星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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男は安定の未来を見 女は破綻の未来を見る
 まず第一声がこれである。
 
のっけからおねだりだ。そして口調のはすっぱなこと。
彼の名はフレッドだが、作品中、その名前で呼ばれることはほとんどない。元高級娼婦レアからは、シェリ(いとしい人)と呼ばれる。一方、シェリはレアのことをヌヌーンと呼ぶ。フレッドは25歳、レアは49歳。親子といってもおかしくない年齢差の二人は、6年間続いている恋人同士だ。プラトニックではない。冒頭は、情事の残滓が残るベッドシーンだ。
日本の小説『東京タワー』では、息子が自分の友人と関係を持っていると知った母親が怒り狂うが、マダム・プルーは動じない。息子の面倒見てくれてどうも、くらいの雰囲気だ。実はレアとシェリの母親マダム・プルーは同業者で、二人とも過去に稼いだお金をせっせと蓄財に回して裕福な暮らしをしている。男と永続的な関係を築くことなど、とうに諦めている二人らしい選択だ。ただ、息子の結婚を知らせる際には、マダム・プルーはレアに対して少し意地悪めいた感情の片理を覗かせる。
表面上は、経験豊富なレアが、若いシェリをうまくあしらっているかに見える。しかし、水面下では、レアは忍び寄る老いと、いずれ必ず来るシェリとの別れを恐れている。捨てられるのが辛いから、自分から離れようとするも、うまくいかない。これまで散々偽りの愛で報酬を得てきたレアが、人生経験もさほどない若者に翻弄される様が、丁寧な心理描写を通して伝わる。若妻で物足りないシェリが、レアに逢えてやっと肩の荷を下ろしたかに見えた。しかしその後ろ姿に、レアはやがて来る別れを予期する。同じ体験をしながら、二人の見る未来は異なるという秀逸なラスト。
2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。
シドニー=ガブリエル・コレット著作
青い麦
軍帽
牝猫
シェリの最後
レア。これぼくに頂戴。あんたの真珠のネックレスさあ!聞いてる、レア?あんたのネックレス、おくれよ!
のっけからおねだりだ。そして口調のはすっぱなこと。
彼の名はフレッドだが、作品中、その名前で呼ばれることはほとんどない。元高級娼婦レアからは、シェリ(いとしい人)と呼ばれる。一方、シェリはレアのことをヌヌーンと呼ぶ。フレッドは25歳、レアは49歳。親子といってもおかしくない年齢差の二人は、6年間続いている恋人同士だ。プラトニックではない。冒頭は、情事の残滓が残るベッドシーンだ。
日本の小説『東京タワー』では、息子が自分の友人と関係を持っていると知った母親が怒り狂うが、マダム・プルーは動じない。息子の面倒見てくれてどうも、くらいの雰囲気だ。実はレアとシェリの母親マダム・プルーは同業者で、二人とも過去に稼いだお金をせっせと蓄財に回して裕福な暮らしをしている。男と永続的な関係を築くことなど、とうに諦めている二人らしい選択だ。ただ、息子の結婚を知らせる際には、マダム・プルーはレアに対して少し意地悪めいた感情の片理を覗かせる。
表面上は、経験豊富なレアが、若いシェリをうまくあしらっているかに見える。しかし、水面下では、レアは忍び寄る老いと、いずれ必ず来るシェリとの別れを恐れている。捨てられるのが辛いから、自分から離れようとするも、うまくいかない。これまで散々偽りの愛で報酬を得てきたレアが、人生経験もさほどない若者に翻弄される様が、丁寧な心理描写を通して伝わる。若妻で物足りないシェリが、レアに逢えてやっと肩の荷を下ろしたかに見えた。しかしその後ろ姿に、レアはやがて来る別れを予期する。同じ体験をしながら、二人の見る未来は異なるという秀逸なラスト。
2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。
シドニー=ガブリエル・コレット著作
青い麦
軍帽
牝猫
シェリの最後
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:270
- ISBN:9784003258521
- 発売日:1994年03月01日
- 価格:630円
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