書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ぷるーと
レビュアー:
自由な抗議行動としてのデモとテロの差。その差は何?
 ヒースロー空港で、爆破テロが発生した。
 デーヴィッド・マーカムは、事件について報道しているテレビ画面に、先妻ローラの姿を見た。急いで病院に駆け付けたものの、彼女はすでに亡くなっていた。

 テロに巻き込まれて命を落としたローラ。彼女の死は全く「無意味な死」でしかなかった。その「無意味な死」に衝撃を受けたデーヴィッドは、ローラを殺害した犯人を見つけ出すために、さまざまな革命運動に潜入していった。
 
 チェルシー・マリーナ。そこは、中産階級が住む高級住宅街。だが、そこに家を買った人々は無理に無理を重ねた住宅購買がたたって、今やチェルシー・マリーナは高級スラム化しており、中産階級は新たなミレニアム(千年紀)を求めて革命に熱狂している。

 抗議デモに参加していて負傷したデーヴィッドを助けてくれたケイ・チャーチルとその仲間たちとともに行動し始めたデーヴィッドは、何度もテロの場面に遭遇し、命を落としそうになる。
 危険な匂いを感じながらも引き寄せられていくデーヴィッドの周辺でばかりテロが起こるのはどうしてなのか。そして、いつの間にかデーヴィッド自身も爆破テロの実行犯となってしまうのか。


 2003年に書かれたこの作品は、アメリカ同時多発テロの事件を受けて書かれた側面があり、とりわけその首謀者でもあり実行者でもあったモハメド・アタが裕福な家庭に育ち、高度の大学教育を受けたインテリだったことにバラードは強い関心を示していた。
 革命やテロというと、貧しい人々、虐げられた人々が自分たちの世界を変えるために起こすものと考えられてきたが、今や、テロの原因は貧しさや生活環境の悪さだけとは限らず、危険思想を持つ人物が、見た目からいかにも怪しげだとは限らない。 

 とても幸せではないけれど、ひどく不幸でもない中産階級が起こす革命運動は、社会に対する不満を抗議デモで訴える程度のもののはずだった。だが、その「意味を持つデモ」の中に「無意味なテロ」が紛れ込んだとき、人々はどう対処したらいいのか。
 この作品に描かれている、自由な抗議運動としてのデモに紛れ込んだテロの無差別さと無意味さに、戦慄を覚えた。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2945 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

参考になる:23票
共感した:2票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『千年紀の民』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