの旅』はチベット民話『犬になった王子』をベースにした物語であり、『犬になった王子』は本書に収録された6話のうちの1つである。
本書の副題は「中国のたのしいお話」。中国のさまざまな民族が語り継いできた物語を子供向けにアレンジして訳したものである。

中国の人々の大部分は漢民族であるが、一方で、中国は、五十を超える少数民族を擁する多民族国家でもある。全国人民代表大会のニュースで、さまざまな民族衣装を着けた少数民族代表の姿が映ることがあることからもうかがえる。
本書では、イ族(「九人のきょうだい」)、チベット族(「犬になった王子」)、プーラン族(「天地のはじめ」)、漢族(「ねこ先生と、とらのおでし」)、タイ族(「くじゃく姫」)、パイ族(「白いりゅう黒いりゅう」)の6民族から1話ずつ採っている。

「九人のきょうだい」は独立して絵本にもなっているので、ご存知の方も多いだろう。見かけはそっくりだがさまざまな能力を持つ九人兄弟。横暴な王様をぎゃふんと言わせる痛快なお話。

「犬になった王子」。前出の絵本と筋書きは同じだが、赤羽末吉の素朴で大らかな挿絵とともに読むとまた違った趣で味わい深い。

「天地のはじめ」は、タイトル通り、天地創生物語。なかなかスケールが大きい。巨人の神様グミヤーが、巨大な「サイ」のようなけものの身体を元にして、天地を創る。人が働き、小鳥が舞い、ミツバチが飛び、魚が泳ぐすばらしい天地。ところがこの世界をうらやましく思った太陽の九人姉妹と月の十人兄弟が押しかけてきたからさあ大変。暑さで生き物たちは焼け焦げ、地面も干上がってしまう。怒ったグミヤーは太陽や月を弓矢で射落とし始めて・・・。さぁ世界はどうなってしまうのか。天岩戸のようなシーンもあり、いろんな動物が活躍して楽しい。

「ねこ先生と、とらのおでし」はとんち話のような一編。むかしむかし、とらはぶきっちょでのろまだった。そこですばしこいねこを先生にして、いろんな技をならうことにする。けれどもとらは性悪で、最後にはねこ先生を食べてしまおうと思っていた。とはいえ、実のところ、ねこ先生の方が一枚上手で・・・。

「くじゃくひめ」は、羽衣伝説がもう一段階、二段階、複雑になったようなお話。身体も心も美しいおとめを探し求める王子。七日に一度、みずうみを訪れる七人のおとめのことを知る。くじゃくの姿で舞い降り、羽衣を脱いでおとめの姿になる。しかし、ひとときを過ごすと、またくじゃくに戻って飛び去ってしまう。王子がおとめと恋に落ち、結婚するまでが前段。後半は悪い大臣によって引き裂かれた2人が、再び幸せを手にするまで。紆余曲折があっておもしろい。

表題作の「白いりゅう黒いりゅう」。パイ族の住む地に白竜廟という竜を祀る建物があり、その縁起が語られたものと思われる。竜が淵に1匹の黒いりゅうが住んでいた。これがとんでもない乱暴者で、洪水を巻き起こしたり、人を引きずり込んで食べてしまったりで、人々はとても困っていた。そこを通りがかった大工の棟梁。水を汲みにいった息子を食われてしまい、村人たちとりゅう退治をする決心をする。棟梁と村人たちの渾身の願いを込めた木彫りの白いりゅうは、黒いりゅうに勝てるのだろうか。

巻末の「訳者のことば」が、簡潔にわかりやすく、本書の背景を解説する。
中国少数民族には、文字を持たなかったり、ほとんど使わなかったりであった民族も多い。お話を語って歩く職業があった民族もある。そうしたことから、これらのお話の多くは口承文学として伝わってきたものと言える。語り継がれたお話の中には、二晩も三晩も続くような長いものもあり、必然的にストーリーも込み入ったものになる。
本書に収録された物語は子供向けに整理されているが、なるほどそうした口承文学らしい片鱗をうかがわせるものもある。

口承文学の奥深さを感じさせる楽しい1冊。


参考:『苗族民話集』 *こちらも中国の少数民族の1つ。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1828 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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この書評へのコメント

  1. Wings to fly2022-11-21 20:37

    こんばんは〜。
    これは小学生の頃に何度も読んだ本で、書評を懐かしく拝読しました。(親が買ってくれた1964年発行の第一刷をいまだに持っていますが、380円でした。)
    「訳者のことば」を読み返してみました。「天地のはじめ」を語り伝えたプーラン族は、「雲南省の南の果ての原始林で昔ながらの生活を営んでいます」と書かれていていますが、今はどうなっているんでしょう。お話を採取して残す事業の大切さを、あらためて感じました。
    岩波のおはなしの本シリーズ、『天からふってきたお金』(トルコのホジャの楽しいお話)はお読みになりましたか?和田誠さんの挿絵も素敵で、たいへん面白いです^ ^ お気が向いた時にでも。

  2. ぽんきち2022-11-21 21:44

    おすすめ、ありがとうございます(^^)。
    岩波のおはなしの本シリーズhttps://www.iwanami.co.jp/book/b255066.htmlで、子供の頃うちにあったのは「かぎのない箱」でした。
    あとはもしかしたら学校図書館で借りたことがあるものがあったかも?という感じで、この「白いりゅう黒いりゅう」は多分、初読だと思います。
    トルコのホジャや同じシリーズのポルコさまは何となく名前を憶えています。ホジャ、今度借りてこようと思います(^^)。

    仰る通り、お話を残す仕事はとても大切なことだと思います。
    プーラン族は元々文字を持たない民族ですが、現在はアルファベットで表記する体系があるようです。中国語やタイ語を話す人もいるようで、いろんな意味で徐々に近代化はなされているのかもしれないですね。
    プーラン族はお茶を栽培し始めた最も古い民族の1つなんだそうで、現在でもプーアル茶の栽培が盛んだそうです。

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