書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

風竜胆さん
風竜胆
レビュアー:
「神隠し」、今となっては迷信にしか過ぎないが、かっては、それなりの社会的な役目があったのだ。
 人が突然いなくなるという、現代では単に「失踪事件」と呼ばれるような出来事。少し前の時代までは、人ならざる者により異界へ連れて行かれたのだと考えられ、「神隠し」と呼ばれた。もちろん、そのような考え方は、近代合理性とは相容れないものであり、現代ではこの言葉は死語となってしまったかのように思える。この「神隠し」を民俗学的な視点から解き明かそうとしたものが本書、「神隠しと日本人」(小松和彦:角川書店)である。

 「神隠し」を行う者は、「隠し神」と呼ばれ、それは天狗だったり、狐だったり、鬼だったりする。面白いことに、それぞれに目的が違うらしい。天狗は特に目的もなく人を連れまわすため、狐は人を化かすため、そして鬼は人を食うためと考えられていたそうだ。しかし、この「神隠し」の主体、今の感覚では、どれをとっても、「神」などではなく、「妖」と言う概念のなかに含まれそうである。一神教の世界なら、間違いなく「悪魔」の方に分類される者たちだろう。このあたりは、「神」と「人」と「妖」の境界があいまいな我が国の民俗文化の特徴のようで、極めて興味深い。

 著者は、「神隠し」には4つのパターンがあると述べている。まず失踪者が無事に発見される場合でこれは本人が失踪中のことを覚えている場合と覚えていない場合の2つに分けられる。3つめは、行方不明のまま発見されない場合。そして4つ目は、死体となって発見される場合である。本書は、色々な文献に記されている「神隠し」の物語を取り上げ、その後ろに潜んでいるものについて考察を加えながら、最後に現代的視点から、「神隠し」を覆っているヴェールを引きはがす。

 ヴェールをはがして見た「神隠し」は、自発的な失踪だったり、誘拐事件や殺人事件だったり自殺だったりと、人間社会のどろどろとした真相を私たちに見せつける。著者は<神隠しとは、こうした実世界の様々な現実をおおい隠すために作りだされ用いられた言葉であり観念だったように思われる>と述べている。「神隠し」は、失踪事件に対する解釈であり納得であり言い訳であったのだ。それは、現実の過酷さを和らげる緩衝装置の役割を果たしていたのだろう。かっての民俗社会自体が、「神隠し」というものを必要としていたのだ。

 近代合理性だけに支配される世の中は味気ない。著者は最後の方で、<現代こそ実は「神隠し」のような社会装置が必要なのではないか>と括っている。しかし、「神隠し」に代るようなものを現代社会に見出すことができるのだろうか。



○小松和彦さんの他の著作に対するレビュー
神になった人びと
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
投票する
投票するには、ログインしてください。
風竜胆
風竜胆 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2799 件)

昨年は2月に腎盂炎、6月に全身発疹と散々な1年でした。幸いどちらも、現在は完治しておりますが、皆様も健康にはお気をつけください。

読んで楽しい:8票
素晴らしい洞察:6票
参考になる:67票
共感した:1票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. 風竜胆2012-05-22 19:38

    これが、本来の私の書評です(きっぱり)、変な本が専門ではありませんw

  2. 四十雀2012-05-22 19:40

    神隠し=現実の過酷さを和らげる緩衝装置の役割、というのはなるほどです。
    でも現代社会には難しそうですね。

  3. 風竜胆2012-05-22 19:43

    >四十雀さん
    まさに、ニーチェの言う、「神は死んだ」という状況でしょうね。

  4. 森乃やまね2012-05-22 19:50

    DV母子やストーカー女性は「神隠し」の恩恵にあずかってもらいたいものですねぇw「もう探さないで!早く諦めて!」っていう人は多いんじゃないですか?特に借金鳥とかに追われてる方とか…

  5. えちご2012-05-22 20:35

    こんばんは

    バランスよく目に「見えるもの」と「見えないもの」
    を感じて日々送りたいと思ってます♪
    が、なんかわたしの感じ方と本書は違うのかな。

    とりあえず手にして
    パラッと内容確認してみたいけど…
    どうなんでしょ。

  6. 風竜胆2012-05-22 21:27

    >森乃やまねさん
    神隠しフラグが立てられたら、探してはいけない、そんな制度も必要かもしれませんね。

  7. 風竜胆2012-05-22 21:29

    >えちごさん
    神隠しの民俗学的な考察が主体なので、少し思われているのとは違っているかもしれません。でも、なかなか興味深いですよ。

  8. はにぃ2012-05-22 22:12

    これは面白そう!興味あります♪
    「神隠しの民俗学的考察」って時代はどのあたりからなのでしょうか?

