書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

千世さん
千世
レビュアー:
〈魔女〉と呼ばれるおばあちゃんの家で疎開する双子の兄弟。飢えと寒さをしのぐため、強く、残酷で、狡猾に大人たちの間を立ち回り、戦時を生きる「ぼくら」。そんな子たちは、いずれどんな大人になるのでしょうか。
 舞台はおそらく、第二次世界大戦下のハンガリー。作者はあえて物語の時代と場所を明らかにはしていませんが、それで間違いないことは「訳注」に記されています。戦争により激しくなる爆撃を避けて、おばあちゃんの家に疎開をさせられた双子の男の子たち。貧しく、学もなく、不潔で、近所の人から〈魔女〉と呼ばれるおばあちゃん。生きるために労働を強い、「ぼくら」をぶつおばあちゃん。体を洗い、学校に通わせてくれて「私の愛しい子」と呼んでくれたおかあさんから離れて、「ぼくら」はこのおばあちゃんと共に生きていかないといけないのです。

 しかし、これがかわいそうな少年の物語かと言えばそうではありません。「ぼくら」が涙をあふれさせたのは最初だけ。「ぼくら」はこの難局を乗り越えるために、ひもじさや寒さから逃れてただ生きていくために、実に強く、賢く、ずるく、冷酷に、大人たちの間を立ち回っていくのです。それはある意味おそろしく、残酷な物語でした。

 これは「ぼくら」が書いた秘密のノートで、「ぼくら」の私小説の形をとっています。「ぼくら」はそのノートに、真実しか書いてはならないというルールを与えました。「ぼくらが見たこと、聞いたこと、実行したこと、でなければならない。」というルール。

 そのため、物語からは人々の心情が排除されることになりました。おばあちゃんが「ぼくら」のことを本当はどう思っているのか、「ぼくら」はどういう感情で人を助けたり、盗んだり、人を殺したりしたのか、は一切書かれていないのです。読者はそれを、「ぼくら」が見たものを通して推測し、把握していくしかありません。

 ひもじく、常に死の恐怖にさらされる戦時下。おばあちゃんの家のあちこちに穴を開け、大人たちの行動を盗み見し、強引に手に入れた紙と鉛筆を使って勉強をする「ぼくら」。いじめっ子を助け、脱走兵に食料と毛布を恵み、ユダヤ人の靴屋さんに靴をもらう「ぼくら」。盗み、ゆすり、人を殺す「ぼくら」。「ぼくら」を責める資格はどんな大人にもありません。子どもたちがこんな風に生きていくしかない残酷な社会。

 「ぼくら」がおかあさんよりおばあちゃんを選んだときは、悲しいと同時にうれしくもありました。こんな世界を選んでしまうしかない現実の悲しさと、こんな世界での生活にも幸せを感じているということを知ったうれしさと。

 こんな少年時代を過ごした子どもは、どんな大人になっていくのでしょうか。それは続編で明らかにされるようですが、一旦はこのままにしておきたいと思います。謎は謎のまま、もうしばらく想像をめぐらしてみたい、そう感じています。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
投票する
投票するには、ログインしてください。
千世
千世 さん本が好き!1級(書評数:403 件)

国文科出身の介護支援専門員です。
文学を離れて働く今も、読書はライフワークです。

読んで楽しい:1票
参考になる:22票
共感した:5票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『悪童日記』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