書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

かもめ通信
レビュアー:
11月25日憂国忌に文学忌レビューを書きたいがために、何を隠そう生まれて初めて三島由紀夫を読んでみた。
なにが嫌いってあの見た目、
はちまきしめてふんどししめて、
いかにも、いかにも!!といういいでだち。
加えて右翼的なあの言動、この言動、
失礼を承知であえて言うけれど
とにもかくにも彼のことは生理的に受け付けられない。

物心ついた頃からずっと嫌いだったから
その作品を読もうと思ったこともなかった。

「太宰が好き?それなら三島は?」
そう訊かれたことは1度や2度ではなかったが
あの二人の共通点はナルシストだけじゃないの?!
と一笑に付して読まなかった。

なのになぜ、
読んでしまったのかと言えば……
本が好き!レビュアーさんの誘惑の「たまもの」とでもいうべきか、
「賜物」なのかそうなのか??

SFが苦手な私が
三島作品の中でもとりわけ異彩を放っているという
三島のSF作品を読むというのもまた一興かと乗せられて
読んでしまったのだ。この本を。

おそるおそるページをめくると
なんとこの話、埼玉県飯能市に住む一家の話だという。
おまけにこの一家、冒頭から、日の出前の暗闇の中
一家四人で羅漢山に登るという。
羅漢山と言えば今でいう天覧山!
埼玉出身の私には子どもの頃から慣れ親しんだ庭よ庭?!
一気に親近感が増すというものだ。

と思ったのもつかの間
この家族四人が四人とも宇宙人だった?!
父・重一郎は火星、母・伊余子は木星、
息子・一雄は水星、娘・暁子は金星から飛来した宇宙人だというのだからびっくりだ!

なんでも彼らは、それぞれ空飛ぶ円盤を見て、
宇宙人としての自らの使命を自覚したのだそうな。
してその使命とは、
核戦争による絶滅の脅威から、地球人類を救うことだった?!

この小説が書かれたのはまさに米ソ冷戦時代
キューバ危機もあったから
核の脅威はいまよりもっと現実味を帯びていたに違いない。
(いや今だってみんな慣れっこになってしまっているだけで
世界中には以前に増して核兵器は沢山あるし
危機に瀕してもいるのだろうけれど…それはさておき…)
三島、このおちゃらけた設定の中で
かなり真剣に核の脅威を掘り下げているからおどろきだ。

論争の相手として登場するのは
仙台の大学からやってきた羽黒真澄助教授とその仲間。
なんと彼らは、白鳥座61番星あたりの未知の惑星からやって来た宇宙人らしい。
汚れた人類を滅亡させこの地球を浄化することこそが自分たちの使命だという。

そして、この三人と、大杉家の長である重一郎との間で熱い議論がかわされる。

白鳥座あたりの宇宙人達が、
「地球人類は不完全なのだから、核戦争で滅びるべきなのだ」と主張すれば
対する火星人重一郎は、地球人類を擁護する。
けれどもその擁護の仕方は積極的な地球人評価というよりは……。

どこか調子外れのおかしみのなかで進んできた物語が
一気に格調高い大論争の体を為すこの感じ、
なんだかドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」
「大審問官」のシーンを思い起こさせるようだ……と思ったら、
巻末の解説にも三島がドストエフスキーに
多大な影響を受けていたことが書かれていて驚く。

  
「平和とは何か」「核の脅威はぬぐい去ることができるのか」
人は現実社会のいかなるしがらみも思惑も越えて
地球全体を視野に入れて物事を考えることができないのか
宇宙という高見から見下ろしたなら、
地球上で繰り広げられているあれこれはなんと浅はかな争いか。

人種や民族やイデオロギーや国家や様々な利権といった
一切の制約やしがらみをうけずに
地球全体のことを見渡すことができる高みにたたなければ、
語ることができないあれこれ、
そうか、三島にとってはそれが「神」ではなく「宇宙人」という存在だったのか。

なるほどこれはSFなのかもしれないが、同時に紛れもない純文学。
私はそう読んだ。

実際のところ、彼らは本当の宇宙人なのか
「自分を宇宙人だと信じた人」なのかは定かではないが
恒久平和を語るのにその高みに登らなければならないとしたら
地球の人類は滅亡に向かうしかないのかもしれない。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2229 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

読んで楽しい:32票
参考になる:15票
共感した:4票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. ef2016-11-25 06:19

    私、三島は結構好きですよ。太宰よりも好きかもしれない。まぁ、あの写真はともかくとして(笑)。
    三島が自決したのって確か日曜日じゃなかったでしたっけ?何か子供心に記憶しているんですが、間違っていたかな?

