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はるほん
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個人的アクティ祭!その5。
今回は青空文庫でなく、元の文庫で。(版が違うけど)
「蜘蛛の糸」「犬と笛」「蜜柑」「魔術」「杜子春」
「アグニの神」「トロッコ」「仙人」「猿蟹合戦」「白」の10編入り。
全体的に「善悪」をテーマにした作品集となっている。

自分がこの中で一番好きなのは「蜘蛛の糸」。
恐らく子供の頃にアニメでみて、非常に印象に残っていたからだろう。
ご存知の通り、地獄に堕ちたカンダタが
釈迦にラストチャンスを与えられるも、結局は救われないという話だ。
「カラマーゾフの兄弟」に出てくるロシア民話が元ネタと聞く。

子供の頃は「うんうん、そうなるよね」と素直に読んでいたが
今読むと、うーんと考えてしまう。
果たしてカンダタの行動に、「正解」はあったのだろうかと。

カンダタが誰にも見つからず、こっそり糸を登りきることが出来たとして
それは「正解」なのだろうか?
そうだとしたら、釈迦はカンダタの罪を運とを天秤にかけたことになる。
他の罪人たちと一緒に天国を目指せばよかったのだろうか?
いや、なんだかそれも違う気がする。

釈迦とはもちろん、仏教の始祖・シッダールダのことだ。
またの名を釈迦如来とも書き、この「如来」という字が付くのは
もう悟りに悟っちゃった最高峰にいる者をいう。
他のお仲間に阿弥陀如来・薬師如来・大日如来などがあり、
その下に→菩薩→明王→天が続くとされる。

如来様はもう悟りの境地にいらっしゃるので、
なかなか凡人には理解しがたい。
例えば「如来様ー!苦しいから助けてくださいー!」なんて言うと
如来はその苦しみが悟りへの道だと知っているので
「おお、よかったのう」的にお微笑みになるのである。

そこで比較的まだ人に近い境地にいる菩薩が出てきて、
「あーハイハイ、分かるよー。苦しいんだよね?うんうん」と
ニコニコしてるだけで何もしない如来様との間に立ってくれる。
つまり高次元の如来と人が意思疎通するには、通訳が必要なのだ。
菩薩たちは「=如来未満」なのではなく、必要な存在なのだ。

───という、ホントかどうかわからない例え話を聞いたことがあるのだが
案外これは、本当かもしれない。
釈迦は全くの「仏心」から、蜘蛛の糸を垂らしたのやもしれぬ。
カンダタに解答のない問いを与えたことで、
悟りへの一歩を踏ませた───、…つもりだったりとか。

蜘蛛の糸ならぬ、仏の意図か。
ならば悪心の見返りを身をもって知ったカンダタは
まさしく正解を引き当てたのかもしれない。

あまりに深過ぎて電波とも思える仏の御心に
続く「杜子春」を読んでみる。
己と人間社会に絶望し、仙人を目指した杜子春が、
喜・怒・哀・楽・悪・欲の六情をクリアするも
最後に愛という情をクリアできなかったと言う話だ。

その癖、問題を与えた仙人は
「最後を情をクリアしていたら
 ワシがお前を殺してやろうと思っていた」などという。
これも杜子春が「正解」を選んだ話ではあるが、
仙人と言う人種もなんだかなあと思ったり。

───神仙は遠くに在りて思うもの。人は真っ当に生きるべし。
実はそんな裏教訓が含まれているのではと深読みしたり。
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はるほん
はるほん さん本が好き!1級(書評数:684 件)

歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。

年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。

秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。

2018.8.21

読んで楽しい:17票
参考になる:10票
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この書評へのコメント

  1. 祐太郎2014-08-20 23:02

    「芥川症」では「クモの意図」で著者の「蜘蛛の糸」評をたっぷり味わえます。

  2. はるほん2014-08-24 18:50

    >祐太郎さん
    ほほう!こんな本があったのですね!
    コレは要チェック!文庫化したら是非読みます!!

  3. No Image

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