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ぱるころ
レビュアー:
40歳までの三年間を追体験。その時その場所の空気…音、匂い、温度、全てが伝わってくる。
村上春樹が1986年から三年間、ヨーロッパに滞在したときの旅行記。
40歳という人生の節目をどのように迎えるか、をテーマとしており、旅のはじめに37歳だった著者は、旅の途中で40歳を迎える。

ローマを拠点としてイタリア・ギリシャを中心とする各地を訪れるこの旅は、「移住」ではなく「旅行」である。その間、著者は二つの長編小説『ノルウェイの森』『ダンス・ダンス・ダンス』を書き上げた。
少し前に読んだ写真付きエッセイ『使いみちのない風景』の中で、「旅行者にとって重要なのは通り過ぎていく作業だ」という言葉が印象に残っていたが、その言葉がまさにこの旅行記と重なる。


この本は、様々な国や島でのワンシーンを読者が「追体験」する、という表現が相応しい。
ギリシャのミコノス島では、白ワインに魚介中心の地元の料理で妻と寛ぎながら、働く気のないレストランの店員や地元客のお喋りを観察してあれこれ想像を巡らせたり、野良猫の「島民性」について考えたりする。
一つ一つの場面や出来事が、その時その場所の空気感を伝え、読者の心を惹きつける。そこにはリアルさだけでなく、旅行記としての面白さがある。知らない土地での生活は大変なことも多いが、文章に溢れるユーモアと明るさから、海外生活が羨ましくなるほどだ。


『文章を書くことは難しい。でも、文章の方は書かれることを求めている。』
旅行中このように捉えていた「文章を書くこと」について、旅の終わりの章では次のようにまとめている。
『文章を書くというのはとてもいいことだ。最初にあった自分の考え方から何かを「削除」し、そこに何かを「挿入」し、「複写」し、「移動」し、「更新して保存する」ことができる。自分という人間の思考やあるいは存在そのものがいかに一時的なものであり、過渡的なものであるかということがよくわかる。』

本書の冒頭で著者も述べている通り、日常にかまけて何となく歳を取ることができるからこそ、人は正気を保っていられるのだろう。しかし、著者はどのようにして40歳を迎えるべきかということを考え、旅に出た。私たちもどこかで一度、立ち止まって考えてみたくなるかもしれない。そんなとき、この旅行記の追体験がきっと意味を持つはずだ。

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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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