三太郎さん
レビュアー:
▼
僕は若い頃に井伏鱒二が好きだった。これは井伏の釣りに関わる文章を集めた本。
僕は若い頃に井伏鱒二が好きだった。沢山読んだわけではないが、この本は読んだ覚えがあった。でも文庫版が出たのが1990年だから計算が合わない。この文庫は1952年に出た新書版が元だと言うからそちらを読んだのかも。これは井伏が書いた川釣りや渓流釣りの文章をまとめたものだが、小説というよりは随筆なのかな。開高健ならこれは小説だといいそうだけれど。気に入った話をいくつか紹介します。
巻頭の「渓流」は自由詩のようなもの。最後の二行がお気に入り。
「釣魚記」は戦前の作品で、井伏が釣りを覚えた頃の話。釣り好きはせっかちで好色なんだそうな。七月に南伊豆で釣り宿に泊まっていたら洪水にあった。ちょうどその頃三宅島の噴火もあったという。釣りで知り合ったカワセミの親父は川を見ながらあと15日も経てば相当でかいのが釣れるぞというが、井伏は引き上げたという。
川での鮎釣りの話から始めて渓流でのヤマメ釣りの話に移る。「釣魚余談」は戦後の渓流釣りの話。
「釣魚雑記」は井伏が戦中に徴用されてマレー半島に行っていた時の釣りの話。シンガポールで釣りをしていたら憲兵に尋問され、モーパッサンの「二人の友」という小説を思い出してひやりとしたという。その小説ではプロシャが包囲しているパリで二人の紳士が呑気に釣りをしていて捕まり、スパイ容疑で射殺される。
「ワサビ盗人」は小説。渓流釣りに来た村民がワサビ泥棒に気づいて機転を利かせて捕まえる話。盗みの方法が面白い。狸の習性を利用している。
「白毛」は変な味の話だ。井伏は最近前髪の白髪が増えていた。彼の白髪はテグスでいえば3毛(3号?)の太さで、後ろの黒髪は4毛半あった。渓流で都会からハヤ釣りに来た二人の若者にあったが、その一人がテグスを忘れてきた。そうしたらもう一人の若者が井伏を後ろから羽交い絞めにして、テグスを忘れた青年に井伏の白髪を抜いて繋いでテグスにするようにいった、という話。
白髪を無理やり抜かれた井伏は大いに憤慨したが、後日その話をバスで隣席になった老人に話したところ、白髪の伸縮性がハヤ釣りに十分かどうかは本人の禁欲の度合いによるというような話を始めた。老人は以前メダカ釣りに凝っていた。メダカを釣るための細いテグスなど売ってはいないから、近所の娘さん3人から額のうぶ毛をもらってテグスを作ったのだが、3人の内2人のうぶ毛は切れてしまった。切れなかったうぶ毛の娘だけが男をまだ知らなかったのだ、とその老人はいうのだが。
「掛け持ち」は甲府の温泉宿の番頭さんの話。その番頭さんは甲府の温泉が暇な間は伊豆の温泉の番頭を掛け持ちしていたのだが・・・電気ブランなんていう酒が出てくる。
「片棒かつぎ」は温泉に泊ったら若い美男と妙齢の美女の金庫破りに遭遇した話。浴場で二人に会った翌朝に男の方は捕まったが、女の方は宿を出たまま行方が分からない。井伏は警察が女を捕まえるのに協力させられる。当時の温泉は混浴が普通だったみたい。
「グダリ沼」は井伏が津軽は八甲田山の鹿湯温泉(今は酸ヶ湯温泉)に行く話。沢は魚がいないので近くのグダリ沼で釣りをし、蔦温泉に下る。この温泉には明治の文人、大町桂月の墓があるという。地元の釣り名人に釣り場の案内を頼むが言葉がまるで通じない。
僕は八甲田山にも酸ヶ湯温泉にもまだ行ってないことを思い出した。秋に一度行って見たいなあ。
巻頭の「渓流」は自由詩のようなもの。最後の二行がお気に入り。
「釣魚記」は戦前の作品で、井伏が釣りを覚えた頃の話。釣り好きはせっかちで好色なんだそうな。七月に南伊豆で釣り宿に泊まっていたら洪水にあった。ちょうどその頃三宅島の噴火もあったという。釣りで知り合ったカワセミの親父は川を見ながらあと15日も経てば相当でかいのが釣れるぞというが、井伏は引き上げたという。
川での鮎釣りの話から始めて渓流でのヤマメ釣りの話に移る。「釣魚余談」は戦後の渓流釣りの話。
「釣魚雑記」は井伏が戦中に徴用されてマレー半島に行っていた時の釣りの話。シンガポールで釣りをしていたら憲兵に尋問され、モーパッサンの「二人の友」という小説を思い出してひやりとしたという。その小説ではプロシャが包囲しているパリで二人の紳士が呑気に釣りをしていて捕まり、スパイ容疑で射殺される。
「ワサビ盗人」は小説。渓流釣りに来た村民がワサビ泥棒に気づいて機転を利かせて捕まえる話。盗みの方法が面白い。狸の習性を利用している。
「白毛」は変な味の話だ。井伏は最近前髪の白髪が増えていた。彼の白髪はテグスでいえば3毛(3号?)の太さで、後ろの黒髪は4毛半あった。渓流で都会からハヤ釣りに来た二人の若者にあったが、その一人がテグスを忘れてきた。そうしたらもう一人の若者が井伏を後ろから羽交い絞めにして、テグスを忘れた青年に井伏の白髪を抜いて繋いでテグスにするようにいった、という話。
白髪を無理やり抜かれた井伏は大いに憤慨したが、後日その話をバスで隣席になった老人に話したところ、白髪の伸縮性がハヤ釣りに十分かどうかは本人の禁欲の度合いによるというような話を始めた。老人は以前メダカ釣りに凝っていた。メダカを釣るための細いテグスなど売ってはいないから、近所の娘さん3人から額のうぶ毛をもらってテグスを作ったのだが、3人の内2人のうぶ毛は切れてしまった。切れなかったうぶ毛の娘だけが男をまだ知らなかったのだ、とその老人はいうのだが。
「掛け持ち」は甲府の温泉宿の番頭さんの話。その番頭さんは甲府の温泉が暇な間は伊豆の温泉の番頭を掛け持ちしていたのだが・・・電気ブランなんていう酒が出てくる。
「片棒かつぎ」は温泉に泊ったら若い美男と妙齢の美女の金庫破りに遭遇した話。浴場で二人に会った翌朝に男の方は捕まったが、女の方は宿を出たまま行方が分からない。井伏は警察が女を捕まえるのに協力させられる。当時の温泉は混浴が普通だったみたい。
「グダリ沼」は井伏が津軽は八甲田山の鹿湯温泉(今は酸ヶ湯温泉)に行く話。沢は魚がいないので近くのグダリ沼で釣りをし、蔦温泉に下る。この温泉には明治の文人、大町桂月の墓があるという。地元の釣り名人に釣り場の案内を頼むが言葉がまるで通じない。
僕は八甲田山にも酸ヶ湯温泉にもまだ行ってないことを思い出した。秋に一度行って見たいなあ。
お気に入り度:





掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
この書評へのコメント

コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:岩波書店
- ページ数:210
- ISBN:9784003107720
- 発売日:1990年09月01日
- 価格:588円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。




















