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ウロボロス
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文庫解説は、当時の文壇の東西の横綱といってよい吉本隆明と江藤淳である。また六つの作品のそれぞれの口絵は横尾忠則という破格の対応である。
《オリュウノオバは眼を閉じ、風の音に耳を傾けてさながら自分の耳が舞い上がった葉のように風にのって遠くどこまでも果てしなく浮いたまま飛んでいくのだと思った。(中略)
オリュウノオバは自由だった。見ようと思えば何もかも見えたし耳にしようと思えば天からの自分を迎えにくる御人らの奏でる楽の音さえもそれがはるか彼方、輪廻の波の向うのものだったとしても聴く事は出きた。》

この作品は、「半蔵の鳥」「六道の辻」「天狗の松」「天人五衰」「ラプラタ綺譚」「カンナカムイの翼」の六編からなる連作短編小説である。

タイトルからして、マルケスの「百年の孤独」と三島由紀夫の「豊饒の海」のパロディとオマージュなのだろうか?(豊饒の海の第四巻が「天人五衰」中上は、三島の影響をうけたと公言している)

冒頭に掲げた文章は、この特異な連作短編小説の四番目に収録されている『天人五衰』のなかの文章で、語り手である作者=中上健次によって語られるオリュウノオバについての描写で、さらにこのオリュウノオバは、この小説全体の語り手でもあり、六つの小説の主人公の語りを聴くものでもあり、主人公そのものも語るというつまりこの作品は発話の主体が、人称が、多層的で三者三様が四者にも五者にもなり、語り、騙られ、謳い踊り、男女がまぐわいながらこの物語の中心である、高貴な血をつぎながらも、どこか澱んでもいて、先祖が古い過去におこした贖われざる罪によってみな若死にしてしまう美形で男振りがいい「中本の一統」のいわば貴種流離譚を反転させた物語なのである。

オリュウノオバは、この物語が展開される場所である紀州の海の荒波と峻険な山々にかこまれた「路地」とよばれる常世から隔絶された地で唯一の産婆さんで、字の読み書きができず、しかし、その記憶力は抜きん出ており、「路地」で生まれてから死んでいったすべての子らの祥月命日を空で言えた。そしてこのオバの亭主が
浄泉寺の坊主である礼如さんである。

オリュウノオバは、この小説の時間軸では、今、死の床に横臥していることになっているが
冒頭の引用文で解るように、その自身の幽体離脱も気ままに、自在におこなえるのである。

この六つの小説の主人公はみな非業の死をとげる。その生きざま、死にざまが句読点を極端に少なくした、息継ぎができないほどの長い文体で紀州訛りをふんだんに盛り込んでたたみかけてくる。文庫解説は、当時の文壇の東西の横綱といってよい吉本隆明と江藤淳である。また六つの作品のそれぞれの口絵は横尾忠則という破格の内容である。江藤淳はこの小説は時間軸としては、通時ではなく、共時に特化した作品群であると喝破しているが、私もそれに便乗するようではあるがそれにプラスしてこう言わせていただく。通時だけでもなく、共時だけでもない、その二つが交差した、クロスロードとしての物語であると。読み終えたあと、「辻道」で悪魔に魂を売り渡したとの口碑が伝わる黒人ブルースマン、ロバート・ジョンソンの「クロスロード」が聴こえてきた。

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ウロボロス
ウロボロス さん本が好き!1級(書評数:275 件)

これまで読んできた作家。村上春樹、丸山健二、中上健次、笠井潔、桐山襲、五木寛之、大江健三郎、松本清張、伊坂幸太郎
堀江敏幸、多和田葉子、中原清一郎、等々...です。
音楽は、洋楽、邦楽問わず70年代、80年代を中心に聴いてます。初めて行ったLive Concertが1979年のエリック・クラプトンです。好きなアーティストはボブ・ディランです。
格闘技(UFC)とソフトバンク・ホークス(野球)の大ファンです。

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