紅い芥子粒さん
レビュアー:
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鷗外がドイツ留学中の恋をモチーフに書いたという小説「舞姫」。著者は、舞姫のモデルとなった女性の実像を、執念の調査で明らかにしていく。
森鴎外は、1884(明治17)年8月から1888(明治21)年9月まで、ドイツに留学していた。小説「舞姫」が、留学中の恋の物語であることは、よく知られている。
「舞姫」の主人公の名は、豊太郎。
ヒロインは、貧しい踊り子エリス。
ふたりの悲恋が高雅な文体でつづられているが、エリスの側に立って読めば、男の弱さ身勝手さに悲憤の涙が湧いてくるような物語だ。
 
豊太郎と同じように、鷗外も恋人をドイツに置いて帰国する。
恋人が、鷗外を追って日本へ来たのは、そのわずか四日後だ。
当時のことだから、50日もかけての船旅である。
鷗外の恋人の名は、Elise Wiegert(エリーゼ・ヴィーゲルト)。
乗船名簿から確定された。
森家の人々は、よってたかってエリーゼをドイツへ追い返してしまう。
滞在期間は、およそ一か月だった。その間、彼女は、ずっとホテルに宿泊していた。
エリーゼはどんな女性だったのだろうか。
鷗外と別れて帰国してから、どのような人生をあゆんだのだろうか。
「鷗外の恋 舞姫エリスの真実」の著者は、ベルリン在住のライターである。
ビール酒場でたまたま居合わせた男性から、思いがけない話を聞き、エリーゼ探しの旅が始まったという。
彼は、こういったのだ――ぼくのおばあちゃんのダンスの先生は、オーガイという日本人の恋人だったんだ――
よくよく話を聞いていくと、おばあちゃんのダンスの先生は、彼の曾祖母だということがわかった。名前と生年月日を確かめるために、お墓にまで案内してもらった。
残念ながら、彼のひいおばあちゃんの名はエリーゼ・ヴィーゲルトではなく、年齢もエリーゼの推定年齢とはかけはなれていた。
しかし、エリーゼ探しの情熱の炎は、著者の胸から消えることはなかった。
著者は、鷗外の作品や、鷗外の死後に発表された「舞姫」関連の資料を、日本から取り寄せて読み込んだ。中には鷗外の恋人を、「路頭の花」と賤しむ説もあった。
それが、男尊女卑の時代に恋人を追って、たったひとりで海を渡ってきた勇気ある女性に、投げつける言葉だろうか。著者は、舞姫の名誉のためにも、エリーゼの実像を明らかにしたいと考える。
「舞姫」の記述から、豊太郎とエリスが出会った教会やエリスが住んでいた家、ふたりが歩いた街を訪ね歩いた。
州立、王立、市立の公文書館、国立図書館、博物館、教会などに何度も出向き、
Elise Wiegertという女性の記録を探した。
そして、ついに鷗外の恋人を探し当てた。
エリーゼは、1866年、現ポーランドのシュチェチンで生まれ、鷗外と別れた後は、帽子製作者として生きたということがわかった。
エリーゼが来日中、実は鷗外は、頻繁に彼女に会いに行っていたらしい。
二人は、何を語り合ったのだろう。
鷗外は家も国も地位も捨ててドイツへ行くつもりだったのではないか、と著者は推測する。しかし、結局ドイツへ行けなかったし行かなかった。
鷗外は、心の弱さからエリスを捨てた「舞姫」の豊太郎なのだ。
エリーゼは、「舞姫」のエリスとはちがっていた。
男に裏切られても、気が狂ったりはしなかった。
誇り高く自立して生きた。
そんなエリーゼは、鷗外の生涯の恋人だった。
「舞姫」の主人公の名は、豊太郎。
ヒロインは、貧しい踊り子エリス。
ふたりの悲恋が高雅な文体でつづられているが、エリスの側に立って読めば、男の弱さ身勝手さに悲憤の涙が湧いてくるような物語だ。
豊太郎と同じように、鷗外も恋人をドイツに置いて帰国する。
恋人が、鷗外を追って日本へ来たのは、そのわずか四日後だ。
当時のことだから、50日もかけての船旅である。
鷗外の恋人の名は、Elise Wiegert(エリーゼ・ヴィーゲルト)。
乗船名簿から確定された。
森家の人々は、よってたかってエリーゼをドイツへ追い返してしまう。
滞在期間は、およそ一か月だった。その間、彼女は、ずっとホテルに宿泊していた。
エリーゼはどんな女性だったのだろうか。
鷗外と別れて帰国してから、どのような人生をあゆんだのだろうか。
「鷗外の恋 舞姫エリスの真実」の著者は、ベルリン在住のライターである。
ビール酒場でたまたま居合わせた男性から、思いがけない話を聞き、エリーゼ探しの旅が始まったという。
彼は、こういったのだ――ぼくのおばあちゃんのダンスの先生は、オーガイという日本人の恋人だったんだ――
よくよく話を聞いていくと、おばあちゃんのダンスの先生は、彼の曾祖母だということがわかった。名前と生年月日を確かめるために、お墓にまで案内してもらった。
残念ながら、彼のひいおばあちゃんの名はエリーゼ・ヴィーゲルトではなく、年齢もエリーゼの推定年齢とはかけはなれていた。
しかし、エリーゼ探しの情熱の炎は、著者の胸から消えることはなかった。
著者は、鷗外の作品や、鷗外の死後に発表された「舞姫」関連の資料を、日本から取り寄せて読み込んだ。中には鷗外の恋人を、「路頭の花」と賤しむ説もあった。
それが、男尊女卑の時代に恋人を追って、たったひとりで海を渡ってきた勇気ある女性に、投げつける言葉だろうか。著者は、舞姫の名誉のためにも、エリーゼの実像を明らかにしたいと考える。
「舞姫」の記述から、豊太郎とエリスが出会った教会やエリスが住んでいた家、ふたりが歩いた街を訪ね歩いた。
州立、王立、市立の公文書館、国立図書館、博物館、教会などに何度も出向き、
Elise Wiegertという女性の記録を探した。
そして、ついに鷗外の恋人を探し当てた。
エリーゼは、1866年、現ポーランドのシュチェチンで生まれ、鷗外と別れた後は、帽子製作者として生きたということがわかった。
エリーゼが来日中、実は鷗外は、頻繁に彼女に会いに行っていたらしい。
二人は、何を語り合ったのだろう。
鷗外は家も国も地位も捨ててドイツへ行くつもりだったのではないか、と著者は推測する。しかし、結局ドイツへ行けなかったし行かなかった。
鷗外は、心の弱さからエリスを捨てた「舞姫」の豊太郎なのだ。
エリーゼは、「舞姫」のエリスとはちがっていた。
男に裏切られても、気が狂ったりはしなかった。
誇り高く自立して生きた。
そんなエリーゼは、鷗外の生涯の恋人だった。
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書評掲載URL : http://blog.livedoor.jp/aotuka202
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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