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ぱるころ
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茨木のり子の熱い語りは、厳しさの中に優しさがある。
詩人 茨木のり子が、特に忘れがたいという谷川俊太郎や川崎洋らの詩 計49編を選び、その魅力を語る。
先日読んだ『読書道楽』では、スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫が、本書を「(ジュニア新書ながら)大人になってから読んでも素晴らしい」と評していた。茨木のり子の熱い語りには、詩との出会いで心を豊かにしてほしいという願いが込められている。


吉野弘『I was born』は、〈生まれる〉が〈受け身〉であることに気付いた少年の詩。人間は自分の意志とは無関係に生まれさせられるんだと言った少年に対して父親が語ったのは、蜻蛉と、少年を産み落としてすぐに亡くなった母親のこと。

この詩を解説する茨木のり子の言葉は、厳しく優しい。
「受け身で与えられた命を、はっきりと自分の生として引き受け、主体的に把握しなければならないのです。考えてみれば、つじつまの合わない、かなり難解なことを、ひとびとはやってのけているわけなのでした。」

『I was born』とは対照的だと感じたのが、石垣りんの『幻の花』。

「庭に
今年の菊が咲いた。

子供のとき、
季節は目の前に
ひとつしか展開しなかった。

今は見える。
去年の菊。
おととしの菊。
十年前の菊。

遠くから
まぼろしの花たちがあらわれ
今年の花を
連れ去ろうとしているのが見える。
ああこの菊も!

そうして別れる
私もまた何かの手にひかれて。」

幼い頃は夏も冬もとにかく長くて、まるで永遠のようだった。しかし、経験が増えるにつれて、「今」が終わってしまうことを想像せずにはいられなくなる。あの人の去っていく気配がする…そして、その予感は当たる。

『I was born』のハッとする気づきに対し、こちらはうっすらと知っているような感覚を「完成形」にしたものだと感じた。


「生まれて」「恋唄」「生きるじたばた」「峠」「別れ」のテーマ順に詩を辿っていく本書は、人間の一生のようだ。
岸田衿子の『くるあさごとに』から始まる「生きるじたばた」の章は、私にとってまさに今かもしれない。次章「峠」にも同じく岸田衿子の『一生おなじ歌を 歌い続けるのは』が載っている。
茨木のり子は、峠は人生でいうところの40代50代にあたり、「過ぎこしかたが一望のもとにみえ、これから下ってゆく道もくっきり見える地点」と表現している。

この本が書かれた1979年と今とでは違いもあるかもしれないが、今の私にはまだ、峠からの景色は見えない。
あるときは何でもなく通り過ぎた詩も、別のときに出会えば、忘れられない一編になる。私にもきっといつか、「峠」の詩を探すときが来るのだと思う。

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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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