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星落秋風五丈原
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いやはや 末恐ろしいシックスティーン
 僕の初恋はクラスメイトのカルメンだ。いっちょまえに恋文を書くが、校長先生に見つかってしまう。当初校長先生は僕の懇願を聞いてクラスメイトに内緒にする。ところが、僕は結局自分で父親にばらしてしまう。クラスメイトからは一人前の男扱いされ、担任の先生からは目くばせされる。やはりフランスは恋愛大国。恋に対しては寛大だ。

学校でほかの生徒を引き寄せるためのおとりとして使われ

るほど優秀な僕は、両親なんぞ手玉に取るのはお手の物。そうでなくても
私はいつでもお前が望むように行動させてきた。これからもそれを続けるんだ。たぶん私は後悔させられるだろうがね

と、パパは甘々だ。同じ男としての共闘意識だろうか。甘すぎる。

なんでも簡単に信じるほかのみんなと違って、彼らには手の届かないものに見えることが、僕にはありのままの現実に見えた。猫がガラスケースごしに見ているチーズのようなものだ。だが、チーズは見えているが、ガラスの壁も存在している。ガラスが割れれば、猫はその隙につけいってチーズをいただくだろう。


相変わらず、僕はガラスケースに隔てられていたチーズを眺めていた。だが、戦争がやって来た。戦争がガラスケースを割ったのだ。飼い主はほかの猫たちを鞭で追い払うのに手一杯で、飼い猫はこれでチーズをいただけるとほくそえんだ。


 自身をチーズを狙う猫に例えたり、いちいち言っていることが子供離れてしている僕は、グランジエ家のマルトと出会う。マルトには婚約者がおり、やがて結婚。普通ならここで終わりなのに、ガラスケースを割った戦争によって、夫は出征、僕とマルトは急接近。ガラスケースが割れ、おいしいチーズ=マルトが現れた。

 彼女の肉体に溺れながらも
僕とマルトは引き裂かれるだろう。僕たちは、すでに戦争が終わったときのことを考えていた。それが僕たちの愛の終わりになる。わかっているのだ。マルトがすべてを捨て、僕に付いてくると誓ったとしても無駄だった。僕は反抗し続けることができるような人間ではないし、マルトの立場にたってみても、そんな愚かな駆け落ち騒動を想像することはできない。

既に終わりを考えていたり
僕は愛なしでも我慢できると思っていたが、マルトに対してなんの権利もないことには耐えられなかった。そこで、権利を得るために、じつに嘆かわしいことではあるが、愛に訴える決心をした。僕はたんにマルトが欲しかったのだが、そのことを分かっていなかった。

これまでは、欲しいものはすべて、子供だからといって諦めなければならなかった。そのうえ、人がくれた玩具は、お礼をいわなければならないという義務感で楽しさが損なわれた。そんな子供にとって、自分から進んでやって来る玩具は、どれほど貴重なものに見えたことだろう!僕は情熱に酔っていた。マルトは僕のものだ。僕がそういったのではない。マルトがそういったのだ。

と相手や自分の動機を分析したり、実に賢い。

嘘をつくはずのないときこそが、いちばん嘘をつくときでもある。とくに、自分自身に対して、「嘘をつくはずのないとき」の女を信じることは、けちな人間が酔っぱらったときの気前のよさを信じるようなものだ。

 など、たかだか10年余り生きてきた少年がいう台詞とは思えない。マルトとの別れにおいても、嘆き悲しむのではなく、むしろこれは望んだ結果なのだと達観している。

  フランソワーズ・サガン、ジャン・コクトー、フランスの若手は恐ろしい。そして本作の著者レイモン・ラディゲも16歳で恋愛経験を散々積んできた大人のような文章を書いたのだから、やはり恐るべき子どもたちだ。恋に溺れるのさえ早い。恋を夢見たり、片恋の相手の事ばかり考えている年頃なのに、相手の肉体に溺れながら、なぜそんなにも、自分と恋愛を客観視できるのか。

 20歳で亡くなったラディゲ自身が体験した年上女性との恋愛が基になっている。
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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