邪魔（上）

奥田英朗作「邪魔　上」を読みました。

チンピラ高校生の渡辺裕輔は、チンピラ仲間の洋平と弘樹と共にオヤジ狩りをして小遣いを稼いでいました。しかしその夜絡んだオヤジ九野は3人を少しも恐れず、洋平の腕を折り、殴りかかった裕輔の顎を殴って顎骨にひびを入れました。しかし同僚の井上が九野を制止し。。。

すると九野達が監視していた悪徳警官花村が割って入り、自分を監視していたのは副署長工藤の差し金かと詰問して九野達は引き下がりました。実は花村は元婦警のホステス美穂と出来ており、かつて美穂と付き合っていた九野に嫉妬していたのでした。九野はいつものように亡妻の母親に電話しました。交通事故で亡くなった亡妻は母親を大事にしており、今は九野が代わりに親孝行を続けていたのでした。

及川恭子は家事を片付けるといつものように近所のスーパースマイルのパートに出掛けました。夫の茂則は自動車用品メーカーハイテックスの本城支店に勤めていました。スマイルはブラック企業で、パートに社会保険加入もさせず、退職金も出さず、有給休暇も認めませんでしたが、そんなものだろうと恭子達パート従業員は諦めていました。

この日九野達は美穂が勤めるバーを監視していました。すると清和会のヤクザ大倉が現れ、自分の店で一杯やってくれと愛想良く言いました。断った九野は、自分達がここで監視している事を花村に内緒にしてくれと頼みましたが。。。

休みの日九野は義母の家に手土産を持って訪問しました。訪問を喜ぶ義母の家で庭の草刈りを済ませた九野は義母に料理を作りました。しかし義母の近所の男が、最近義母の家を不動産屋が訪問していたと言い。。。実は九野は義母の養子になろうかと考えており。。。

恭子一家は寿司を食べに来ていました。夫の茂則は競馬で大勝ちしたから奢ると言ったのでした。しかし恭子はあまり茂則を信じていませんでした。昔から茂則は何かといえば金をごまかそうとする癖があったのでした。しかも茂則は決して給与明細を恭子に見せず、会社からの報奨金がいつもあるからと自分の小遣いは恭子から貰いませんでした。

そんな中、パート仲間の間でどこかの女小室から、雇入契約書にサインしたかどうかを聞かれたという噂が交わされました。その女小室は恭子にも電話を寄越し、同じ事を恭子にも聞きました。恭子はしていないと言うと小室は、パートでも有給休暇が貰えるし、雇用保険にも入れるのだと言い、恭子と会う約束を取り付けました。

主任の佐伯は九野を喫茶店に誘い、もう独身になって7年になるから結婚しろと言って、見合い話を押し付けました。九野は、その人は義母と同居してくれるかと尋ね、佐伯は聞いてみると言いました。

ある日、放火事件が起こりました。誰かがガソリンを撒いて火をつけたのでした。放火現場はハイテックスの倉庫で、去年清和会が賛助金を要求して事件になっており、その報復が疑われたのでした。現場で消火を試みた社員が火傷を負っており、それはなんと茂則でした。。。警視庁から管理官が派遣され、九野は本庁の刑事服部とコンビを組まされました。捜査本部は清和会追及に主力を傾け、九野達はハイテックスの内部捜査を受け持たされました。

慌てて病院に見舞いに行った恭子でしたが、九野と服部が事情聴取に現われ、茂則に、その日は茂則がたまたま当直していて気の毒だったと言いました。恭子は不審を感じました。茂則は頼まれて急遽当直を替わったと恭子に話しており。。。刑事が帰った後、なんとなく茂則の様子は変わり。。。

九野達は新しい事実を発見しました。ハイテックスでは放火当日急遽会計監査が入る予定になっていたのでした。その話を茂則に向けると茂則の顔色は変わり。。。実は茂則は本城支社の経理責任者で、前日までに整えた資料は火事で全焼したのでした。。。しかも茂則は家族とのサッカー観戦の予定について嘘をついており。。。深夜九野達は茂則の部下の佐藤を訪問し、佐藤から茂則達は伝票操作で社員旅行の費用を捻出していたと聞かされました。更に佐藤は、茂則は最近マイカーをローンで買い替えたと言い。。。しかし車は現金で購入されていたのでした。。。一方捜査本部の清和会追及は頓挫していました。。。

