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休蔵さん
休蔵
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鉄筋コンクリート造天守の名古屋城。コンクリートの耐久年限問題への対応として突如上がってきたのが、木造天守の完全復元だ。その立案から現状にいたるドタバタをまとめた1冊。市民の率直な声も聴きたかった。
 最近、名古屋城の木造復元のニュースをあまり聞かなくなった。
 それは東海地方に居住していないからだろうか。
 名古屋市のウェブサイトをのぞいてみると、継続しているようだった。
 前市長が力を入れていた政策だったが、いつまで続くのだろうと思っていたところ、本書の存在を知った。
 名古屋城の木造復元についてのてんやわんやを分かりやすくまとめてくれた1冊。
 さらに、全国17城の取組みも紹介している。
 そこには国宝天守における取組みもあれば、コンクリートの復元天守の城も含まれる。

 さて、名古屋城の木造復元は、コンクリート天守の耐久年限問題への対応という側面を持つ。
 2009年、前市長は当選直後に名古屋城の木造復元を宣言する。
 もちろん、想像の木造天守ではなく、図面や写真なども資料が十分に把握できているというところからの発想で、完全なる絵空事というわけではなかったようだ。
 でも、さまざまな問題をはらんでいたのも事実。

 名古屋城跡は特別史跡であるため、石垣の保護が最重要となる。
 しかし、戦後の復興天守を解体し、それなりの強度の木造天守を建築するには石垣への影響が避けられない。
 ある程度の妥協点を見つけることができればよかったのだが、前市長は完全なる木造天守復元を目指す。
 そして、それはコンクリート天守で完備していたエレベーターの撤去も意味し、健常者しか受け付けない天守の復元という問題も包含することになっていた。

 そもそもコンクリート天守ではダメなんですか?という議論も重要だったはず。
 築50年を越えた建造物は登録有形文化財に登録されることが可能になるという。
 事実、大坂城跡は登録有形文化財ということで、大切に保存・活用されているとのこと。

 それ以外にもコンクリート天守は重要な意義を持つ。
 各地の木造天守は太平洋戦争の空襲により焼け落ちた。
 住民にとってのアイデンティティとも言える地域のシンボル、天守閣。
 その早期の復興、さらには耐久性の高い天守の早期復興は地域の強い願望で、復興後には地域住民の心を支えてきたことだろう。
 そういう点ではコンクリートの復興天守にも重要な意義があることは間違いなく、それを壊すことの是非をすっ飛ばして、木造復元ありきの議論そのものにも問題はあったのかもしれない。
 そもそも史跡にある鉄筋コンクリート造天守は13しかないそうで、それはそれで稀少と言える。
 
 小泉純一郎政権下の2003年から観光立国政策が始まっているそうだ。
 コロナ禍をはさんで20年以上の歳月は、多くのインバウンドで賑わう観光地の数多く生み出してきた。
 インバウンドという言葉も当たり前のように使われるようになった。
 さらには観光公害という事態に陥ってしまった観光地もある。
 コンクリート天守にも数多くの外国人観光客が訪れている。
 目の前の天守はコンクリート造であり、その原因が太平洋戦争の無差別空襲にあるということまで理解させる展示は、果たしてどれだけあるのだろうか。
 そこのところもしっかり理解していただく解説も必要だろう。
 
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:453 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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