ブエノスアイレス午前零時

生きづらい「空気が読めない」作家。それが藤沢周だろう。そんな「空気が読めない」人が、彼にしか書けないイリュージョンを形にした。孤独な現代人と、彼/彼女を無視して成り立つ凡庸な現実。ギャップが興味深い。
空気を読む、という言い回しがある。どういう意味なのかは周知のことだろうが、これは考えてみるとなかなか…

生きづらい「空気が読めない」作家。それが藤沢周だろう。そんな「空気が読めない」人が、彼にしか書けないイリュージョンを形にした。孤独な現代人と、彼/彼女を無視して成り立つ凡庸な現実。ギャップが興味深い。
空気を読む、という言い回しがある。どういう意味なのかは周知のことだろうが、これは考えてみるとなかなか…

敢えて矛盾する言い方をすれば、凶暴な繊細さがこの短編集にはある。変態で、だけど上品。老成した視点から見られる幼少期の憧憬。変態をこじらせた作家は、ついにこんな誰にも言えない、淫靡な思いを昇華した……。
ぼくがこのイアン・マキューアンのデビュー短編集を最初に読んだのはいつのことだっただろう。調べてみると…

読みながら、世界が見えて音が聞こえてきた。迫り上がるような感覚……小説を借りたヴァーチャル・リアリティ? それは粘り強い思索があってこそのもの。考え抜いて、紋切り型に頼らない言葉を積み重ねた産物の小説。
読みながら驚いてしまった。そして唸らされた。というのは、ぼくはこの『カンバセイション・ピース』という…

人気エッセイの『回送電車』シリーズ二巻目。堀江敏幸の文章からはいつもながら若々しさが感じられず、既に老練の技巧/テクニックを感じさせる。その技術が生み出すエッセイは一流だが、読者としての目が試される。
堀江敏幸の文章を読むのは、なかなか難しい。要領を得ていないと読めない場合がある。コツが要る、と言えば…

「あの」柴田元幸が若かりし頃に翻訳した短編集。都会派/都会っ子の純情が叙情的に描かれる。これ、意外と柴田元幸自身の原風景とシンクロするところがあるのではないか。そう考えると実に相性抜群の翻訳である。
特技のひとつとして、おれは音楽を聴きながら本を読むことが出来る。さて、このスチュアート・ダイベック『…

世の中は甘くない。不幸なことは山ほどある。絶望すべきことは限りなく存在する。なのに、何故生きる? そんなある意味では無粋な問いに、山口尚は愚直に切り込んだ。その結果、軽薄さを排した誠実な著書が完成した。
私は自殺未遂をしたことがある。今から20年ほど前のことだろうか。大学を卒業してさて就職しようとして、…

百年前、私たちの国にはひとりのアナーキストが居た。短い生涯を、己の命を爆発させて生きた金子文子という女性。彼女の知性は、今生きる私たちを励ます力がある。死んでも死にきれない身の私の襟を正す一冊だった。
いつもながら私の話を書く。私は十代の頃――小中高校生の時代――酷いいじめに遭って過ごしていた。そのト…

日本人だからこそ分からない「日本」がある。ジェイ・ルービンというアンソロジストは、海外の知識人/批評家の立場から「日本」を紹介してみせた。それは「侘び寂び」を意識させる優れたアンソロジーとして成った。
ジェイ・ルービンという、この『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29』を編んだ人物のことは村上春…

私たちはもしかすると、『ピーナッツ』を通して20世紀を代表する叡智と触れ合っているのではないか? ギャグは錆びておらず、ユーモラスにして鋭い。寝ぼけたこちらを驚かせる、しかし温かい漫画がここに登場する。
読み終えて思った。とどのつまり『ピーナッツ』とはビートルズ、ないしは美空ひばりなのだな、と。 …

時代に逆らうでもなく、順応するでもなく、同衾しながらクレヴァーに己の文章/思考をアップデートして来た作家。それが片岡義男である。その凄味を本書『あとがき』ではたっぷり堪能することが出来る。再評価を!
私が読書に本格的に手を染めたのは中学生の頃で、つまり九十年代ということになる。当時から片岡義男という…

