はるほんさん
レビュアー:
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お嬢様というUMAに萌えた谷崎の超大作。
新潮文庫から上・中・下の分冊が出ているが
敢えてごんぶとの1冊本を購入。
分冊にすると、予想外に読み切って外でムキャーとなったり、
結局2冊もって出ることになったりするので。
長編なので後回しにしていたというのもあるが、
個人的には他の著作をほぼ読んだ後にしてよかったなと思う。
万一、イキナリこれを読んでいたら
自分の心の「なんだかわからない箱」に、谷崎を放り込んだやもしれない。
==================================================
言わずと知れた、旧家に育った四人姉妹を描いたストーリー。
長女として本家を継いだ鶴子、分家となった幸子、
そしてアラサーでまだ片付かない雪子と妙子。
兵庫・大阪・京都という西の文化の季節で描いた絵巻物語──
…というのが一般的なあらすじである。
3人目の妻となった松子さんの四姉妹をモデルにしており、
ストーリーもなかなか実際に近いものであるとか。
そういう意味では奇想天外な事件が起こる訳ではない。
基本的には妹たちの嫁入り先を案じる姉の想いであり、
いわば他人にはどーでもよいハナシなのだ。
が、読まされてしまうのだ。
四姉妹と言うと名作「若草物語」などが浮かぶが
アレよりどっちかというと、最近の日常淡々系アニメに近いかもしれない。
次は!?次はどうなる!?という緊張感ではなく、
滔々と続く日常風景にとろとろとついていってしまう。
で、何時の間にか最終回まで見てしまった、みたいな。
お嬢様パワー、かもしれない。
影は薄いが実質リーダーである長女と、
常におっとり刀で体力不足と戦っている次女と、
見合いが攻略できない三女と、この中ではツッコミ役に近い四女。
4つの浮世離れがひとつになった
「終わらぬお茶会」のような不思議な時空が読者をとらまえる。
恐らくだが、谷崎の心境そのものなんじゃないだろうか。
四人姉妹のうふふきゃっきゃした関係が、
このオッサンのツボを突き、「!」と思わせたのではあるまいか。
いわゆる萌えである。
マゾにしろフェチにしろ、このオッサンの萌えに火をつけたら
もう読者は引っ張り込まれるより他はないのである。
「細雪」は戦時中に執筆されたが、
時節にそぐわないと言う理由で連載を中止されたとされる。
(それでも私家本にして作ったと言うからホンマもんの同人本である・笑)
そらそうだろう。
1億火の玉と言われた時代に、オッサンが一人で萌えておる話なんぞ
毒にはなっても薬にはならない。(笑)
切迫していた筈の戦局は、ほぼスルーされている。
それだけに「お嬢様時間」という異空間が際立つ。
姉妹で足の爪を切るシーンが妙に艶めかしいあたりは
ややフェチの匂いを感じなくもないが
まあまあまあ、やはり代表作と言われるだけあって
ぐっと変態度を抑えた美麗文学ではないか──、と思っていたのだが
最後の最後でキたよこのオッサン。
ある意味では、この余韻を残し過ぎるこのラストは
源氏物語・夢浮橋の模倣とも深読みできなくもない──が。
余韻どころか爆弾おいてかれた気分だよ!!
このラストのお蔭で、タイトルまで深読みさせられたわ!
四人姉妹の萌えにこんなオチつけてええの!?
