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千世さん
千世
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三島由紀夫にこんな作品があったとは。ストーリー展開は支離滅裂でめちゃくちゃ。でも、多くの本流作品があるからこそ楽しめる亜流の面白さ。そして、本流を知るために知っておくべき亜流。だからこそ読むべきです。
 この本が非常に売れていると新聞記事で目にし、手に取らずにはいられなくなったのは、2015年のことでした。なぜ急に三島由紀夫なのか。しかもこんなにマイナーな作品がなぜ人目を引いたのか。そもそも私は「ちくま文庫」に三島由紀夫の作品があることすら知りませんでした。しかも『週刊プレイボーイ』に連載された小説なんて。何はともあれ、ちくま文庫が「三島由紀夫生誕90年・没後45年」に合わせて売り出したら見事に大ヒットしたようです。
 とにかく、私がそれまで知っていた「新潮文庫」の三島由紀夫とは全く違います。

 自殺に失敗した主人公の羽仁男が、何とか死のうとして「命売ります」の新聞広告を出し、他人に命を買ってもらおうとするのだけれど、いろんな偶然なのか必然なのかが重なってどうしても死ねない、そんなお話。

 ストーリー展開は支離滅裂。こんなはずないだろう、とつっこみたくなるところが満載。ACSという大げさな謎の組織が出てきたり、甲虫を乾燥させて粉末にしたものを服用したら自殺したくなったり、吸血鬼の女と恋したり、ある国の大使館の暗号を人参で解読したり。めちゃくちゃだけど、おもしろいのです。最後にちゃんとストーリーとしてつながったりするから余計にめちゃくちゃ。

 解説者は「三島由紀夫はこのような小説の中でこっそり本音を漏らしていたのではなかろうか」なんて難しいことを言っていますが、この小説に限ってそんなことはどうでもいいだろう、というのが私の正直な感想です。深読みすれば、自意識過剰な主人公は他の作品の登場人物と似ている気がしますし、作者自身を投影しているところもあるかもしれませんが、作者が同じなのだから当然と言えば当然でしょう。面白ければそれでいいのです。「この小説が気に入ったら、次は『三島由紀夫レター教室』」と帯にある通り、それも読んでしまいましょう。

 と思ったところでふと思いました。もし三島由紀夫が書いた小説でなかったら読んだだろうか、と。三島由紀夫が書いたと思うからこそ面白いのではないだろうか、と。考えてみると、『夏子の冒険』を読んだ時にも同じことを思いました。

 やはり三島由紀夫の本流は『仮面の告白』であり『金閣寺』であり『豊穣の海』なのです。つまりは新潮文庫。本流があるからこそ味わうことのできる亜流の面白さ。また、より本流を知るために、亜流を知っておきたいことも事実。だから読みます。『三島由紀夫レター教室』も。6年たった今も積読本の中に埋まっていますが。
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千世
千世 さん本が好き!1級(書評数:404 件)

国文科出身の介護支援専門員です。
文学を離れて働く今も、読書はライフワークです。

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この書評へのコメント

  1. noel2021-10-09 20:37

    その逆に「命助けます」が菊池寛の『身投げ救助業』なのかも……。

  2. 千世2021-10-10 13:42

    >noel様。コメントありがとうございます。
    「命助けます」=『身投げ救助業』。なるほど。
    いずれにしろ、簡単には死ねないというところが共通していますね。

  3. No Image

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