マーブルさん
レビュアー:
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ずっと敬遠してきた三島。しかし意外にも縮まる距離を感じた。
人は誰しも告白すべき何かを隠しているのかもしれない。
まして作家であれば、ひとつの作品を産み出すような告白があるのだろう。
「青春」と恥ずかしげもなく呼んでみる。
そんな、自らの人となり、自らの運命を、ロマンチックに考え勝ちな時間。
「告白」と大それた思いで書き記したくなるのではないか。
三島を敬遠していた。
敬遠しながらも、一度読んではみたのだが、まったく記憶に残っていない。
ただ、その性的な偏りだけが印象に残った。
女性に対して性的興奮を得ることができない。
男性にならそれを感じることができる。
書かれた当時であれば衝撃的な「告白」だったかもしれないが、現代はその刺激も随分と見慣れたものとなっている。
初読の時より、その部分を怖がらずに読んでみると、異性、同性に関わらず恋する若い魂の繊細な視線、息苦しいまでの思いを感じる。
恋する相手の身体の線。仕草。思わず触れた指の感触。泥にまみれた白い手袋。
ああ、これはよくある「青春」を描いた小説となんら変わらないではないか。恐れることはない。誰しもが感じるが、表現できるかどうかの違いだけ。どう扱えばいいのか、途方にくれる若さと、それを失いつつあるが冷静に見られるようになる大人。大人になってもそれを忘れずに形にできるのは純真さが残るのか、それとも作為なのか。
そんな疑いを抱きながら読むこちらの想いを見透かすような読者への問いかけ。
または、対象の性別を抜きにすれば万人と変わらぬ思いではないか、と考えれば、
やはり、迸る想いを書き連ねているだけではなく、冷静に読者の目を意識しているように思える。
私の三島の印象は厚い胸を軍服で包み、額に鉢巻きを巻いて演説する姿。
どんな理由で自殺したのか、それすら知識もなく、興味も持たずにここまで来た。
再読してみて、そんな印象は拭い去られる。
内面はどうあれ、線の細い、遠慮がちな姿に見える。
ペースを落とし、ゆっくり読んでみる。
静かな、暗めのピアノが聴こえてくるような。
例えばサティ。
友人の妹がたどたどしく弾くピアノの描写が現れる。繰り返し、読者である私が見られているような錯覚を覚え、次第次第に距離が縮まるのを覚える。
妹の弾くピアノを表現する文章に感心する。
ずっと三島を警戒していたが、こんな描写を楽しみながら静かに読む読み方もあったのだ。
「世界のミシマ」を理解できるかどうか。
あるいは、同性愛に対する偏見。
未来など信じられぬ若者の叫びを鋭く代弁してはいないか。
【読了日2019年9月3日】
まして作家であれば、ひとつの作品を産み出すような告白があるのだろう。
「青春」と恥ずかしげもなく呼んでみる。
そんな、自らの人となり、自らの運命を、ロマンチックに考え勝ちな時間。
「告白」と大それた思いで書き記したくなるのではないか。
三島を敬遠していた。
敬遠しながらも、一度読んではみたのだが、まったく記憶に残っていない。
ただ、その性的な偏りだけが印象に残った。
女性に対して性的興奮を得ることができない。
男性にならそれを感じることができる。
書かれた当時であれば衝撃的な「告白」だったかもしれないが、現代はその刺激も随分と見慣れたものとなっている。
初読の時より、その部分を怖がらずに読んでみると、異性、同性に関わらず恋する若い魂の繊細な視線、息苦しいまでの思いを感じる。
恋する相手の身体の線。仕草。思わず触れた指の感触。泥にまみれた白い手袋。
ああ、これはよくある「青春」を描いた小説となんら変わらないではないか。恐れることはない。誰しもが感じるが、表現できるかどうかの違いだけ。どう扱えばいいのか、途方にくれる若さと、それを失いつつあるが冷静に見られるようになる大人。大人になってもそれを忘れずに形にできるのは純真さが残るのか、それとも作為なのか。
そんな疑いを抱きながら読むこちらの想いを見透かすような読者への問いかけ。
私が現在の考えで当時の私を分析しているにすぎないという謗りを免れるために、十六歳当時の私自身が書いたものの一節を写しておこう
または、対象の性別を抜きにすれば万人と変わらぬ思いではないか、と考えれば、
私は正常な人たちの思春期の肖像と外目にはまったくかわらない表象を、くどくどと描写する気になれなかった
やはり、迸る想いを書き連ねているだけではなく、冷静に読者の目を意識しているように思える。
私の三島の印象は厚い胸を軍服で包み、額に鉢巻きを巻いて演説する姿。
どんな理由で自殺したのか、それすら知識もなく、興味も持たずにここまで来た。
再読してみて、そんな印象は拭い去られる。
内面はどうあれ、線の細い、遠慮がちな姿に見える。
ペースを落とし、ゆっくり読んでみる。
静かな、暗めのピアノが聴こえてくるような。
例えばサティ。
友人の妹がたどたどしく弾くピアノの描写が現れる。繰り返し、読者である私が見られているような錯覚を覚え、次第次第に距離が縮まるのを覚える。
妹の弾くピアノを表現する文章に感心する。
手帖を見ながら作った不出来なお菓子のような心易さがありーーー
ずっと三島を警戒していたが、こんな描写を楽しみながら静かに読む読み方もあったのだ。
「世界のミシマ」を理解できるかどうか。
あるいは、同性愛に対する偏見。
どうしてこのままではいけないのか?少年時代このかた何百遍問いかけたかしれない問いが又口もとに昇って来た。何だってすべてを壊し、すべてを移ろわせ、すべてを流転の中へ委ねねばならぬという変梃な義務がわれわれ一同に課せられているのであろう。
未来など信じられぬ若者の叫びを鋭く代弁してはいないか。
【読了日2019年9月3日】
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文学作品、ミステリ、SF、時代小説とあまりジャンルにこだわらずに読んでいますが、最近のものより古い作品を選びがちです。
2019年以降、小説の比率が下がって、半分ぐらいは学術的な本を読むようになりました。哲学、心理学、文化人類学、民俗学、生物学、科学、数学、歴史等々こちらもジャンルを絞りきれません。おまけに読む速度も落ちる一方です。
2022年献本以外、評価の星をつけるのをやめることにしました。自身いくつをつけるか迷うことも多く、また評価基準は人それぞれ、良さは書評の内容でご判断いただければと思います。
プロフィール画像は自作の切り絵です。不定期に替えていきます。飽きっぽくてすみません。
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