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はるほん
レビュアー:
三島作品に、なぜか世界の○○が重なった…?
三島由紀夫レター教室以外にも
「えっ、これが三島由紀夫!?」的作品が結構あると知り、
もう1冊読んでみることにした。

演歌か任侠映画みたいなタイトルだが
中身は古典的なハードボイルドと
現代風のライトコミカルを織り交ぜたようなストーリーだ。
「週刊プレイボーイ」に連載されていたという
これまたちぐはぐなカンジがなんとなく興味深い。

ある日、新聞の文字が全部ゴキブリに見えてしまい、
生きることが嫌になってしまった羽仁男。(←はにお、と読む。なんかこれもワロタ)
だが自殺にも失敗し、自分の命を売る新聞広告を出す。
意外にも次々と買い手がつくも、彼自身は不思議にも死にそびれる。

不倫した女房と死んでくれという老人。新薬実験を依頼する女。
母に生き血をすすらせてくれという少年に、
某国の情報漏洩を調査中のスパイまで。
しかしここで「休暇」をいれたあたりから、彼の人生設計(?)は狂いだす。
死を連呼する女と暮らしはじめてから、何かが恐ろしくなってきたのだ──

面白いか面白くないかと言われたら
前 半 は 不 思 議 な ほ ど 面 白 く な い 。
いや、すごく読みやすいし、面白い設定なんである。
すらすらと読めるのだが、これだけコミカル調の設定を
こんなに淡々と読んでいいのだろうかと思うくらいに起伏が無い。

原因は多分、文体だ。
レター教室を読んだときにもソレは感じたが、
三島の文章は非常に正しいと言うか、キッチリしている。
情景や風景も主語と述語と置いて的確に描き出そうとするために
どこか冷静な距離を保ったうえで、ストーリーが進んでいく。

レター教室は単純に娯楽作品だったから気にならなかったが、
「エンターテイメント」と「生死というシリアスな素材」の取り合わせに
そのちぐはぐさが妙に浮彫になっている。
が逆に、三島作品に改めて興味を持った。
このちぐはぐさをどこかで知っている。

村上春樹だ。
春樹作品を全部読んだわけではないので
ファンの方には「はぁ?」と言われるかもしれないし、
自分でも上手く説明できないのだが。

ついでに三島のことをいろいろぐぐってみたが
英語やフランス語を話している動画があって、ちょっと吃驚した。
略歴によるとドイツ語も話せたらしい。
病弱な身体を筋肉改造したという話からも
彼は結構な完璧主義者だったのかもしれない。

人は精一杯生きて、精一杯死ぬべきだとでもいうような
彼なりのカタルシスがあったんではないだろうか。
その辺は春樹作品には見られない力技だ。
時代を不透明にしてしまう中性的な春樹作品と違って、
三島作品からは昭和臭も男臭さもプンプンする。

だが修飾語が多いと言うか、「~のような」という表現法が
二人には共通している気がする。
死を達観したというか、死をも文字で表現しようとする距離感が
どことなく春樹を思わせたような気がしたのだ。
上手く言えないが。

死というテーマを軽く始めた前半から
物語の後半はやや生々しさを持つ。
「プレイボーイ」を読む世代に合わせた死生観を狙ったのだろうか。
程よく男女仲を入れたあたりにも、そんな狙いを感じないでもない。
なかなか計算された作品かもしれない。
もう少し三島作品を読んでみたくなった。

だが女性の乳房の表現が「古墳のよう」だったのは
はたして青少年たちにウケたのかどうか。(笑)
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はるほん
はるほん さん本が好き!1級(書評数:684 件)

歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。

年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。

秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。

2018.8.21

読んで楽しい:25票
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この書評へのコメント

  1. ふらりん2015-07-05 18:38

    三島由紀夫さんは「難しい事を難しい言葉で表現する」
    だけど、対して村上春樹さんは「難しい事を簡単な言葉で表現する」
    と言っていた友人がいます。三島さんと村上さんを同列で
    扱っていたのです。

    はるほんさんが感じているのは、私の友人のように
    二人が同じ方向性というかニオイを持っているから、
    書評のように感じたのではないでしょうか、と思いました。

  2. はるほん2015-07-05 20:03

    >ふらりんさん
    おおおお!三島と春樹を同列で考えてた人がいたと
    聞いただけでなんかすごい嬉しいです!!(≧▽≦)

    そうなんですよ。ソックリって訳じゃないんですけど
    ニオイみたいなかすかなモノなんです。
    時代での差はモチロンありますけど
    もし同じ時代に生きてたら、どんな関係になったんだろうかとか
    考えるとたのしーです♪
    (同族嫌悪で仲悪い可能性もありますねーw)

    いつもありがとうございます!

  3. かもめ通信2015-07-05 20:23

    そういえば三島と春樹………どちらも苦手なんだよなあ…(ぼそっ)

  4. はるほん2015-07-05 20:38

    >かもめ通信さん
    自分もどっちかっつーと苦手かも(笑)
    ただ昔と違って今読むとふたりとも
    「読みやすい文章」だったことを再発見したんですよね。

    物語としては入り込めないかもですが
    分析方向で読むっつーのもアリかなあと思ったり。

  5. Kurara2015-07-05 23:12

    はるほんさん♪
    春樹&由紀夫は頑張って読むって感じですw しかし、角川のこの乙女な小説シリーズの三島由紀夫は一時ハマって随分読みました~。自分でも苦手かどうか三島の場合は判らない状態ですw

  6. はるほん2015-07-06 06:52

    >Kuraraさん
    なんと!三島戦線にKuraraさんが控えていたとわ!!
    そうそう、ちょうどその辺のヲトメラインナップが
    気になっておったのです!

    谷崎と三島を嗜みますのホホホとか言ったら
    傍目にはヤバいカンジぷんぷんですが
    多分後に続くと思います!押忍!!

  7. かもめ通信2015-07-06 08:53

    はるほんさん!谷崎,三島もいいけれど,7月はやっぱりアクティじゃないの?w
    24日の河童忌にそなえて(?)どうです?ここらでひとつ。
    ご一緒にアクティ祭りなどww

  8. はるほん2015-07-06 22:05

    >かもめ通信さん
    そういえば…。(←ヲイ!)
    や、昔から記念日とか覚えるのが苦手で
    日付にあわせてなんかするって意識が低いんです~(笑)

    あっ!でも前のアクティ祭はなぜか7月にやってるっ!?
    まさか芥川が草葉の陰でリクエストしてるんだろうか?
    むむむ、これはちょっと本棚を漁ってみるか…?

  9. No Image

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