今のアニメならネットでそのラストを巡って
賛否両論その意味が侃々諤々と論議されそうである。
──が、深いと言えば深い。
ふわふわと始まったこの「娘(とう)さん(※大阪地方の古い方言)」時間は
終盤、ドトウのように現実の波に押し流されていく。
永遠に続くかと思われたお茶会は、何時の間にか終わっていたのだ。
前半の夢のような美しさと、後半のリアル。
読者は衝撃のラストから顔をあげ、この世界にはもう
娘(とう)さんという清らかなUMAが居ないことを思い知るのである。
──と言う文学的意味がホントにあるのか不明だが(笑)
とりあえず900ページにわたる超大作に
こういう結末をどかんとつける谷崎の度胸がスゴい。
フツーなら勿体なくて出来ないんじゃないだろうか。
つくづくとヘンなオッサンである。
が、ただのヘンなオッサンではない。
タダモノではないヘンなオッサンなのだ。
結局中巻分から一気に読んで睡眠不足に陥れられたことからも、
やはりこの言葉で締めくくりたい。
──谷崎は、立派な変態である、と。
敢えてごんぶとの1冊本を購入。
分冊にすると、予想外に読み切って外でムキャーとなったり、
結局2冊もって出ることになったりするので。
長編なので後回しにしていたというのもあるが、
個人的には他の著作をほぼ読んだ後にしてよかったなと思う。
万一、イキナリこれを読んでいたら
自分の心の「なんだかわからない箱」に、谷崎を放り込んだやもしれない。
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言わずと知れた、旧家に育った四人姉妹を描いたストーリー。
長女として本家を継いだ鶴子、分家となった幸子、
そしてアラサーでまだ片付かない雪子と妙子。
兵庫・大阪・京都という西の文化の季節で描いた絵巻物語──
…というのが一般的なあらすじである。
3人目の妻となった松子さんの四姉妹をモデルにしており、
ストーリーもなかなか実際に近いものであるとか。
そういう意味では奇想天外な事件が起こる訳ではない。
基本的には妹たちの嫁入り先を案じる姉の想いであり、
いわば他人にはどーでもよいハナシなのだ。
が、読まされてしまうのだ。
四姉妹と言うと名作「若草物語」などが浮かぶが
アレよりどっちかというと、最近の日常淡々系アニメに近いかもしれない。
次は!?次はどうなる!?という緊張感ではなく、
滔々と続く日常風景にとろとろとついていってしまう。
で、何時の間にか最終回まで見てしまった、みたいな。
お嬢様パワー、かもしれない。
影は薄いが実質リーダーである長女と、
常におっとり刀で体力不足と戦っている次女と、
見合いが攻略できない三女と、この中ではツッコミ役に近い四女。
4つの浮世離れがひとつになった
「終わらぬお茶会」のような不思議な時空が読者をとらまえる。
恐らくだが、谷崎の心境そのものなんじゃないだろうか。
四人姉妹のうふふきゃっきゃした関係が、
このオッサンのツボを突き、「!」と思わせたのではあるまいか。
いわゆる萌えである。
マゾにしろフェチにしろ、このオッサンの萌えに火をつけたら
もう読者は引っ張り込まれるより他はないのである。
「細雪」は戦時中に執筆されたが、
時節にそぐわないと言う理由で連載を中止されたとされる。
(それでも私家本にして作ったと言うからホンマもんの同人本である・笑)
そらそうだろう。
1億火の玉と言われた時代に、オッサンが一人で萌えておる話なんぞ
毒にはなっても薬にはならない。(笑)
切迫していた筈の戦局は、ほぼスルーされている。
それだけに「お嬢様時間」という異空間が際立つ。
姉妹で足の爪を切るシーンが妙に艶めかしいあたりは
ややフェチの匂いを感じなくもないが
まあまあまあ、やはり代表作と言われるだけあって
ぐっと変態度を抑えた美麗文学ではないか──、と思っていたのだが
最後の最後でキたよこのオッサン。
ある意味では、この余韻を残し過ぎるこのラストは
源氏物語・夢浮橋の模倣とも深読みできなくもない──が。
余韻どころか爆弾おいてかれた気分だよ!!
このラストのお蔭で、タイトルまで深読みさせられたわ!
四人姉妹の萌えにこんなオチつけてええの!?
今のアニメならネットでそのラストを巡って
賛否両論その意味が侃々諤々と論議されそうである。
──が、深いと言えば深い。
ふわふわと始まったこの「娘(とう)さん(※大阪地方の古い方言)」時間は
終盤、ドトウのように現実の波に押し流されていく。
永遠に続くかと思われたお茶会は、何時の間にか終わっていたのだ。
前半の夢のような美しさと、後半のリアル。
読者は衝撃のラストから顔をあげ、この世界にはもう
娘(とう)さんという清らかなUMAが居ないことを思い知るのである。
──と言う文学的意味がホントにあるのか不明だが(笑)
とりあえず900ページにわたる超大作に
こういう結末をどかんとつける谷崎の度胸がスゴい。
フツーなら勿体なくて出来ないんじゃないだろうか。
つくづくとヘンなオッサンである。
が、ただのヘンなオッサンではない。
タダモノではないヘンなオッサンなのだ。
結局中巻分から一気に読んで睡眠不足に陥れられたことからも、
やはりこの言葉で締めくくりたい。
──谷崎は、立派な変態である、と。
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歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。
年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。
秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。
2018.8.21
この書評へのコメント

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- 出版社:中央公論新社
- ページ数:936
- ISBN:9784122009912
- 発売日:1983年01月01日
- 価格:1150円
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