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かもめ通信
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そうそう、私も常々思っていたの!あしながおじさんのジュディはなぜ作家にならずに、資産家夫人に収まってしまったのかって!
“19世紀の終わりから20世紀にかけて、欧米で書かれた少女向けの家庭小説”=少女小説と定義して、翻訳やTVアニメを通じ、日本でも広く世代を超えて愛されてきた『若草物語』『家なき娘』(=ペリーヌ物語)『小公女』『赤毛のアン』『あしながおじさん』の5つの少女小説を軸に、それらが書かれた時代背景との関連や物語同士の関連を紐解く評論集。

ちょっぴりお堅い研究論文風の構成ではあるが、そこはそれ、昔懐かしい物語の主人公たちが、それぞれの世界にしっかり連れて行ってくれる。

たとえば『若草物語』の四人姉妹。
ジョーとベス、メアリーとエミリーの組み合わせは容易に想像がつくし、メアリーとジョーも年の近さから共通項があるのはわかるが、あのジョーとあのエミリーにこういう共通点があったとは!ちょっと思いつかなかったなあ。

『家なき娘』の主人公ペリーヌの亡き母はインド人で亡父はフランス人。
彼女は幼年期をインドで過ごしはしたが、母語のフランス語の他に母から教えられた英語を武器に世渡りをしていくバイリンガル。
フランスの男性作家が描いたこの物語には、空想的社会主義思想が反映されているという。

一方まるで生粋のフランス人のようなフランス語を話すという『小公女』のセーラは、幼年期をインドで過ごしたイギリス人。
英国社会の外からきた普通のイギリス人の少女らしくない女の子は、社会の矛盾を指摘し、その行き詰まりを打開し、制度を問い直し批判と革新を担うことができるという役どころ。
しかしこれまた、最後には結構こじんまりとまとまったレディになってしまうのよねえ。

そしてみんな大好き(?)『赤毛のアン』。
実をいうと私はこの物語が昔からすごく苦手だった。
それにしてもリンドグレーンの『長くつ下のピッピ』が、赤毛のアンのパロディだったという説は有名だったの?!私は初耳!!
そう言われてみれば、思い当たる節が。
思えば私も、ピッピに先に惚れたから、アンが尚更苦手だったのかもしれないなあ。

そしてまた『続・あしながおじさん』と『ジェイン・エア』の危ない関係に思わずのけぞる?!

気に入った少女を好きなように教育し、十分育ったところで妻に迎えるといういわゆるピグマリオン・コンプレックスは一見男性のファンタジーのように思えるのに、それを描くのはいつも女性作家だという指摘は非常に興味深い。

そうそう、私も常々思っていたのよ!
あしながおじさんのジュディはなぜ作家にならずに、資産家夫人に収まってしまったのかって!

まあこんな具合に、それぞれの物語を書かれた時代と照らして分析するその過程はわかりやすく、面白いく、思わずあれもこれも改めて読んでみたくなってしまう。

もっともネタとしての面白さは十分あるものの、書かれた時代と密接な関係を持っているのはなにも少女小説だけではないわけで、それで結局……という「総論」としてのインパクトが今ひとつ弱いような気がしないでもなかった。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. keena071511292018-01-26 20:03

    >幼年期をインドで過ごし

    『秘密の花園』の主人公 
    メアリーもこのクチですが 
    この共通性に何か意味はあるのでしょうか? 

    >あしながおじさんのジュディはなぜ作家にならずに
    >資産家夫人に収まってしまったのか 

    僕は『赤毛のアン』のアンについて 
    全く同じ意見を持っていて 
    奨学金を受けることが出来るほど 
    優秀なアンでしたが 
    結局 単なる主婦に収まっています 

    奨学金というのは 
    その人の将来性への投資だと思いますが 
    アンの勉学欲を満たすだけで終わってしまいました 
    高校生の頃に読んだときは気がつかなかったのですが 
    大人になって読んでみると 
    この作品は何か“イヤな感じ”がします
    出来事がアンにとっていろいろ都合が良過ぎるんですよね
     
     