恭子は小室と会いました。小室は弁護士の萩原を同道しており、自分はスマイル多摩店で働いているが、スマイルの雇用形態はブラックそのものだと言いました。萩原はパートタイム労働法について説明し、正式な雇用契約書を見せて、恭子達の待遇を改善したければ店長に面会してこの契約書通り雇用契約を取り交わせと要求しろと言いました。恭子はとりあえず夫に相談すると言ってその場を去りました。。。

茂則に相談した恭子でしたが、相変わらず茂則の挙動は不審で。。。その日茂則は会社に行きたいから車を病院に置いて帰ってくれと恭子に頼み。。。本城署に泊まっていた九野を井上が起こしました。午前2時過ぎ再び放火があったと言いました。今度はハイテックスの近くの3ヵ所が放火され、前回と同じくガソリンとペットボトルが現場に残されていました。九野は茂則が入院していた病院を訪れて、茂則の車がまだ暖かかった事を確認しました。。。

裕輔は春休みにピザチェーン店で配達のバイトを始めました。バイトが終わると弘樹と洋平達と深夜まで話し込みました。すると元暴走族幹部の知り合いに、ヤクザが3人を探していると知らされて3人は焦りました。裕輔は花村と大倉に捕まって車に連れ込まれ、2人に九野を訴える被害届を出せと強要されました。そして2人は、自分達が裕輔を唆したのは秘密だと裕輔に口止めし。。。

翌日恭子は茂則を見舞ってから車を受け取って帰りました。しかし何故かトランクには灯油をストーブに移すポンプが置いてあり。。。帰宅するとハイテックスの社員が自宅に現われ、警察からの事情聴取の際には付け入れられないように適当な事を言ってごまかせと言われました。そして社員は車の購入資金について質問し、最後に茂則は今後本社勤務になり、病室も大部屋に移したと言われました。思わず恭子は茂則の給与明細を検め、そこには社内ローンの返済など為されていないと。。。

茂則の車の事を九野から聞いた服部は小躍りし、茂則の情報はまだ本部に秘密にしようと言いました。服部達はハイテックス本社を訪れて総務部長の戸田に面会し、本城支社の不正経理について質問しましたが戸田はのらりくらりと追及をかわし。。。しかし服部は、本城市内でまた放火があったのだと戸田に告げ。。。

九野と服部は恭子を訪ねて茂則の車の費用の出所を聞きましたが、恭子は社内ローンだととぼけました。さらに九野達は、昨日は茂則は車を使ったかどうか尋ね、素人がガソリンを手に入れる最も簡単な方法は、ポンプで車からガソリンを抜き取る事なのだと追及しましたが、恭子は何も話さず。。。しかし恭子は内心激しく動揺していました。

次第に恭子の体調は悪化していた所へ、店長榊原がパート従業員を個別に呼び出しました。新たな雇用契約書にサインしろと言うのでした。しかしその雇用は正規の物と違ってブラックな内容で、苛ついていた恭子は思わずサインを拒否し、他のパート達に、あの雇用契約書ははパートの権利を無視した違法な物だと焚き付けたのでした。。。思わず恭子は小室に電話し、小室は一緒に戦おうと。。。あくまでサインを拒否する恭子を会社は倉庫係に配置転換しました。。。

一方九野は苦境に落とされていました。花村が裕輔から九野への被害届を受理したのでした。上司の宇田係長と副署長は怒り。。。坂田課長は九野に一応辞表を出せと迫り。。。苦し紛れに九野は茂則の事を坂田に打ち明け。。。しかし坂田は九野に辞表を提出させ。。。美穂が九野の家を訪れて、花村に殴られたから匿ってくれと頼みました。。。