    これは風さん担当かな?

  9. 風竜胆2012-05-23 07:33

    >はにぃさん

    学術書担当の風でございます、って、ちゃいまんがな! 風竜胆、一人でせっせと積読本の山を横眼で観ながら、書評を書いております。

    この本の時代ですが、古くは、平安時代の史料から昭和の新聞記事まで、かなり幅広いですね。高度経済成長とともに、社会構造が大きく変質してしまうより以前ですから、過去の方はかなり昔の話も出てきます。

  10. はにぃ2012-05-23 07:45

    風さん早速ありがとうございます(^o^)/
    読みたいリストに入れましたぁ~♪

  11. 森乃やまね2012-05-23 14:27

    積読本…どーしたらいいんでしょう。階下のおばちゃんが私の家にくるたびおそれおおのいています。とりあえず人の居住領域を奪われつつあります。わたしも専門書は結構読むんですけどコミックやオカルトの書評が書きやすいですぅ。語彙を増やさねば…

  12. Kurara2012-05-23 18:04

    おっ、風さんだ~~♪ 読む本いっぱいあるのに、こんな面白そうな本をまた…罪な人ね(笑)

  13. 風竜胆2012-05-23 18:48

    >はにぃさん
    こういった、学術的なものを読んでいると、小説を読む際の基礎知識となって、一層面白く読めるようになるかもしれませんね。

  14. 風竜胆2012-05-23 18:50

    >森乃やまねさん
    私の場合、もう半分あきらめています。近所に古本も扱う書店ができたため、もうたまる一方になりそうです。
    ベッドにして、その下に置けるようにしようかなどとも考えているのですが・・・

  15. 風竜胆2012-05-23 18:51

    >Kuraraさん
    は~い、どんどん本の山を積んでいってくださいw

  16. 風竜胆2012-05-23 20:48

    忘れてた、学術書の時は風竜胆(風(ウィンディ))、小説の時は、風竜胆(竜(ドラゴン))、変な本の時は、風竜胆(月(ユエ)or旦(タン))とお呼びください。半分やけくそwww

  17. はにぃ2012-05-23 22:18

    いつのまにか愛称までできてた( ゚д゚ )
    フランス系中国人の方だとばっかり思っていたのに、もっと国籍不明になって一層怪しくなってますね(*^o^*)

  18. 風竜胆2012-05-24 07:14

    >はにぃさん
    実は、ウィンディはケルト系イギリス人(性別不明)、ドラゴンは生粋の日本人男子、月は中国美女、旦はイケメンの月の双子の弟なのですw
    だんだんむちゃくちゃになってくる・・・
    どっかにメモしておかないと忘れそう。

  19. ちま2012-05-24 09:20

    風竜胆さんは書評だけではなく、コメント欄まで面白いし参考になります(^^)
    皆さんどうしてるんだろう、、それとも私だけ?と気になっていた積読本の山(もはや山と言うより山脈?)。みんな一緒だとわかって嬉しいです( ̄∇ ̄*)

  20. 森乃やまね2012-05-24 12:35

    本棚倒れたら死ぬし、すでに避難経路が確保できてないので地震がきたら「死に時」と潔く生きています。ハンパに生き残るほうがコワイのよ。断捨離なんてできません。月(ユエ)さん、多重人格の本のレビューがお得意そうなので楽しみにしてマッスル。

  21. 風竜胆2012-05-24 19:19

    >ちまさん
    学生時代の友人が関西人ばかりだったので、ボケたり、突っ込んだりが習性になってしまいましたw
    積読本の山、きっとここにきている人は、皆とは言いませんが、同じような人が多いだろうと推察していますww

  22. 風竜胆2012-05-24 19:21

    >森乃やまねさん
    >地震がきたら「死に時」と潔く生きています。
    それぞ、本読みの鏡でしょうw
    いや、多重人格になっってしまったのは、ひとえに、はにぃさんとKuraraさんのせいでw
    特に多重人格本のレビューが得意というわけでは・・・ww

