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ぷるーと
レビュアー:
ただ延々と毒を吐き続ける老人。彼の姿には現代にも通じるものがあるように思えてならない。
 貧しいながらも八等書記官として働いていた男が、わずかな遺産を相続したのを機に仕事を辞めてしまい、地下室に籠った。そして、彼は、その地下室から、毒のある言葉を吐き続ける。

 彼には、何の楽しみもない。彼は、自分は誰より賢いと思っているのだが、その賢さは、どこにも証明されてはいない。

 彼が、自分だけが賢いつもりで、相手を見下し愚弄し続けるのはなぜか。
 彼には、そうすることでしか、自分の存在を証明することができないからだろう。 

 貧しく生まれ、そこそこの教育は受けたものの、立身出世できるほどの学力も、地位も、金も、コネもなかった。高く掲げていた理想はとうの昔に砕け散り、あとは、ただもう鬱々と日々を送るしかない。そうなったら、人は、周囲に向かって毒づくしかなくなってしまうものなのだろうか。 
 暗い地下室から毒を吐き続ける男。その毒に当てられて、誰もがくらくらする。

 どうしてもっと積極的に働こうとしないのだろう。
 どうしてもっと明るい考え方ができないのだろう。 
 そう考える者は、きっとまだ、彼ほど絶望してはいないのだ。彼の孤独や辛さを、身に沁みては分かってはいないのだ。

 この本を読んでいるうちに、時折ニュースで取りあげられる「迷惑老人」を思い出していた。近所の住民たちに向かって毒づき、他人の迷惑になるのを承知の上でわざとそういう行為を繰り返す人たちは、この地下室の住人と同じような気持ちなのではないだろうか。

 驚くことに、ドストエフスキーは、ロシアの大多数がこの地下室の住人のような状況にあるといっている。 れでは、革命が起きるのも必然だったということだろうか。
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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2926 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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