darklyさん
レビュアー:
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人気があるのも頷ける。力が抜けているからこそ生まれる心地よさ。
この作者の名前は以前から聞くことが多かったのですが、読んだこともなく、また数年前まで女性かと思っていました。高村薫さんと名前のイメージがダブってたのかもしれません。なんとなく読んでみようかという気になって調べると「円紫さんシリーズ」というのが人気らしいので本書を手に取りました。
スポーツでも仕事でも、もちろん小説を書くのもそうでしょうが、真剣に向き合えば向き合うほど力を抜くのは難しいと思います。特に経験があまりなく精神的な余裕がない状態で力を抜くというのは至難の業です。野球のピッチャーで言えば引退しました杉内という名選手がいました。彼の投球を見ていると振りかぶって投げる瞬間まで力が入っている感じがなく、投げる瞬間の指先にのみ全身の力が伝わっています。したがって見た目には全力で投げている感じがなくても球の伸びやキレは抜群でした。
通常は何事にも経験が少ない時は特に余計なところにガチガチに力が入り、結局どの分野においても空回りとなって、思っているほどの結果が出ないというのは普通の人間であれば誰しも経験があると思います。
本書は円紫さんという落語家と女子大生が主人公の日常ミステリー短編集ですが、読んでいて北村さんは力が抜けているなと感じました。「力を抜く」と「手を抜く」というのは一見近いように見えても全く違うものです。「手を抜く」のは誰でもできますが、「力を抜く」というのは選ばれし人間にしかできません。驚くことにこれがデビュー作ということです。
大変有名な本のようですので、つらつら作品を複数紹介するよりも「力が抜けている」と特に強く感じた作品について紹介したいと思います。
【胡桃の中の鳥】
主人公の<私>は蔵王に女友達二人と旅行する。行先が蔵王なのは蔵王の公民館で円紫さんの独演会があったためだ。<私>たちは宿で母親と二、三歳の女の子に会う。その後円紫さんとも会うが何事もなく旅が終わろうとした時に事件が。
旅に出るまでの静かな立ち上がり、少し他愛もなく中だるみ感もある女三人旅行記、円紫さんの出番がほとんどないまま終わりそうな予感、一転緊迫した展開と哀切極まりない結末。まるで交響曲でも聴いているかのようです。本書の最初の短篇での円紫さんとの出会いとちょっとしたミステリー、二つ目のなかなか楽しいが驚愕というほどではないミステリー、さあ次に読者が期待するのは唸るようなミステリー、どんな剛速球がくるのかと期待します。また新人作家としても普通、作家としての評価を確立したいと鼻息が荒くなり力が入りがちだと思いますが、まるで一打サヨナラのピンチの場面で勝負球がスローカーブのような、このように途中まで力の抜けているだけにラストが際立ち、キレを増す作品がでてくるとは!
ここまで来れば後は安定の二編。<私>の疑問の答えをさりげなく本文に忍ばせるなど小技も利いて読者は安心して楽しむと同時に北村ファンになる人も多いでしょう。先ほど紹介した作品を交響曲のようだと書きましたが本書の短篇5編も「人間の心の不思議」「人間の悪意」「人間の哀しみ」「人間の醜さ」そして「人間の良さ」という構成で全体を通しても素晴らしい交響曲を聴き終わったかのようなカタルシスがありました。
最後にどうでも良いことなのですが、本書でも何回か出てくる「くつくつと笑う」というのが昔から気になっています。どういう感じの笑いなのか。「クックッ」なのか。そうだとすると、ちびまる子ちゃんの野口さんのような笑いなのか気になります。
スポーツでも仕事でも、もちろん小説を書くのもそうでしょうが、真剣に向き合えば向き合うほど力を抜くのは難しいと思います。特に経験があまりなく精神的な余裕がない状態で力を抜くというのは至難の業です。野球のピッチャーで言えば引退しました杉内という名選手がいました。彼の投球を見ていると振りかぶって投げる瞬間まで力が入っている感じがなく、投げる瞬間の指先にのみ全身の力が伝わっています。したがって見た目には全力で投げている感じがなくても球の伸びやキレは抜群でした。
通常は何事にも経験が少ない時は特に余計なところにガチガチに力が入り、結局どの分野においても空回りとなって、思っているほどの結果が出ないというのは普通の人間であれば誰しも経験があると思います。
本書は円紫さんという落語家と女子大生が主人公の日常ミステリー短編集ですが、読んでいて北村さんは力が抜けているなと感じました。「力を抜く」と「手を抜く」というのは一見近いように見えても全く違うものです。「手を抜く」のは誰でもできますが、「力を抜く」というのは選ばれし人間にしかできません。驚くことにこれがデビュー作ということです。
大変有名な本のようですので、つらつら作品を複数紹介するよりも「力が抜けている」と特に強く感じた作品について紹介したいと思います。
【胡桃の中の鳥】
主人公の<私>は蔵王に女友達二人と旅行する。行先が蔵王なのは蔵王の公民館で円紫さんの独演会があったためだ。<私>たちは宿で母親と二、三歳の女の子に会う。その後円紫さんとも会うが何事もなく旅が終わろうとした時に事件が。
旅に出るまでの静かな立ち上がり、少し他愛もなく中だるみ感もある女三人旅行記、円紫さんの出番がほとんどないまま終わりそうな予感、一転緊迫した展開と哀切極まりない結末。まるで交響曲でも聴いているかのようです。本書の最初の短篇での円紫さんとの出会いとちょっとしたミステリー、二つ目のなかなか楽しいが驚愕というほどではないミステリー、さあ次に読者が期待するのは唸るようなミステリー、どんな剛速球がくるのかと期待します。また新人作家としても普通、作家としての評価を確立したいと鼻息が荒くなり力が入りがちだと思いますが、まるで一打サヨナラのピンチの場面で勝負球がスローカーブのような、このように途中まで力の抜けているだけにラストが際立ち、キレを増す作品がでてくるとは!
ここまで来れば後は安定の二編。<私>の疑問の答えをさりげなく本文に忍ばせるなど小技も利いて読者は安心して楽しむと同時に北村ファンになる人も多いでしょう。先ほど紹介した作品を交響曲のようだと書きましたが本書の短篇5編も「人間の心の不思議」「人間の悪意」「人間の哀しみ」「人間の醜さ」そして「人間の良さ」という構成で全体を通しても素晴らしい交響曲を聴き終わったかのようなカタルシスがありました。
最後にどうでも良いことなのですが、本書でも何回か出てくる「くつくつと笑う」というのが昔から気になっています。どういう感じの笑いなのか。「クックッ」なのか。そうだとすると、ちびまる子ちゃんの野口さんのような笑いなのか気になります。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:357
- ISBN:9784488413019
- 発売日:1994年03月01日
- 価格:714円
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