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ぷるーと
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西洋式の社交界を「夜会服」になぞらえた、家族間の愛憎劇。
稲垣製薬社長の娘稲垣絢子は、入会した乗馬クラブに所属する滝川夫人に気に入られ、馬術競技会の日に夫人の息子滝川俊男に引き合わされた。滝川夫人の意向で俊男と絢子の見合いの場が設定され、絢子の大学卒業を待って2人は結婚することになった。

滝川夫人の亡夫は外交官で、夫人の実父の元男爵はM財閥の大番頭を務め大蔵大臣にもなった人物だった。息子の婚約が決まると、滝川夫人はアメリカ人実業家の晩餐会で2人を紹介したり、自宅で開く午餐に絢子を参加させたりした。俊男は子供の頃からそういった集まりに参加していたこともあり、何ヶ国語も話せたし博識で機知に富み西洋人との社交にも長けていたが、実はそういう付き合いが嫌いで、自分は独りぼっちだと絢子に洩らしていたた。俊男は、絢子と結婚したらそういう社交界から離れたいと思っていたのだ。絢子は、結婚前から俊男と絢子を自分と同じ世界に引き込もうとする滝川夫人と、社交界嫌いの俊男の間で板ばさみになってしまう。

知り合ったばかりの頃は親切だった滝川夫人だが、俊男との婚約、結婚と時間が経つほどに絢子への態度が変わっていく。それは、一人息子を嫁に取られたという嫉妬心からだったが、そこには母親が夢中になっている社交界を俊男が嫌っているという親子間の確執も絡んでいた。

ついには滝川夫人が絢子に俊男に関する嘘の浮名話をして絢子を傷つけたことに激昂した俊男は、母親から出席するよう言われていたパーティーを欠席、息子夫婦に裏切られたことを知った滝川夫人は、2人を離婚させなければ私は自殺すると息巻いた。

窮地に立たされた俊男が頼ったのは、欠席したパーティーの主催者である花山妃殿下。妃殿下自身もかつて嫁姑問題で苦労があり、両者の気持ちがわかるお立場だったことから、自分の外遊に滝川夫人を同行するという打開案を示して下さった。
絢子自身も滝川夫人に謝罪に行き、滝川夫人も自分自身の淋しさを告白、絢子は姑を1人の女性として見て感動し夫人と和解する。

この作品は西洋を真似た日本の社交界を「夜会服」になぞらえて、そこから脱却しようとする俊男のもがきを描いているのだが、離れようとしてトラブルになると結局頼れるのは社交界しかないというジレンマに陥る。しかも、滝川夫人は外遊から帰国したら歓迎会を開いてね、という。
「歓迎会はブラック・タイにしましょう。主賓はもちろん花山妃殿下。ディナーは、昔風に、ダブル・コースにしてもよろしいわ。冷酒にはシャトオ・イケムをあけましょう。ああ、そのときは、みんな夜会服で、夜の二時三時まで、一人としてお客様が帰りたがらない、すばらしいパーティーにしましょうね」

俊男の願いは、叶えられそうにない。

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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2944 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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