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ホセさん
ホセ
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羊飼いのサンチャゴの冒険譚の姿を借りて、数々の気づきをちりばめている。 「明日がある(見える)」という、私が小説に求めるど真ん中も、輝いていた。
644 パウロ・コエーリョ 「アルケミスト - 夢を旅した少年」

羊飼いのサンチャゴの冒険譚の姿を借りて、数々の気づきをちりばめている。
「明日がある(見える)」という、私が小説に求めるど真ん中も、輝いていた。

サンチャゴは、もう何年も羊を飼いながら地方を回っている。
一冊の本を携えて、読んだら人の違う本と交換する。
野宿の晩には、時折葡萄酒を飲む。

年に一度、タリファの町で羊を何頭か売る。
羊を売る商店の娘は、まだ居るかなと思う。

サンチャゴは、タリファの町に着く前に、同じ夢を二度見た。
タリファの町で夢を解釈してくれる老女に会うと、夢はこの世の言葉だと前置きして
「お前はエジプトのピラミッドへ行き、宝物を探さなければならない」と言われる。
お話のギアが入ったぞ。

サンチャゴはピラミッドを目指し、幾つもの困難にあいながら進んでいく。
構成で面白いのは「旅の道連れ」が、変わっていくところ。

タリファから船に乗るまで一緒の、王を名乗るメルキセディック。
エジプトに渡り盗賊に全財産を盗まれてからの一年間は、クリスタル店の店主。
再度ピラミッドを目指す途上では、イギリスから来て錬金術師をめざす男。
オアシスに住む錬金術師。

「旅の道連れ」である彼らがサンチャゴに放つ、意見やアドバイスがそのまま読者の気づきのネタとなる。
個々の詳細はネタバレで書かないが、単に「夢を持とう、一歩を踏み出そう」というだけでなく、
ひとつもふたつも掘り下げて、捻った見方・捉え方で、「あぁ」とため息をつくものもあった。
また、単調なベクトルではなく、補完する伴奏のような考えも表れており、テーマが厚く強く感じられる。

「毎日が次の日と同じだということは、太陽が昇るというような、毎日起こっているすばらしいこと」と、
毎日の「その瞬間が」、例え前の日と同じでものであっても、例え前に進んでいなくても、まず素晴らしいんだと。

もうひとつ挙げさせてもらえるなら、
「傷つくのを恐れることは、実際に傷つくよりも辛いものだと、おまえの心に言ってやるがよい。
 夢を追求している時は、心は決して傷つかない
 それは、追及の一瞬一瞬が神との出会いであり、永遠との出会いだからだ」

そしてそれを受ける・・・
いや・・・もう止めておこう・・・
もったいないや・・・

繰り出されるテーマに関わるセリフは言い切り型が多い、
にもかかわらず、説教の匂いが感じられない。
上から言っていないから、寄り添って言っているからだろう。作者の技だ。

サンチャゴは羊飼いとして十分な経験を積んでいて、その仕事を楽しんでいるのだが、旅を決意する。
現にタリファに着く前には、去年言葉を交わした羊業者の娘がまだ居るかを考え、彼女に言い寄り、結婚して定住する事を思い描く。
サンチャゴはまだ若いが、この物語は若者だけでなく、既に社会へ出ている者、仕事をリタイアした老いた世代にも響くことだろう。
強い小説のテーマは、かくも普遍的なのだ。

また、サンチャゴのエジプト行きは、夢に二度見たというだけで、自らの強い希求からではなく、
夢占いの老婆や、メルキセディックから「行かねばならない」と告げられたものだ。
「夢」は、このように、自分だけで「やりた~い!」と決めつけられるものだけではなく、
回りの後押しやアドバイスがあって、初めて進む事が少なくなかったことを思い出した。
(「夢を持つと、全宇宙が後押しする」と、言わせている)

お話とともに、ハラハラしながら読み、
読後に前向きな気づきがあった事を思い出し、
明日も一丁やったろか、と伸びをする。

私がだい好きな「明日がある」小説だ。

(2025/2/21)

PS 「ベロニカは死ぬことにした」も良かった♬
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ホセ
ホセ さん本が好き!1級(書評数:667 件)

語りかける書評ブログ「人生は短く、読むべき本は多い」からの転記になります。
殆どが小説で、児童書、マンガ、新書が少々です。
評点やジャンルはつけないこととします。

ブログは「今はなかなか会う機会がとれない、本読みの友人たちへ語る」調子を心がけています。
従い、私の記憶や思い出が入り込み、エッセイ調にもなっています。

主要六紙の書評や好きな作家へのインタビュー、注目している文学賞の受賞や出版各社PR誌の書きっぷりなどから、自分なりの法則を作って、新しい作家を積極的に選んでいます(好きな作家へのインタビュー、から広げる手法は確度がとても高く、お勧めします)。

また、著作で前向きに感じられるところを、取り上げていくように心がけています。
「推し」の度合いは、幾つか本文を読んで頂ければわかるように、仕組んでいる積りです。

PS 1965年生まれ。働いています。

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