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紅い芥子粒
レビュアー:
源氏と契った女性は、みんな不幸になっていく。魔性のオトコじゃないか、源氏は。
「そうだ、源氏物語を読もう!」と思い立って、図書館へ行った。
県立の大きな図書館で、背の高い書棚ひとつがまるごと源氏関連の本で埋まっていた。
だれか有名な作家の訳で読むつもりだった。
与謝野晶子、円地文子、谷崎潤一郎……ああ、だれがいいだろう。
川端康成の訳があったらいいなあと思っていたが、川端訳の源氏はないらしい。
瀬戸内寂聴、林真理子、角田光代…… 数ある中で、いちばん本が傷んでいたのが、この「ウェイリー版・源氏物語」だった。
アーサー・ウェイリーが「源氏物語」を英語で訳し、その英語版「源氏物語」を佐復秀樹さんが日本語に訳したもの。裏表紙を見ると、ウェイリーの英訳をいまの日本語に忠実にうつすとあら不思議!最も読みやすい二十世紀小説《源氏》誕生なんて書いてある。もう迷うことはない。全四冊ある一冊目を借り出した。

源氏初心者のわたし、「もっとも読みやすい」という文言に期待した。読み始めてみると、スラスラというわけにはいかなかった。まわりくどい表現が多い。誰のことを語っている文なのかわからない。誰の思いを書いているのか、何度も読み返してやっと理解する。そんなことが多かった。しかし、それは、英訳者のせいでも、それを訳した和訳者のせいでもない。おそらく、紫式部の文章がまわりくどいのだ。
英訳者の苦労がしのばれる。

「ウェイリー版・源氏物語1」には、桐壺から明石までの巻が詰め込まれている。
読み進むうちに、まわりくどい文にも慣れてくる。源氏があまりにもやりたいほうだいなので、おもしろくて、読むのがやめられなくなる。

天皇の子に生まれた源氏。ひかりかがやく美貌と比類ない賢さで、天皇の寵愛を受けるが、母親の身分が低く、東宮にはなれない。そのため源氏の一族に入れられ、いわば気楽な身分。声もきれいで、楽器も踊りも抜群に上手。12歳で元服と同時に結婚する。
恋愛依存症なのか、妻がありながら、次から次へと恋人をつくる。恋人に突然死されて逃げ出したり、十歳にもならない少女を誘拐して自分の家に連れ込んだり、老女の恋心をもてあそんだり…… 源氏と契った女性は、みんな不幸になっていく。魔性のオトコじゃないか、源氏は。それなのに、源氏源氏となぜもてはやされる。
庇護者だった父天皇が死ぬと、新天皇の外戚にうとまれ、須磨に流謫となるが、明石でちゃっかり現地妻をつくる……
いったいこんな男のどこがいいのだ。ひかりかがやく顔がそんなに魅力か?
明石に置き去りにされた姫の身になり、もやもやした気分で一冊目を読み終えた。

ああ、おもしろかった。二冊目も三冊目も四冊目もきっと読む。最後まで読んで、この魔性のオトコがどうなっていくか、みとどけてやるのだ。

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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