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Wings to fly
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エゴイズムが発する澄みきった詩情。
平凡なストーリーが、忘れがたく心に刻印される。15歳の少年は年上の女性に出会い恋に落ちる。そして、女性の夫が戦地に行っている間に肉体関係を結んでしまう。その恋愛の心理が少年の目線で語られてゆく小説である。自分を冷静に見つめているようで、少年の言葉には強がりと自己過信が見え隠れする。年上の女性といってもまだ19歳で、激しい恋心と相手のエゴに翻弄されてしまう。若い純粋さが澄み切った詩情を漂わせる。タイトルの印象よりも、中味は断然美しい。

少年はたいへん聡明で、それゆえに早熟である。恋に溺れようとも、10代の少年に将来の希望のひとつくらいあっていいじゃないかと思うのだが、何も持っていないように見える。今この時を過ごすことと、恋を通じてのみ未来を考える少年は、刹那的で厭世的である。それは、この小説の背景に戦争があるからだ。
「僕はさまざまな非難を受けることになるだろう。でも、どうすればいい?戦争の始まる何か月か前に十二歳だったことが、僕の落ち度だとでもいうのだろうか?」

もし戦争がなかったら、マルトは平凡な若妻として過ごしただろうし、少年が一足飛びに大人になることもなかったかもしれない。しかし、この言い分はエゴイスティックであり、少年は自分のエゴすら冷徹に見つめるのだ。
「僕は若さというものにとても敏感だったから、マルトの若さがしおれて、僕の若さが花開くとき、自分がマルトから離れるところを想像しないわけにはいかなかった。」

かなり短い小説だが、印象的な冒頭から作品を形作る言葉のひとつひとつが研ぎ澄まされた力を持ち、味わい深い。世間に恋を隠そうともしない愚かさ、相手を支配しようとする残酷さ、今の幸福にしがみつき溺れる心など、卓抜した心理描写に倫理を振りかざす人々の方が陳腐にみえてしまう。苦くて香り高い、痛くて甘い、静謐で荒々しい、古典といえども瑞々しさの褪せない作品である。


*この作品は、ちょわさん主催の掲示板企画 みんなで遊ぼう!BOOKイントロクイズ! に、そのじつさんが出題された問題の冒頭に惹かれて読みました。素晴らしいのは冒頭だけじゃなかったです。ご紹介ありがとうございました!
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2016-10-31 19:14

    早っ!私の方が先に入手していたはずなのに……(っていつものことよね…><)

  2. Wings to fly2016-10-31 21:08

    かもめ通信さん
    ワタシ今日、積読山を制覇しました…
    と、いつか言う日のためにとりあえず一冊減らしてみました(`・ω・´)キリッ
    いやー、心底びっくりしました。二十歳でこんな小説を書いた人もいるんですね。ラディゲさんが早逝されたことを、たいへんたいへん残念に思いました。

  3. そのじつ2016-10-31 21:19

    すごい…なんてステキな書評…私のドス黒いの(後ほどアップします)と正反対…(震え声)
    Wings to flyさんのオトナ度を見せつけられました!

  4. Wings to fly2016-10-31 21:32

    そのじつさん
    ありがとうございます(震え声)
    若いゆえの冷酷とか残忍とか愚かさとか、醜い部分も露骨に描かれているのに、なんでこんなに切なく美しいのでしょう….( T_T)
    素晴らしい作品をご紹介いただき、感謝しています。
    書評が楽しみ〜〜♪

  5. No Image

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