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Jun Shinoさん
Jun  Shino
レビュアー:
大谷崎のデビュー作「刺青」。物語が放つ新鮮な妖気。
発表は明治末。大谷崎のデビュー作。うむ、なるほど、といった感があった。

「刺青」「少年」「幇間」「秘密」「異端者の悲しみ」「二人の稚児」「母を恋うる記」が収録されている。

「刺青」は明治43年の発表である。若い刺青師の清吉は人々の肌に針を刺す時、客のうめきが激しければ激しいほど不思議に言い難い愉快を覚えていた。清吉の年来の宿願は光輝なる美女の肌に己れの魂を彫り込むこと。ある日、清吉がたまたま見かけてその素足に魅惑された少女が、馴染みの芸妓の使いとして清吉のもとを訪れたー。


この短いデビュー作のあらすじは概ね知っていたが、読んでみると確かに妖しい魅力を放っている。どちらかというとサディスティックな面だけでなく、光輝な女に刺青を施す場面の魔界のような雰囲気、美しさを含んだ独特のムード、娘の変化(へんげ)が放つ艶やかさに呑み込まれる。

次の「少年」もまた、幼い物語ではあるが、マゾヒスティックな感覚に惹かれる子供たちに妖しさの続きを感じ、ラストもまたSMチックな香りが匂い立つ。ちょっと江戸川乱歩っぽいかも。完成度の高い作品だ、とつい思ってしまった。あんまり倒錯的なものは好きじゃないはずだったんだけど思わず。ともかくこの並びには唸ってしまった。

「幇間」「二人の稚児」は、時代の前後と2人の関係はあろうが、最初の印象は芥川龍之介に似てる、だった。「二人の稚児」は王朝的、仏教の色合いが濃い説話風な話である。

昔付き合っていた男女が少々風変わりな再会をする「秘密」はもうひとつ惹かれるものがなし。100ページ近くで最も長い「異端者の悲しみ」は旧制一高に通う学のある主人公が家族との葛藤や友人との不義理な付き合い方を通して自分というものを問いかける。谷崎自ら自叙伝的作品としている。うーんまた毛色が違う破滅的な話。

ラストの「母を恋うる記」はファンタジー。心象風景のような夜の海辺、松林、蓮の葉。どういった方向へ進むんだろう、と思っていると小説的に気持ちよく収まる。ほうっとした気分で読み終えた。

谷崎はまだ慣れないのか読むのに随分と時間がかかった。でも特に最初の2編には新鮮な境地に陥って納得感があった。
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Jun  Shino
Jun Shino さん本が好き!1級(書評数:1376 件)

読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。

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