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Wings to fly
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中世ヨーロッパ貴族階級の日常を生き生きと描く珠玉の一冊。
「騎士」が登場する本はたくさんあるけれど、彼らがどうやって騎士になったかは考えたことがなかった。そうかそうか、中世ヨーロッパの貴族階級に生まれた男の子が騎士を目指すなら、礼儀と武術を習うための修行は身分の高い人の「小姓」から始まるのだ。本書はイギリスの男爵の甥っ子トビアス・バージェス君(11歳)が、伯父上のお城で小姓として暮らす1年間を日誌の形で描いている。

小姓の役目ってどんなこと?誰からどんな教育を受けるの?狩猟や武術大会に宴会、食事に裁判に医療、領民の義務やお城のトイレ事情まで細やかに描き上げ、貴族たちの領地での暮らしぶりが生き生きと伝わってくる。とにかく「お城暮らしの一年間」を男の子の視線でユーモラスに、物語として綴ってゆく文章が良い。おっかない城代やすぐにお尻をぶつ司祭様の表情も、当時(1285年頃)の衣装や武器や食べ物も「ほらほら、こんなです」と見せてもらえるところも嬉しい。情感豊かな絵といい、歴史資料としての読みどころといい、大人も満足させてくれる美しい本である。

巻末の「もっと知りたい読者のために」は、13世紀イギリスの身分制度や戦い方をはじめとする社会事情が詳しく解説されている。それを読んだら、なぜ作者が物語の背景にこの時代を選んだのかがよくわかった。もうすぐ登場する大砲により、戦争のやり方も変わりお城は無用のものとなるのだ。トビーの子ども時代は「騎士道華やかなりし時代」の終わり頃だったのである。

騎士になるには、剣や弓の腕前と礼儀作法と教養の他に武具や馬も従者も必要だから、お金がかかる。長子相続の慣習の中では、男爵の弟であるトビー君の父上はあんまり裕福ではなさそうだ。さて、トビー君にはこの後どんな人生が待っているのかな。騎士とはつまり、軍人である。英仏百年戦争は半世紀くらい後のことなのだから、せめて平穏な人生を送って欲しいものだ。そんな風に祈ってしまうのも、本書に描かれた遥か昔の純朴な人々の営みが、とても愛しく思えるからだろう。

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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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