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ゆうちゃん
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ポアロはカナダからわざわざ訪ねてきた若い女性に16年前の母の冤罪を晴らして欲しいと頼まれる。有罪を確定させるかもしれないと言いつつポアロは16年前のことを関係者に尋問して回る。回想の殺人の第一作。
ポワロもの第二十二作目。今回はぐっとプロットが変わり過去の殺人事件の調査という趣向である。

ある日、ポアロの許に若く美しいカーラ・ルマルションという女性が訪ねてきた。彼女は、実の名をカロリン・クレイルと言い、カロリンは母の名をとったものだった。しかし、母カロリンは父親で画家のアミアス・クレイルを殺した容疑で裁判にかけられ、容疑を否認したまま、獄中で亡くなっていた。カーラはカナダにいる叔父夫妻に引き取られ、21歳になったになった時、亡き母の手紙を手渡されてこの事件を知った。母は手紙の中で無実を主張している。カーラは、今ジョン・ラグリーという青年と婚約中で、結婚に当たり母の冤罪を晴らす目的でポアロを訪ねた。ポアロは実際には母の有罪を確認することになるかもしれないと留保条件をつけながら、カーラの依頼を引き受けた。
ポアロは、最初はカーラの弁護士と捜査にあたった警視を訪ねた。弁護士たちはカロリンが容疑を否認しながらも、無罪に向けてあまり協力的ではなかったという。ヘイル元警視は犯罪の状況をポアロに教えた。当時アミアスはモデルの若い女性エルサに夢中で、妻の前でエルサの方が公然と「アミアスがカロリンと別れて自分と結婚するのだ」と言いだす始末だった。アミアスはそれを積極的に否定せず、絵の完成にしか関心がなかった。クレイル夫妻にはブレイク兄弟という知り合いがいて、カロリンとも幼い頃から親しかった。事件の前日、ブレイク兄弟の兄メレディスはお茶にクレイル家の人間を呼んだ。クレイル夫妻、クレイル家に滞在中の自分の弟フィリップ、カロリンの妹アンジェラ、モデルとして家に来ていたエルサの五人である。彼はソクラテスの死の場面を朗読し、薬草に関して、毒人参を煎じてコニインという毒を抽出したという話をした。ところが、翌朝になって自分が抽出した筈のコニインが殆どなくなっていることに気づいた。慌ててクレイル家に行き、そこで弟のフィリップにこのことを相談したが良い策が浮かばない。事件のあった9月17日の朝、クレイル家ではアミアスとカロリンがエルサのことで喧嘩をし、カロリンは殺すという言葉を口にしていた。それを庭にいたエルサと通りかかったフィリップが一部聞いている。それからアミアスはエルサをモデルに母屋から離れた砲台庭園という高台でエルサの肖像画を描き始めた。その日は暑く、四阿のビールを飲んだが生ぬるく、カロリンが冷たいビールを運んで来てくれた。アミアスはそれもまずいと言い、皆と一緒に昼食も摂らずに、絵を描き続けた。昼食を終えてカロリンとアンジェラの家庭教師ウイリアムズ先生が砲台庭園に行くと、アミアスは亡くなっていた。死に方に疑問があり、メレディスが毒の紛失を申告したので、検死は厳密に行われたが、アミアスはコニインで死んだことが判明し、それを入れた瓶が、カロリンの部屋で見つかった。カロリンは三日後に逮捕され、裁判で有罪とされた。カーラも当時はまだ子供だったカロリンの妹のアンジェラも外国に送られた。
ポアロは、5人の証人、ブレイク兄弟とアンジェラ、ウイリアムズ先生、そして今ではディティシャム卿夫人となっているエルサを訪ね事件のことを訊く。そして彼らひとりひとりに事件の時のことを文章に書いて送って欲しいと頼んだ。ウイリアムズ先生はエルサに夢中になったアミアスに反感を持ちカロリンには同情的だったが、事件に関して裁判でも話さなかったカロリンに決定的に不利なある事実を明らかにした。

回想の殺人は、特にミス・マープルの後期の作品によくみられるものだが、解説によればこの形式は、ポアロ長編の本書が最初だという。結婚にあたり親の冤罪を晴らして欲しいというプロットはルース・レンデルのウェクスフォード主任警部ものでも読んだ。本書の方が先なのでレンデルは本書に刺激されて書いた可能性はあるが、中身はまるで違う。
五匹の子豚とは五人の証人のことで、例によってマザー・グースに因んだものである。直近の作品では「愛国殺人」がそのひとつではあるが、自分はマザー・グースになじみがないので、あまり意味は読み取れない。
美しい殺人というものはありそうもないが、本書を最後まで読むと(動機や関係者の行動などにおいて)美しい殺人事件というのはありそうなことだなと思った。そういう意味では二回どんでん返しがあるが一回でよかったのではないか。本書は本格もののミステリなので、どんでん返しは何度でもあった方が良いのだが、この辺は僕と他の人の意見が分かれるところかも知れない。
回想の殺人の第一作だが、全体構成としてはあまり評価出来ない。と言うのも同じ事件の描写を弁護士、警視、5人の関係者と繰り返し読まされるからだ。しかも5人の証人の陳述はポアロのインタビューと彼らに依頼した手記とで各人2回もあるという念の入れようである。つまり同じ事件を10回以上聞かされる訳で、これはさすがに飽きるだろう。ポアロの推理は見事なのでこの点が残念である。
本書は過去の調査に重きを置いているので、他の事件への言及はない。捜査もポアロ単独であり助手格の人もいない。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1689 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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