  23. 風竜胆2012-05-24 20:28

    しかし、隣の「ドS刑事」との、この書評の格差。やはり、気付いていないだけで、私の中に4人位いるのか・・・w

  24. Kurara2012-05-24 21:50

    月旦さんを個人的には御贔屓させていただきます♪ (その他の方、覚えきれなかったりする^^;

  25. 風竜胆2012-05-24 21:57

    >Kuraraさん
    最近、月が目立ちたがって困っていますw

  26. はにぃ2012-05-24 22:14

    月さん、旦さんの登場を首を長くして待っております♪

  27. 風竜胆2012-05-24 22:50

    >はにぃさん
    ウィンディさんとドラゴン君、なんか寂しそうですw

  28. かもめ通信2012-05-25 07:06

    寂しいなどとおっしゃらず!風(ウィンディ)さんと竜(ドラゴン)君の今後のご活躍にも大いに期待したいところです。
    っていうか、風さん担当の学術書でこれだけ支持をあつめるなんて、さすがだなあ~と惚れ惚れしております。

  29. 風竜胆2012-05-25 07:44

    >かもめ通信さん
    もっと、ウィンディさんの出番を多くしたいのですが、何しろ学術書は読むのが大変、読んでも内容をすぐ忘れるorzと言った感じで、なかなか増やせません。レビューを上げるまでには、数回読み返すことが多いですね。

  30. 森乃やまね2012-05-25 13:14

    専門書・学術書は一気に読んですかさず書かないと。そして値の高いうちにさっさと売る。――それができないから山が消化できないんですねorz うわー、ヒトゴトじゃね~><

  31. 風竜胆2012-05-25 18:39

    >森乃やまねさん
    >そして値の高いうちにさっさと売る。
    そっ、それは・・・、
    私の場合、つい愛着が湧いて、ほとんど手放せません。と言うより、マーカーでカラフルにお化粧されている本がほとんどなので誰も引き取ってくれないw
    どうしようもなくなったら、つまらなかった本から、資源ごみになってしまいますが。

  32. 森乃やまね2012-05-25 21:18

    私は付箋です。が、結局同じ本を3度くらい買ってしまうので…3度買ったら「捨てない本認定」ですね。Amazonは「書庫」だと思っています。神田まで行く必要がなくて楽。そうでもしないと生きていく空間がなくなる~

  33. 風竜胆2012-05-25 21:36

    >森乃やまねさん
    付箋は、私も使っています。そのままだと文章が隠れてしまうので、縦に3つに切って使っていますが、こでだと100均で買った付箋がかなり長持ちしてお得ですw
    それにしても、同じ本を3回と言うのはすごいですね。私は、全部新刊で買うと、とても財布の中身が持たないので、古書店も良く使っています。105円コーナーで掘り出し物を見つけると、なんだかとっても得をした気になりますw

  34. 風竜胆2012-08-09 22:31

    「ゆうわく学生寮」の書評が私の代表作と言う方がおられますが、私の代表作は、あくまでもこちらですw

  35. ともゆき2012-08-14 12:07

    代表作の「ゆうわく学生寮」のほうから来ましたw いや、正直こっちのほうが凄く読みたいですw
    「神隠し」って和製SFやファンタジーの典型ネタのひとつですが、こういう風に考証していている本は初めてです。さっそく入手して積ん読リストに入れさせていただきます。

    面白そうな本を教えていただいたお返しに、僕の好きな民俗学考証物として「龍の起源」を紹介しておきます。

  36. 風竜胆2012-08-14 12:31

    >ともゆきさん私の書評の代表作は、こちらの方で間違いありませんw
    民俗学系の本は、興味深い内容のものが多いですね。「龍の起源」も読みたい本に追加です。

  37. 風竜胆2012-11-17 11:34

    最近、この方の書かれた本を2冊買いましたが、読む暇がない・・・orz
    1冊めはこれ、「憑霊信仰論 妖怪研究への試み」
    以前読んだ、「神になった人々」もこの方の著書と言うことに気が付きましたので、リンクを張りました。

  38. miol mor2012-11-17 17:45

    現代の日本(の民俗学者など)はこの種のできごとをおそらく調査していないと思いますが、アイルランドでは21世紀に入っても調査を続けている人がいて、その成果が出版されたりしており、過去のことについても研究書が出ています。さらに、かどわかされないための防衛的な歌もいまだに唄いつがれています。生きた記憶や体験を持った人はどんどん少なくなっているでしょうけれど。

