レビュアー:
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口笛を吹いて風を呼べ。白い帆を上げ進路を取れ。自分の行きたい方向へ。
人は幾つになっても他人と自分を比べてしまう。中学生だったらなおさら「なんであの子みたいになれないんだろう」「みんな僕をバカにしてるんだろうなあ」なんて、情けなくなるだろう。このお話の主人公海生(かいせい)も、サイアクの夏を迎えた。やりたくもない中学受験に失敗し、難関を突破した優秀な兄と比べられ、「高校こそは!」という親の期待が苦しい。そして、彼の一番の理解者、大好きなおじいちゃんが突然死んでしまった。
「もう決めた。家出する。」
ディンギー(小型ヨット)に乗って、愛犬と親友とその妹を連れて。家出するのにちゃんと犬を連れてゆく男の子は、いいヤツである。半分テリアのウィスカー君の、犬らしい活躍ぶりも見逃せない。
彼らは操縦を教えてくれたおじいちゃんを思い出しながら、セールに風をはらませ海を走ってゆく。途中で思わぬ人間の拾い物をしたり、秘密の入り江に埋められたおじいちゃんの遺書を探したり。夏の数日は、潮風と波のさざめき、月の砂浜と焚き火のはぜる音、眩しい光と笑い声に彩られている。
イケメンでお茶目なヨットマン(それに読書家)の、亡きおじいちゃんが実に魅力的だ。ヨットもクルーザーも別荘も所有するほど裕福で、恵まれた人生を送ったかに見える。でも、おじいちゃんは仕事のために夢を諦めた。海生に託された小さな銀の腕輪や、「海に流してくれ」と頼まれた小さな瓶は、おじいちゃんの過去の大きな悲しみを語る。
口笛を吹いて風を呼べ。良い風ばかりは吹かないぞ。風を読んで、本当に行きたい方向に舵を切るんだ。自分で選べば、良い日も悪い日も自分で引き受けられるのだから。
“我々でないもの”は、たくさんある。
たくさんある。
“我々が、ならなくていいもの”は、たくさんある。
挫折を知らなければ、伝えられない言葉がある。挫折を知って初めて、心に届く言葉がある。少年の成長物語の中でも、とりわけ胸打たれる作品だと思う。おじいちゃんが海生に残してくれたのは、貴い人生のコンパスだ。
*ただいま開催中の、 #棚マル フェア を応援する書評です!
「もう決めた。家出する。」
ディンギー(小型ヨット)に乗って、愛犬と親友とその妹を連れて。家出するのにちゃんと犬を連れてゆく男の子は、いいヤツである。半分テリアのウィスカー君の、犬らしい活躍ぶりも見逃せない。
彼らは操縦を教えてくれたおじいちゃんを思い出しながら、セールに風をはらませ海を走ってゆく。途中で思わぬ人間の拾い物をしたり、秘密の入り江に埋められたおじいちゃんの遺書を探したり。夏の数日は、潮風と波のさざめき、月の砂浜と焚き火のはぜる音、眩しい光と笑い声に彩られている。
イケメンでお茶目なヨットマン(それに読書家)の、亡きおじいちゃんが実に魅力的だ。ヨットもクルーザーも別荘も所有するほど裕福で、恵まれた人生を送ったかに見える。でも、おじいちゃんは仕事のために夢を諦めた。海生に託された小さな銀の腕輪や、「海に流してくれ」と頼まれた小さな瓶は、おじいちゃんの過去の大きな悲しみを語る。
口笛を吹いて風を呼べ。良い風ばかりは吹かないぞ。風を読んで、本当に行きたい方向に舵を切るんだ。自分で選べば、良い日も悪い日も自分で引き受けられるのだから。
“我々でないもの”は、たくさんある。
たくさんある。
“我々が、ならなくていいもの”は、たくさんある。
挫折を知らなければ、伝えられない言葉がある。挫折を知って初めて、心に届く言葉がある。少年の成長物語の中でも、とりわけ胸打たれる作品だと思う。おじいちゃんが海生に残してくれたのは、貴い人生のコンパスだ。
*ただいま開催中の、 #棚マル フェア を応援する書評です!
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「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。
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- 出版社:講談社
- ページ数:322
- ISBN:9784062149945
- 発売日:2009年03月28日
- 価格:1680円
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