ぱせりさん
レビュアー:
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祥子(シアンツ)は都の大路を駆け抜ける逞しい人力車夫。
祥子(シアンツ)は、田舎から北平(北京)に出てきて、人力車夫になる。
駱駝というのは、彼の呼び名である。ある事件を乗り切ったことに、尾ひれがついて広まった。
祥子は、足は速いし、身体は頑健。まじめで頑張り屋の彼は、博打も煙草も酒も嫌い、日々ひた走った。
彼は、根っからの車引きだった。彼は、自分の車を持つ、という目標を励みに勤め、何年もかけて、夢をかなえる。ところが……。
人力車夫は不安定で過酷な仕事だ。実入りも少ない。
この仕事が長く続けられるものではないこと、走れなくなった中年以降の車引きや、その家族の運命の残酷さは、さほどきょろきょろしなくても見えているのに、若くて元気な祥子は、なかなか我が身に置き換えて考えようとしない。彼は車を引くことしかできなかった。
祥子は正直で一途な若者である。だけど、それだけでは世の中を一人で渡っていくことは難しい。彼の足を掬う罠はいっぱいだ。様々な方向から手を変え品を変え何度も……こつこつと、ささやかなりと積み重ねたものをごっそりむしり取られていく。
正直であろうとしても、報われない。
それでも、彼はくじけないでいられただろうか。もしかしたら、繰り返される失意は、少しずつ少しずつ、彼を蝕んでいたのかもしれなかった。
汗水流して築いてきた、わずかばかりの財産や若さをむしりとられるのはあまりに辛いが、見えないところで、希望が消えていくこと、自分が何のために生きているかさえ分からなくなってしまうことが、何よりも堪える。
彼から奪っていった連中は、身勝手だが、悪意の塊というわけではなかった。あの人もこの人も、ちらちらと弱みが見え隠れして、彼(彼女)もまた、犠牲者だったのだと、感じる。
彼らも、若い祥子が持っていた瑞々しい気概を持っていたのかもしれない。まじめで純情な若者だったのかもしれない。
運命、という言葉が何度もでてきたけれど、何度も何度も奪われているうちに作り変えられていったのかもしれない。
町の下層部でやっと生きている人たちの、不運を嘆く声、呪う声、やけっぱちな明るさや無責任さが、都の独特の華やぎになっているようだ。
駱駝というのは、彼の呼び名である。ある事件を乗り切ったことに、尾ひれがついて広まった。
祥子は、足は速いし、身体は頑健。まじめで頑張り屋の彼は、博打も煙草も酒も嫌い、日々ひた走った。
彼は、根っからの車引きだった。彼は、自分の車を持つ、という目標を励みに勤め、何年もかけて、夢をかなえる。ところが……。
人力車夫は不安定で過酷な仕事だ。実入りも少ない。
この仕事が長く続けられるものではないこと、走れなくなった中年以降の車引きや、その家族の運命の残酷さは、さほどきょろきょろしなくても見えているのに、若くて元気な祥子は、なかなか我が身に置き換えて考えようとしない。彼は車を引くことしかできなかった。
祥子は正直で一途な若者である。だけど、それだけでは世の中を一人で渡っていくことは難しい。彼の足を掬う罠はいっぱいだ。様々な方向から手を変え品を変え何度も……こつこつと、ささやかなりと積み重ねたものをごっそりむしり取られていく。
正直であろうとしても、報われない。
それでも、彼はくじけないでいられただろうか。もしかしたら、繰り返される失意は、少しずつ少しずつ、彼を蝕んでいたのかもしれなかった。
汗水流して築いてきた、わずかばかりの財産や若さをむしりとられるのはあまりに辛いが、見えないところで、希望が消えていくこと、自分が何のために生きているかさえ分からなくなってしまうことが、何よりも堪える。
彼から奪っていった連中は、身勝手だが、悪意の塊というわけではなかった。あの人もこの人も、ちらちらと弱みが見え隠れして、彼(彼女)もまた、犠牲者だったのだと、感じる。
彼らも、若い祥子が持っていた瑞々しい気概を持っていたのかもしれない。まじめで純情な若者だったのかもしれない。
運命、という言葉が何度もでてきたけれど、何度も何度も奪われているうちに作り変えられていったのかもしれない。
町の下層部でやっと生きている人たちの、不運を嘆く声、呪う声、やけっぱちな明るさや無責任さが、都の独特の華やぎになっているようだ。
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いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:407
- ISBN:9784003203118
- 発売日:1980年12月16日
- 価格:903円
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