  2. かもめ通信2016-11-25 06:52

    え~efさん生まれていたんですか!すごーい♪
       ・
       ・
       ・
    今、宇宙人に舌を抜かれそうになりましたwww
    ただ正直そんなに鮮明(?)な記憶はないなあ。

  3. ef2016-11-25 07:06

    調べてみたら日曜日じゃないじゃん!(水曜日でした) まったくいい加減な記憶だ。

  4. ことなみ2016-11-25 07:32

    せっかく天才的なペンを持っているのだから、ああいった行為よりほかに生き方があったと思うのですが。
    美しさの基準は凡人とは違うんですね。介錯人も恐れた状況で苦しんだとか、自然に命が尽きるまで自説にこだわって欲しかったと、惜しんでいます。今日は憂国忌だったんですか、タイムリなレビューをありがとうございました。

  5. かもめ通信2016-11-25 07:48

    ことなみさん、私は近代日本文学にめちゃめちゃ疎いので、しばらく前から“文学忌レビュー”と称して、文豪たちの命日レビューを目標(?)に少しずつ読んでいるんですよ~。
    次はたぶん“漱石忌”になると思いますw

  6. oldman2016-11-25 08:59

    日曜日じゃ無いですね。確かあの頃は高校生でした。 友人が顔色を変えて教室に入ってきて「三島が市ヶ谷に突入して割腹自殺をした!」と言ったことを覚えています。

  7. かもめ通信2016-11-25 09:17

    oldmanさん!それはまた生々しい記憶ですねえ(><)

    今だったら瞬時にTwitterなどで閲覧注意画像が全世界を駆け巡るんでしょうねえ……。

  8. 三太郎2016-11-25 12:56

    僕もまともに三島作品を読んだのはこれが初めてでした!
    ちょっとブラックなコメディーだと感じましたよ。
    映画化されるそうですが、お父さんがリリー・フランキーだからちょっとひねったコメディかも。

  9. oldman2016-11-25 13:55

    閲覧注意…当時、某週刊誌に総監室の写真が載って遺体とその前に置かれた首の写真が大問題になった筈です。今でもネットには三島の首の画像が有りますからね。

  10. はるほん2016-11-25 18:01

    やー、すごく楽しんで読んでいただけたようで、
    なんだか嬉しいような期待を外したような。(笑)

    きちんとテーマを語る手腕をもつのが三島の凄いトコだと思います。
    最期と思想が思想ですからアレですけど、
    もっと読まれる作家であったハズなのになあとは思います。

    自分はニュース見てない世代ですが、昔ネットで首も見ちゃいました。
    高い志があったのかもしれませんが、
    文士としてはあの最期はいただけないなあと思ったり。
    「高み」を通り越して「アレな人」になっちゃうしねぇ。

    ともあれ三島の山を超えられたこと、おめでとーございまーす!(∩´∀`)∩

  11. かもめ通信2016-11-25 19:08

    oldmanさん、その週刊誌沢山売れたのでしょうかねえ……。

  12. かもめ通信2016-11-25 19:12

    やっ!はるほん師匠、外しちゃいましたか?!
    せっかくお譲り戴いたのにご期待に添えずにすみませんww
    私もぼろくそに言う気満々だったのですが?!(なんか違う(?_?))

    とはいえ、譲って戴かなかったらきっと今もまだ未読のままだったかも……
    というぐらい高い山だったので
    読むことができたのは、間違いなく、
    物心両面でご支援戴いた師匠のおかげでございます!(感謝!)

