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ゆうちゃん
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銀雄伝の外伝の第一巻。正伝の前日譚、主人公ラインハルトと、その両腕と言ってよい幕僚ミッタマイヤーとロイエンタールとの邂逅を描く。
SFのジャンルのひとつに、未来の架空の歴史を叙述する「未来史」と言うものがある。アシモフの銀河帝国シリーズがその典型だが、本書は「銀雄伝」若しくは「銀英伝」の略称で親しまれる銀河帝国(アシモフと名前が同じだが、内容は関係ない)ものである。
共和政を乗っ取ったゴールデンバウム朝による帝政開始後五百年、凡庸で無気力なフリードリヒ4世治下、他を顧みない貴族が運営する帝政は、腐りきっていた。帝政に見切りをつけた共和政主義者たちが、銀河帝国領の一部に建国したのが自由惑星同盟であったが、こちらの政治も共和政とは名ばかりで建国当初の理想を忘れ、銀河帝国と無益な戦争ばかりしていた。

このシリーズは正伝十巻の他に外伝があり、本書がその外伝の第一巻で、正伝の一巻目の前日譚を扱っている。主人公は銀河帝国の若き貴族ラインハルト・フォン・ミューゼルであり、下級貴族だったところが美しい姉アンネローゼがフリードリヒ4世の寵姫となり、そのお陰で二十歳にもならないのに異例の大将にまで昇進している。では、ラインハルトは、そんな皇帝に恩義を感じているかと言えばそうではなく、姉をかどわかした男、そして腐った政治を放置する無責任な男として憎んでいて、いつか自分が政権を握りたいと思っている。だが、若きラインハルトはまだ無力であり、この外伝では、後にラインハルトの両腕ともなるロイエンタール少将とミッターマイヤー少将との出会いが描かれている。
内容としては、最初と最後に自由惑星同盟と帝国軍の会戦(第三、四次ティアマト会戦)が描かれ、その間にアンネローゼのせいで皇帝の寵愛を失ったシュザンナ・ベーネミュンデ侯爵夫人がアンネローゼを排する画策をして失敗する経緯、そして名門貴族クロプシュトック侯爵の反乱の経緯が述べられる。
クロプシュトック侯爵の反乱がラインハルトとロイエンタール少将とミッターマイヤー少将を結び付けた。クロプシュトック侯爵はフリードリヒ4世の即位前にその弟に対して「次期皇帝」と肩入れをしていたものだから、フリードリヒ4世の即位後は不遇で、とうとう皇帝の爆殺を試みたのだった。しかしその暗殺は失敗し、彼は逃亡する。皇帝は成敗の軍を差し向けたが、その軍は軍功にだけ関心のある若い貴族たちの烏合の衆。これではまずいと軍務省は、ロイエンタール少将とミッターマイヤー少将を軍事指南につけた。簡単に勝てる筈の戦いも、烏合の衆では手間取り、両少将が苦労して指導した結果、やっと勝っても若い貴族たちは軍規に反して目に余る行為をする。ミッターマイヤーが、気位だけは高い名門貴族の大尉に懲罰をしたものだから、少将ながら営巣に放り込まれ、不当な軍事裁判で処刑されかねない状況になっていた。ミッターマイヤーの親友ロイエンタールは、ここでラインハルトを頼り、ミッターマイヤーの処遇に口利きを頼む。ラインハルトの究極の目的は今の帝政を倒し、新しい政治をすることだった。それには仲間が必要である一方、下手な仲間を募れば反乱分子と密告される危険がある。そう言った意味で仲間の選定は慎重でなければならないのだが、この事件をきっかけに、両少将とラインハルトはお互いをよく理解でき、ふたりはラインハルトに忠誠を誓う。

正伝を読んだのはもう10年も前だろうか。懐かしい。正伝の第一巻の記述を手掛かりにすると、著者はこの小説の時代を紀元3600年頃に設定しているようだが、こうして改めて読んでみると、このシリーズはSFと言うよりは、自由に記述した歴史小説に読める。主な出来事も宮廷・戦場と政治・軍事の場であり、宇宙船が戦艦にとって代わっているだけである。宇宙を舞台にしながらも、時刻は24時間制、年も地球の1年/12カ月で四季もある。宇宙のどんなに離れた場所でも4月は4月であり、9月は9月となっている。軍事の分野では、宇宙を舞台にしているだけあって、ガス惑星の性質を使っての戦争などSFっぽい部分はあるが、著者は、政治の分野では主に西洋史の分野から適当な事件をモデルにしてこの小説を生み出したのだろう。解説を読むと、著者は本書を正伝の第七巻付近で執筆しているとのこと。かなり物語が進んだところで執筆しているので、懐かしく書いているところだろう。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1687 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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