  39. 風竜胆2012-11-17 20:41

    >miol morさん
    アイルランドだと神様の代わりに妖精さんがやっているようですね。チェンジリング(取り換えっ子)という言葉がある位ですから、昔はあちらでも、そんなことが多かったんでしょうね。

  40. miol mor2012-11-17 22:07

    妖精がからむ場合のことですが、一説にはギリシャ由来の神々の一族とされます。取替え子を防ぐための歌は今も唄われています。手は凝っていて、赤子をわざと老人と呼んだりします。妖精の棲むとされるところ(夥しい数あります)を通る道路建設計画は現代でもルートが変更されるようです。大きな問題となる場合は全国ニュースにもなります。

  41. 風竜胆2012-11-17 23:15

    >miol morさん
    妖精さんと共に住んでいる国ですか。ちょっといい感じですね。
    道路建設計画も変えちゃうとはすごいですね。

  42. miol mor2012-11-17 23:47

    そうですね。でも、多くの都会的現代人にとっては厄介と心中思ってるかもしれません(そう言う人には会ったことはありませんが)。なにしろ、北海道と同じくらいの国土に45,000も妖精の砦といわれるところがあり、主な地点は国土地理院的な機関が出してる地図に出てます。日本にもそういう「聖所」的な場所は本来多いと思いますが、よほどの場所でない限り開発されてるかもしれませんね。

  43. 風竜胆2012-11-18 00:22

    >miol morさん
    45000もあの国にあるんですか。
    日本でも、祠とかご神木とか、祟りがあるという話は時折聞きますね。日本の神様の場合は、丁寧にお移しすればなんとかなる?ようなケースも多いと思いますが。

  44. miol mor2012-11-18 10:48

    風竜胆 さん
    そうか、そうですね。そう言われれば日本の場合、いろんな手で移したりするような気がします。知恵がありますね (^^)

  45. 風竜胆2012-11-18 10:51

    >miol morさん
    もしかすると、そこが、二律背反的な西洋思考と、自然にくるまれて生きてきた日本的思考の違いかもしれませんねw

  46. miol mor2012-11-18 11:09

    風竜胆 さん
     そうかもしれません。が、実は、そのガチガチの部分は恐らくどこの官僚機構にもある程度共通のもので、その点では日本も同様かと思います。アイルランド人の本来の心性は日本人と自然との関係にかなり近いと、かねがね感じています。
     日本だと、古神道とか神社関係、あるいはひょっとするとお寺の人にも、つまり官僚でないふつうの(?)宗教人の場合は、知恵が働くんだと思います。

  47. 風竜胆2012-11-18 11:20

    >miol morさん
    実は、最近ケルト関係のこんな本も読んでいるのですが、他の分野のいろんな本を何冊も並行して読んでいるので、いつ読み終わることやらw
    あそこの文化もいろいろと興味深いものがあります。

  48. 風竜胆2012-11-19 20:34

    そう言えば、先般この方の本を2冊買って、1冊は紹介したけど、もう1冊を忘れていました。著者は、国際日本文化研究センターの所長さんだということです。
    この本の参考文献を見ると、京極夏彦さんの著書なんかも入っていたのでちょっとびっくり。

  49. 風竜胆2013-09-04 21:10

    うっう~、何とかこの路線にもどさないと・・・・・
    みなさん、これが、本当の風竜胆の姿ですよw

  50. 風竜胆2014-02-14 20:48

    最近は、昔書いた書評を読んで、初心に帰ることが必要かもと思うことが多い。

  51. Wings to fly2014-02-14 22:15

    これは代表作ですものね^ ^ それにしても現時点で65票‼︎ …素晴らしい。

  52. 風竜胆2014-02-14 23:00

    >Wings to flyさん
    いつもこのくらいのものが降りてくれば良いのですがw
    でも、もっと良く書けていると思うのもあるのですが、何が受けるか分かりませんw

  53. 風竜胆2014-05-16 23:16

    こんなのまた書きたいな・・・

  54. くにたちきち2014-05-26 16:28

    現在、居場所の分からない認知症高齢者が、約一万人はいる(いない?)と報じられていたのを思い出します。社会的・制度的な「神隠し」ではないのかと、ふと思いました。

  55. 風竜胆2014-05-27 07:40

    >くにたちきちさん
    昔なら、まず間違いなく「神隠し」で処理されていたでしょうね。こういった方がこれだけいるというのは、我が国の制度上の貧弱さを感じてしまいます。

  56. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『神隠しと日本人』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