    ちなみに私、これよりも「それから」の方に苦労しましたよ…トホホ

  13. はるほん2016-11-25 19:24

    「それから」の主人公に正坐させて、説教するカンジでどうですかww

  14. かもめ通信2016-11-25 19:33

    いやいやあの男は絶対人の話なんか聞かないね。
    説教のしがいがないよww

  15. oldman2016-11-25 20:14

    えーと もしかすると新聞だったかもしれません。 僕も見たんですが、なにしろ部屋が暗くて「そういわれればそうなのかなぁ???」という程度です。
    あの時、彼はどんなつもりだったんでしょうねぇ。 それまでの写真とか「盾の会」などを見る限り、相当なナルシストだったんでしょう。
    自分が、ああやってアジテーションすれば、自衛隊員達は付いてくると思ったんでしょうかねぇ?

  16. かもめ通信2016-11-26 09:59

    うーん。三島の気持ちは…わかりませんねえ。というか、あまりわかりたいとも思わないなあ。
    この本がなかなかおもしろかったので、来年の憂国忌までにはもう1作、読んでみようかな~とは思っていますが。(って鬼に笑われますかねw)

  17. かもめ通信2016-11-26 10:07

    あっ!三太郎さんへのレス、書いたつもりで抜けていました!
    この話、仙台からやってきた三人組も可笑しかったですねえ~
    飯能と仙台という私にとってあまりにも身近な土地柄に、
    それぞれの地でロケをした映画なら見てみたいような気もw
    でも、この辺には映画館、ないんですよね~(苦笑)

  18. 三太郎2016-11-26 16:12

    >かもめ通信さん

    僕が子供の頃の仙台の描写が随分リアルな感じで、三島はロケハンしたんじゃないかと思ったくらい。

    悪役の大学の先生が住んでいた川内の米軍キャンプ後地の建物なんかは、僕が学生の頃まで一部残っていましたから。

    映画館がなくても2年後にはDVDになりますよ。僕のひいきの橋本愛ちゃんを見てやってくださいな。(レンタルDVD屋さんはありますよね?)

  19. かもめ通信2016-11-28 06:27

    確かにレンタルDVD屋はありますねえ。
    本屋さんを併設したTSUTAYAがw
    しかしこの本屋さんはまことに見事な品揃えでして
    なんでここまで食指の動かない本ばかり並べるんだろう?と
    立ち寄るたびに思っていることは内緒ですww
    (単に私の好みが「売れ筋」ではないというだけなんでしょうか…)

  20. 三太郎2016-11-28 12:46

    ご近所のTSUTAYAさんはDVDとCDのみで本は扱っていませんね。僕は実はここのDVDで映画を観ています(もう何年も映画館に行ってません)。品ぞろえは残念なことに、韓国、台湾のTVドラマかアニメが多く、日本映画は隅っこにちょっとあるだけです・・・(涙)

  21. あずま2016-12-18 12:38

    高校の頃からしばらく三島にハマっていたことがあって(といってもそれほど多くを読んではいないのですが)、これはちょうどその熱が少し冷めたころに読みましたー。途中で何度も「なんだなんだ、やっぱ思い込みの激しい一家だったってオチか?」「いや、これはもしや...」「いややはり…」と三島の筆に振り回されながら読んだのを覚えています。題材は非常にらしくないのに中身みると相変わらずの三島節で、個人的には好きな一冊です。

    豊饒の海などは、自分なんぞはどうやっても市ヶ谷の事件と重ねて読んでしまうけれど、これはそれより気楽に読めるし、なによりサイズがちょうどいいので(ゲフゴフ

  22. かもめ通信2016-12-18 16:26

    へえ~あずまさんが三島に?!それはちょっと意外な気がw
    まだまだ語られていない秘められた過去をお持ちのようですな。(メモメモ)
    これが三島節!とわかるほど三島を読んでいない……というか、これが初三島作品の私としては恐る恐る次なる作品に手を伸ばしてみるつもりなんですが……お薦めがあったら教えて下さい。
    といっても、読むのは来年の憂国忌あたりだと思いますがw(鬼に笑われる!)

  23. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『美しい星』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