  2. かもめ通信2018-01-26 21:46

    ヒロインが幼年期をインドで過ごすという設定は
    当時の「世相」という共通性の他に
    きっちりと分け隔てられていた階層や世間的なタブーを打ち破る存在として
    インドで育った“常識外れな”ヒロインが求められていたからだとありましたね。
    実際のところインド育ちの子どもたちの話す英語はどうしても訛りがちなので
    子どもだけでも英国に送り返して
    上流階級にふさわしい英語を身につけさせる必要があるともされていたようです。

    ジュディやアンの“その後”については
    やはり時代的な制約や作者の限界などいろいろあるのでしょうね。
    この本でもその辺のことにも多少は触れられていました。

    また先日読んだ本にもありましたが児童文学の場合は特に
    子どもに買い与える大人の意向にもある程度添うことを求められるという
    問題も大きいのかもしれせんね。

  3. かもめ通信2018-01-26 21:47

    尚、これはちょっと余計な話かもしれませんが
    正直に申し上げるならば
    私自身がアンが好きかどうかという問題は別として、
    “単なる主婦”というカテゴリにもやはり抵抗を感じてしまいます。
    “単なる主婦”になるとわかっていたら奨学金はやれませんか?
    “単なる会社員”ならいいのでしょうか?

    このテの問題はいろいろと難しいですね。
    だからこそ、こういう本を読むのが結構好きだったりします。

  4. keena071511292018-01-27 06:40

    >>かもめ通信さん 

    奨学金は他者の援助で勉学するものです 
    ならば奨学金で学んだ者は 
    それを他者に還元する義務があるのではないでしょうか? 

    そういう意味では“単なる会社員”でも駄目だと思います
    別に弁護士や学者になるとか 
    そういうことだけではなくて 
    小さなことで良いのでも“借りを返す姿勢”を 
    見せて欲しかったです

  5. かもめ通信2018-01-27 07:34

    “社会貢献”とはなにか、という問題に踏み込むとまたちょっとややこしいことになりそうなので、そもそもの本題にもどしますが、たしかアンは、奨学金の受給資格は得たものの、そのまま大学には進学しなかった…と記憶しているのですが、違ったでしょうか?

    随分昔に一度読んだきりなので間違っているかもしれませんが、マシューが死に一度は進学を諦めて教師となり、その後お金を貯めて再び大学をめざし、卒業後は校長にもなったのではなかったかと…。

    確かにその後、結婚をし多くの子をもうけて“主婦”とはなりましたが、「職業婦人」と母親業とはなかなか両立できない時代でもあったのではないかと思います。

    私は「赤毛のアン」は苦手でしたが、アンはよくやったと思った記憶が。

  6. keena071511292018-01-27 22:00

    >奨学金の受給資格は得たものの
    >そのまま大学には進学しなかった

    あれ そうだったかな? 
    僕は3回くらいこの作品を読んでいますが 
    読めば読むほど嫌いになっていったので 
    記憶が歪んでいるのかもしれません 

  7. No Image
    りゅうちゃん2018-01-28 13:32

    こんにちは。
    アンの大学進学についてですが、アンは奨学金を得たもののマシュウが亡くなります。
    マリラも高齢で失明の危機にあるため、アンはアヴォンリーに残る決心をします。
    レドモンド大学にアンが入学するのは、第三巻「アンの愛情」でのことです。
    私の記憶違いがあるかもしれませんので、確認願います。

  8. かもめ通信2018-01-28 14:30

    >keena07151129さん!
    苦手なのに3回も読んだのですか!それもすごい!
    私は通読するのが精一杯だったのですが、
    ‎昔読んだ村岡花子訳ではなく、松本侑子訳ならあるいは……と
    随分前からこの本↓を積んでいます。積んでいるだけですが……。

  9. かもめ通信2018-01-28 14:32

    >りゅうちゃんさん
    そうですね。
    マシューの死により奨学金を受けて進学することを諦めた。
    そうだったと思います。
    手元にないので本を確かめてはいませんが。

  10. keena071511292018-01-28 21:38

    >>かもめ通信さん 

    >苦手なのに3回も読んだ 

    僕はこの作品が好きだったんですよね 
    だから元々 村岡花子訳を持っていて 
    松本侑子訳が出たときに 
    両者を見比べながら読み返してみました 

