ぽんきちさん
レビュアー:
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きよらかな山の高みに生きる、「美しき魂」
ハイジは日本では比較的よく知られたお話です。アニメシリーズ「アルプスの少女ハイジ」の影響が大きく、ハイジといえばアニメ版の絵を思い浮かべる人が多いでしょう。
このお話には原作があり、ヨハンナ・シュピーリというスイス人女性作家が書いています。児童書ですが、500ページという堂々の大著です。
アニメ版では存在感ある登場人(?)物であったセントバーナード犬、ヨーゼフは原作には出てきません。一番の相違点は、敬虔な信仰心が物語の根底にあることでしょうか。
スイスの小さな村デルフリ村。そこから少し山を登ったところに、偏屈なアルムおんじが住んでいます。おんじは村の人たちとの交流もせず、神様に祈ることもせず、1人で山に暮らしています。そんなおんじのところに、息子の嫁の妹デーテが、女の子を預けに来ます。女の子はハイジ。おんじの孫でした。両親を亡くし、今まで叔母さんであるデーテに育てられていたのです。デーテはフランクフルトによい働き口を見つけたのですが、ハイジは連れて行けません。そこでおんじに押しつけに来たのです。
「あんな偏屈爺さんのところに、しかもあんな山の中で、女の子がとても暮らしていけやしない」と村の誰もが思いました。
ところが太陽のように明るい天真爛漫なハイジは、山の美しさ、ヤギたちとの暮らしにすっかり夢中になり、偏屈なおんじの心を溶かしていきます。ヤギ飼いのペーターともよい友だちになり、ペーターのおばあさんの心も和ませます。
そんなハイジの所に、デーテが再びやってきます。雇い主の知り合いのゼーゼマン家の病弱なお嬢さんが遊び相手を探しているというのです。ハイジは半分騙されるようにして、フランクフルトへ連れてこられてしまいます。お嬢さん・クララとは仲良しになったのですが、山が恋しく、望郷の思いが募ります。そして窮屈な都会暮らしは次第にハイジの心を重苦しくしていきます・・・。
溌剌としたハイジ。明るいハイジ。
しかしフランクフルトに来たばかりのときは、字を読むことも、お祈りをすることも知りません。辛い都会生活ではありましたが、その中でハイジは文字を知り、信仰に出会います。
清らかな魂に信仰という力を得たハイジは、やがて周囲のすべての人々に幸せをもたらす存在へとなっていきます。
讃美歌や祈りが絡む展開が説教臭いと感じるかどうかは人それぞれの気がしますが、無垢な信仰の1つの理想の形として、美しい物語であると思います。
ストーリーも起伏があり、描かれる山の風景のすばらしさも味わい深いです。挿絵(パウル・ハイ)の精緻さも物語の世界に奥行きを与えています。
スイスの美しい風景、それに見合う美しい魂の少女。
雄大な景色を通り過ぎる、清々しい風のようでもあります。
*掲示板:『「フランケンシュタイン」をみんなでゆっくり読んでいく会 前篇』の派生読書です。とはいえ、あんまり関連は強くありません(^^;)。
「フランケンシュタイン」の舞台は、(「ハイジ」と同じ)スイスです。お話の中で、主人公の弟が、「外国の軍隊に入」りたいという場面があります(記事159およびそのコメント欄)。これがどういう意味かという話から、かつてスイスでは「傭兵」が1つの「産業」であったという話を教えていただきました。へー、そうだったのか、と思って少々ググっていたら、ハイジのおじいさん、アルムおんじが傭兵だったという話が引っかかってきた次第です。そのあたりを確認するために図書館で借りたついでに結局読んでしまいました。
アニメ「アルプスの少女ハイジ」ではおんじの過去について、あまり深くは触れていませんが、「どうやら人を殺したことがある」という黒い影を持った人物として描かれていました。原作を読んでみると、「戦争で人を殺した」というよりは、ナポリの軍隊にいて喧嘩で人を殺した上に脱走したものだったようです。とはいえ、これも伝聞で、おじいさん本人の口から語られてはいません。ナポリの軍隊で何の戦争に従事したのかもいささかはっきりしません。著者自身がそこまで設定していなかったのかもしれません。「ハイジ」が出版されたのは1880~1881年のことですから、おじいさんがナポリにいったのは、19世紀前半のことだったでしょうか。
スイスの傭兵は1874年の憲法をもって輸出が禁じられます(中世からの伝統があるバチカン衛兵隊を除く)。現在のスイスは国民皆兵として徴兵制があります。これは傭兵が伝統であった名残であるのかもしれませんが、このあたりはもうちょっとハイジの範疇外ですね。
*フランクフルトの大富豪ゼーゼマン家は何の仕事をしていたのか(金融関係か、もしかしてユダヤ系であったのか、クララはホロコーストに巻き込まれたか(年代的にはぎりぎり・・・?)))、ロッテンマイアさん・ゼバスチャン・チネッテなど、使用人同士の関係はどうだったのか、スイスとドイツの関係はどんな感じだったのか等、いろいろ興味が引かれる点も多そうです。
ハイジ関連、というか日本のアニメとの関連で、もう1冊、近いうちに読む予定です。
このお話には原作があり、ヨハンナ・シュピーリというスイス人女性作家が書いています。児童書ですが、500ページという堂々の大著です。