どんな事柄をもサクッと整理してしまえるマジックワード、それが「ことわざ」。知っていればなにかと便利。雑談のネタ、心の常備薬、ありとあらゆる場面で「使える」ことわざを満載した本書は、日本語を愛する方に!
A「さて、今回紹介するのは『ことわざのタマゴ』という本です」 B「受け取ってビックリ! 小さい文字…

平たい文体で、最新の知見が語られる。心理学者のタマゴの方が読むにはうってつけなのではないか。一般的な啓蒙書とはまた違った趣がある本だ。だから取り扱いには充分注意しなければならない。だが、スリリングだ。
実に難しい本だ、と思わされた。内容自体は平易だ。「つきあう」「恋する」といった七つの分野からそれぞれ…

「雑談」に関する本が巷に溢れている。でもどの本から読んだら良いのか分からない。そんな方にはこの本をまずお薦めしたい。「仕掛け」の重要さ、何故「雑談」が大事なのか、そのあたりが分かりやすく説かれる。
A「さて、今回紹介するのは沢渡あまね『話し下手のための雑談力』という本です」 B「おれ自身は雑談は…

六十年代に書かれた傑作の短編たち。「今」を生きる私にもビンビン来る作品ばかりであり、なおかつこれから到来する「未来」を予告しているかのようである。バラードを読むことはサヴァイブするための道具になる?
私はバリバリの文系なので、SFに関して全然知識がない。J・G・バラードも『結晶世界』すら読めていない…

花鳥風月の国ならではの風景が展開される。叙情を孕んだ世界。それはしかし翻訳文学にも通じる普遍性を獲得している。吉田知子的、あるいはブライアン・エヴンソン的? 見掛けによらず実験的でもあり結構ヤバい一冊。
私はど田舎で生まれ育った。人工三万人程度。周囲の何処を見渡しても山ばかり。泳ぎは川で覚えた。大江健三…

二十世紀最後のSF作家であるJ・G・バラードが残した傑作。日常化されてしまったテロリズムとその末路を描く作品は、その次の世紀を生きる私たちの日常を先回りして提示していた! 虚構と現実がぶつかる眩暈を!
どんな音楽がこの小説のサウンドトラックに相応しいだろう……そんな話題から始めるのは到底「書評」ではな…

「六八革命」にこだわり続ける絓秀実。ライフワークと言っても良い著作が満を持して文庫化された。見掛けは難解に見えるが、ロジックは極めて明晰。感傷的な匂いは何処にもない。革命はまだ続いている。再発見へ。
遂に絓秀実氏の著作を文庫で読める日が来たのか、と嬉しくなってしまった。高校生の頃に斬新だった(なんだ…

燻し銀のメキキストが選んだ文庫本の数々。純文学や現代思想から古典、タレント本まで盛り沢山。どの一冊に関しても真摯に対峙してそして一編のコラムに落とし込む。その姿は内野安打を積み重ねたイチローのようだ。
燻し銀だな、という印象を抱いた。渋い一冊だ。野球はあまり詳しくないので間違っているかもしれないが、イ…

アメリカの思春期/ヤング・アダルトを縦横無尽に語りまくった本。「情報」の塊のような一冊だが、決して読者を遠ざける本ではない。著者たちの先を読む目線は驚かされる。鋭敏なアンテナから放たれる青春時評たち。
A「さて、今回紹介するのは長谷川町蔵・山崎まどか『ヤング・アダルトU.S.A.』という本です」 …

難解な作家というイメージが付与されがちなJ・G・バラード。だけれどもそんなことはない。未来に託して彼が描いたのは紛れもなく「今」を生きる私たちの社会であり内面世界である。流麗な翻訳で読まれることを!
SFに関しては実を言うと読まず嫌いを決め込んで来た。私自身がバリバリの文系だからというのもあるのかも…