    すると昔は気づかなかった 
    この作品のイヤな部分が次々に見えてきて 
    昔のように「好き」と言えなくなってしまいました 

    今回 かもめ通信さんとやり取りする中で 
    「僕はこの作品が嫌いになってしまったんだな」と 
    改めて自覚しました 

    いつになるか解りませんが 
    近いうちに『赤毛のアン』を読み返して 
    今の僕の考えを書評にまとめてみようと思います 

    ちなみに僕が嫌いなのは“アン・シャーリー”という 
    キャラクターではなく 
    ルーシー・モンゴメリという作者の人間性です 
     

  11. かもめ通信2018-01-28 21:46

    keena07151129 さんが『赤毛のアン』のレビューをお書きになった際には
    必ず読ませていただきますね。

  12. No Image
    りゅうちゃん2018-01-29 09:00

    こんにちは。再び横から失礼します。
    アンのシリーズは引用の多さと、それに気がつかない自分の教養の無さが嫌になります。
    聖書をはじめテニスン、シェイクスピアなど。
    村岡訳を読んだ際にはその多くに気がつきませんでした。
    検索を駆使した松本訳を読み、「これを読む資格が自分にあるのか?」と自分に問いました。
    「アンの青春」を終えた時点で読み続けるのが怖くなったくらいです。
    何度もこのシリーズを読める人がうらやましいとさえ思います。

  13. かもめ通信2018-01-29 12:14

    りゅうちゃんさん
    アンに限らず,元ネタや引用など小説には沢山の含みがありますよね。
    とりわけ海外の作品の場合,その元が解らずに読み逃してしまいがちですが,
    ずっと後になってから別の作品を読んでいるときにふと
    もしかしたらあの作品のあの場面はこの作品からの引用だったのでは……
    などと気づいたりするのもまた楽しいものだと私は思っています。

  14. No Image
    りゅうちゃん2018-01-30 08:54

    くどいようですが・・・

    私はアンのシリーズで、後から「この引用か!」と気がついたことが一度もないのです。
    皆さん、引用だらけということに気がついているんですかね。
    そんなに聖書やテニスン、シェイクスピアに親しんでいるのでしょうか。
    大いに疑問です。

  15. かもめ通信2018-01-30 09:10

    りゅうちゃんさん!くどいようですが・・・
    私はアンのシリーズを数十年も前に1度読んだことがあるだけなので,
    なんとも言えませんが,いつか積読山に眠る松本侑子さんの訳本を
    読んだあかつきには,その点についてもご報告させて戴きますね!

  16. No Image
    りゅうちゃん2018-01-30 14:59

    気長に待ってます!

  17. ぴょんはま2018-01-31 20:36

    挙げておられる作品のうちで、実は「赤毛のアン」だけ読んでいません。このまま読まなくてもいいような気もしてきました。

  18. かもめ通信2018-01-31 21:10

    ぴょんはまさんw
    まあそうおっしゃらずにどうです。最初の一冊だけでもご一緒しません?ww

  19. No Image
    りゅうちゃん2018-02-01 08:54

    「赤毛のアン」シリーズの読者がひとり減ったら、私の責任ということですかね。

  20. かもめ通信2018-02-01 09:22

    >りゅうちゃんさん
    ぴょんはまさんは私のレビューを読んでおっしゃっているのだと思いますよ。

    ちなみにもし私のレビューでアンの読者が一人減ったとしても,私なら気にしません。
    本好きの方がいままで読んでこられなかったということは
    元々それほど関心をもっておられなかったのでしょうし,
    本を読むこと自体が嫌になった……というならともかく,
    お薦めしたい本は他にも山ほどありますしね。

  21. No Image
    りゅうちゃん2018-02-01 19:57

    >かもめ通信さん
    「まあそうおっしゃらずにどうです」なのに「私なら気にしません」ですか?
    矛盾してませんか?

  22. かもめ通信2018-02-01 20:09

    りゅうちゃんさん、
    私の中では矛盾していませんが?
    どなたが読まれても読まれなくても気にしませんが、
    ご一緒していただくならそれはそれで楽しいとも思いますので。

  23. No Image
    りゅうちゃん2018-02-01 20:16

    かもめ通信さん
    そうですか。
    気にしてないなら「そうおっしゃらずに」とはコメントしないものだと考えました。

  24. No Image

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