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くにたちきち
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80年前の論文で報告されていた、孤立したアリは、寿命が短いという「アリの不思議な世界」を再現するために、アリの行動解析を、二次元バーコードを使って行い、その結果、見えてきたアリの生態を描いています。
1944年に、フランスのGrasseらは、アリやハチ、シロアリといった複数の社会性昆虫の労働階級(働きアリやハチ)を1匹、2匹、3匹、5匹、10匹と一つのケースで飼育し、それぞれの個体がいつ死ぬのかを調べ、1匹で飼ったアリがあっという間に死んでしまうという、劇的な寿命の短縮を報告しているそうです。

筆者は、大学の卒業研究として、ショウジョウバエやマウスを用いて「細胞死(アポドージス)」という現象の解明をしていた東大の三浦正幸教授のもとで、研究生活をスタートしたのだそうです。そこで、細胞ひとつひとつが、周りの細胞と密接な関わりを持ち、最終的に美しく、かつ機能的な生物が作られていく様子にとても感銘を受け、より高い次元での生命現象を明らかにしたいと思うようになったそうです。

そのために、アリをはじめとする社会性昆虫を対象とした研究の第一人者であったスイス・ローザンヌ大学のローレント・ケラー教授の研究室で新たな研究を始めることにしたそうです。2年たらずの留学を経て現在までになされてきた研究成果の一部を、筆者なりの解釈とともにまとめたのが、この本の成り立ちのようです。

80年前の研究では、アリの集団を観察することから、寿命を推定していますが、筆者は「アリ1匹1匹の動きをライフイメージングする」行動解析システムにより、飼育器内の個々のアリの行動や寿命を研究した結果、①孤立アリの寿命はグループアリの約10分の1程度である。②年をとったアリほど、より早く死ぬ傾向がある。③1匹の孤立アリと数匹の幼虫を一緒に飼育すると、約3倍ほど寿命が延びている。ことなどを明らかにしたということです。

これらの結果から、筆者は、さらに遺伝子レベルの研究を進め、生物の根本原則における生きる意味を失ったり、社会的な交流を断たれると活性酸素が多く産出され、酸化ストレスを増悪させる方向に変化がみられ「孤立→活性酸素の発生→寿命の短縮」のリンクの存在を示唆しています。

社会性昆虫であるアリが、社会を失い孤立することで、生きる意味を失い早死にするという事実は、実験室内では認められたようですが、現実に生活しているアリでは、起こり難いことであり、このような実験は、人間社会で実施することは、倫理的にも認められないことで、筆者も「社会や仲間で生きることのプラスの効果」を示唆している、と述べるに止めています。年寄りには身につまされる本でした。
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くにたちきち
くにたちきち さん本が好き!1級(書評数:778 件)

後期高齢者の立場から読んだ本を取り上げます。主な興味は、保健・医療・介護の分野ですが、他の分野も少しは読みます。でも、寄る年波には勝てず、スローペースです。画像は、誕生月の花「紫陽花」で、「七変化」ともいいます。ようやく、700冊を達成しました。

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