アニメ版では存在感ある登場人(?)物であったセントバーナード犬、ヨーゼフは原作には出てきません。一番の相違点は、敬虔な信仰心が物語の根底にあることでしょうか。
スイスの小さな村デルフリ村。そこから少し山を登ったところに、偏屈なアルムおんじが住んでいます。おんじは村の人たちとの交流もせず、神様に祈ることもせず、1人で山に暮らしています。そんなおんじのところに、息子の嫁の妹デーテが、女の子を預けに来ます。女の子はハイジ。おんじの孫でした。両親を亡くし、今まで叔母さんであるデーテに育てられていたのです。デーテはフランクフルトによい働き口を見つけたのですが、ハイジは連れて行けません。そこでおんじに押しつけに来たのです。
「あんな偏屈爺さんのところに、しかもあんな山の中で、女の子がとても暮らしていけやしない」と村の誰もが思いました。
ところが太陽のように明るい天真爛漫なハイジは、山の美しさ、ヤギたちとの暮らしにすっかり夢中になり、偏屈なおんじの心を溶かしていきます。ヤギ飼いのペーターともよい友だちになり、ペーターのおばあさんの心も和ませます。
そんなハイジの所に、デーテが再びやってきます。雇い主の知り合いのゼーゼマン家の病弱なお嬢さんが遊び相手を探しているというのです。ハイジは半分騙されるようにして、フランクフルトへ連れてこられてしまいます。お嬢さん・クララとは仲良しになったのですが、山が恋しく、望郷の思いが募ります。そして窮屈な都会暮らしは次第にハイジの心を重苦しくしていきます・・・。
溌剌としたハイジ。明るいハイジ。
しかしフランクフルトに来たばかりのときは、字を読むことも、お祈りをすることも知りません。辛い都会生活ではありましたが、その中でハイジは文字を知り、信仰に出会います。
清らかな魂に信仰という力を得たハイジは、やがて周囲のすべての人々に幸せをもたらす存在へとなっていきます。
讃美歌や祈りが絡む展開が説教臭いと感じるかどうかは人それぞれの気がしますが、無垢な信仰の1つの理想の形として、美しい物語であると思います。
ストーリーも起伏があり、描かれる山の風景のすばらしさも味わい深いです。挿絵(パウル・ハイ)の精緻さも物語の世界に奥行きを与えています。
スイスの美しい風景、それに見合う美しい魂の少女。
雄大な景色を通り過ぎる、清々しい風のようでもあります。
*掲示板:『「フランケンシュタイン」をみんなでゆっくり読んでいく会 前篇』の派生読書です。とはいえ、あんまり関連は強くありません(^^;)。
「フランケンシュタイン」の舞台は、(「ハイジ」と同じ)スイスです。お話の中で、主人公の弟が、「外国の軍隊に入」りたいという場面があります(記事159およびそのコメント欄)。これがどういう意味かという話から、かつてスイスでは「傭兵」が1つの「産業」であったという話を教えていただきました。へー、そうだったのか、と思って少々ググっていたら、ハイジのおじいさん、アルムおんじが傭兵だったという話が引っかかってきた次第です。そのあたりを確認するために図書館で借りたついでに結局読んでしまいました。
アニメ「アルプスの少女ハイジ」ではおんじの過去について、あまり深くは触れていませんが、「どうやら人を殺したことがある」という黒い影を持った人物として描かれていました。原作を読んでみると、「戦争で人を殺した」というよりは、ナポリの軍隊にいて喧嘩で人を殺した上に脱走したものだったようです。とはいえ、これも伝聞で、おじいさん本人の口から語られてはいません。ナポリの軍隊で何の戦争に従事したのかもいささかはっきりしません。著者自身がそこまで設定していなかったのかもしれません。「ハイジ」が出版されたのは1880~1881年のことですから、おじいさんがナポリにいったのは、19世紀前半のことだったでしょうか。
スイスの傭兵は1874年の憲法をもって輸出が禁じられます(中世からの伝統があるバチカン衛兵隊を除く)。現在のスイスは国民皆兵として徴兵制があります。これは傭兵が伝統であった名残であるのかもしれませんが、このあたりはもうちょっとハイジの範疇外ですね。
*フランクフルトの大富豪ゼーゼマン家は何の仕事をしていたのか(金融関係か、もしかしてユダヤ系であったのか、クララはホロコーストに巻き込まれたか(年代的にはぎりぎり・・・?)))、ロッテンマイアさん・ゼバスチャン・チネッテなど、使用人同士の関係はどうだったのか、スイスとドイツの関係はどんな感じだったのか等、いろいろ興味が引かれる点も多そうです。
ハイジ関連、というか日本のアニメとの関連で、もう1冊、近いうちに読む予定です。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)、ひよこ(ニワトリ化しつつある)4匹を飼っています。
*能はまったくの素人なのですが、「対訳でたのしむ」シリーズ(檜書店)で主な演目について学習してきました。既刊分は終了したので、続巻が出たらまた読もうと思います。それとは別に、もう少し能関連の本も読んでみたいと思っています。
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- 出版社:福音館書店
- ページ数:516
- ISBN:9784834004397
- 発売日:1974年12月10日
- 価格:2415円
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