サンペーリさん
レビュアー:
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鑑真と業行、老僧ふたりの生き方の対比に、理想的な心の在り方を見る。

「復活! 課題図書倶楽部・2015」の課題図書にこの作品を見つけて、とても懐かしく思った。しかし、私自身これまでに読んだことがなかった。
よくよく思い出してみれば、中学生くらいのころ、井上靖の歴史小説を立て続けに読んでいた時期があった。『蒼き狼』『敦煌』『楼蘭』・・・記憶しているタイトルを挙げると中国が舞台のものばかりだ。
だんだん思い出してきた。ちょうどそのころ岩波少年文庫の『三国志』にはまり、それから吉川英治版へと進み、もっと中国が舞台の歴史小説が読みたいということで、井上靖作品に手を伸ばしていたのだ。
『天平の甍』は日本の遣唐使が題材であるからして、彼の代表的な歴史小説といえるこの作品をあっさりパスしていたのだった。
ただ読んでみると、ほとんど中国が舞台。というのも、遣唐使と一緒に派遣された主人公の僧侶が、唐でも名僧として非常に名高い鑑真を伴って日本に帰還するまでを描いた物語なのだが、これがもう何十年経ってもぜんぜん帰って来ない。
まあ、あのころの自分が求めていたものとは違ったかもしれない。
それはさておき、今回この話を読んで、描かれた鑑真の生き方にとても感動した。
鑑真は留学僧達の依頼を受けて日本行きを決心してから実際に辿り着くまでに、5回の航海に失敗、足掛け11年の歳月を費やしている。鑑真ほどの高名な僧になると、唐としても異国に手放したくはなく、様々な妨害が企てられる。また、それを乗り越えて海に出たとしても、一度遭難してしまえば全てを失いまたゼロからやり直しとなる。それも命が助かればの話。航海に出た船の半分ほどは荒波の中で沈んでしまう。その危険と苦難は今からは想像できない。
あるものは逃げ、あるものは諦め、あるものは道半ばにして死ぬ。鑑真はもっとも高齢であるにも関わらず、心身の健康を堅固に保ち、その意思を静かに貫徹していく。
そしてもうひとり、ひとつの目的を実現するために全てを捧げる老僧が登場する。業行というその僧は、古くから唐に入っていた日本の僧で、彼の地の経典を日本に持ち帰るべく狂ったように写経に没頭し、何十年という月日を経て膨大な経巻の山を築きあげる。そして、それらを日本に送り届けることが、彼にとって何よりも大切な使命となった。
鑑真と業行、日本に正しい仏教をもたらすべく全てを捧げて使命を遂げようとする、その点では同じように見えるかもしれない。しかし、この作品においてこの二人の老僧の生き方はとても対照的に描かれている。
たとえ航海に失敗して未開の土地に漂着したとしても、その土地に寺を築き、正しい教えを広めようとする鑑真。運命を受け入れ、今出来る事を行い、静かに再起の時を待つ。どんな時にも彼の周りには、彼を慕い、信頼のおける多くの人が集まってくる。
かたや、自らの全てを注ぎ込んだ経巻の山に執着し、命よりも大切となったそれらの中に埋もれて、次第に病的な様相を呈していく業行。それらが少しでも失われることを恐れ、頑な態度により孤立を深めていく。
ついには日本に辿り着き使命を果たすことになる鑑真。そして、同じ船団で帰国の途につきながら、悲劇的な最期をむかえることになる業行。この二人の生き方の対比の中に、理想的な心の在り方を見た気がする。
よくよく思い出してみれば、中学生くらいのころ、井上靖の歴史小説を立て続けに読んでいた時期があった。『蒼き狼』『敦煌』『楼蘭』・・・記憶しているタイトルを挙げると中国が舞台のものばかりだ。
だんだん思い出してきた。ちょうどそのころ岩波少年文庫の『三国志』にはまり、それから吉川英治版へと進み、もっと中国が舞台の歴史小説が読みたいということで、井上靖作品に手を伸ばしていたのだ。
『天平の甍』は日本の遣唐使が題材であるからして、彼の代表的な歴史小説といえるこの作品をあっさりパスしていたのだった。
ただ読んでみると、ほとんど中国が舞台。というのも、遣唐使と一緒に派遣された主人公の僧侶が、唐でも名僧として非常に名高い鑑真を伴って日本に帰還するまでを描いた物語なのだが、これがもう何十年経ってもぜんぜん帰って来ない。
まあ、あのころの自分が求めていたものとは違ったかもしれない。
それはさておき、今回この話を読んで、描かれた鑑真の生き方にとても感動した。
鑑真は留学僧達の依頼を受けて日本行きを決心してから実際に辿り着くまでに、5回の航海に失敗、足掛け11年の歳月を費やしている。鑑真ほどの高名な僧になると、唐としても異国に手放したくはなく、様々な妨害が企てられる。また、それを乗り越えて海に出たとしても、一度遭難してしまえば全てを失いまたゼロからやり直しとなる。それも命が助かればの話。航海に出た船の半分ほどは荒波の中で沈んでしまう。その危険と苦難は今からは想像できない。
あるものは逃げ、あるものは諦め、あるものは道半ばにして死ぬ。鑑真はもっとも高齢であるにも関わらず、心身の健康を堅固に保ち、その意思を静かに貫徹していく。
そしてもうひとり、ひとつの目的を実現するために全てを捧げる老僧が登場する。業行というその僧は、古くから唐に入っていた日本の僧で、彼の地の経典を日本に持ち帰るべく狂ったように写経に没頭し、何十年という月日を経て膨大な経巻の山を築きあげる。そして、それらを日本に送り届けることが、彼にとって何よりも大切な使命となった。
鑑真と業行、日本に正しい仏教をもたらすべく全てを捧げて使命を遂げようとする、その点では同じように見えるかもしれない。しかし、この作品においてこの二人の老僧の生き方はとても対照的に描かれている。
たとえ航海に失敗して未開の土地に漂着したとしても、その土地に寺を築き、正しい教えを広めようとする鑑真。運命を受け入れ、今出来る事を行い、静かに再起の時を待つ。どんな時にも彼の周りには、彼を慕い、信頼のおける多くの人が集まってくる。
かたや、自らの全てを注ぎ込んだ経巻の山に執着し、命よりも大切となったそれらの中に埋もれて、次第に病的な様相を呈していく業行。それらが少しでも失われることを恐れ、頑な態度により孤立を深めていく。
ついには日本に辿り着き使命を果たすことになる鑑真。そして、同じ船団で帰国の途につきながら、悲劇的な最期をむかえることになる業行。この二人の生き方の対比の中に、理想的な心の在り方を見た気がする。
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もともと、ビジネス書や歴史小説を読むことが多かったですが、
最近読書の幅が拡がってきました。おもしろい本、教えてください!
※ちなみにシカです。犬ではございません。
※(シカの)出身は厳島です。奈良ではございません。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:230
- ISBN:9784101063119
- 発売日:1975年11月03日
- 価格:420円
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