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shawjinnさん
shawjinn
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洋菓子の生み出す魔法が紡ぐ、ささやかな幸せ

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

本書の主人公である白井。パティシエとしての修業を積み、念願の独立を果たして開いた洋菓子店を、結局、五年で閉じることになってしまった。そんな白井のところに、店の常連だったクセの強い料理研究家、佐渡谷真奈美が現れる。「あら?あなた!ちょっと、こんなとこでなにやってんの?」

閉店した白井の店の厨房で、たった一人のためのお菓子教室を開くという。その勢いに押されて、渋々、協力する白井。不思議なお菓子教室にやってくる生徒は、佐渡谷の姪がやっている診療室の患者たちだった。

この小説のもうひとつの主役は、次々に登場する洋菓子だろう。思い立った白井が、ひとりで、オペラ(フランス生まれのチョコレートケーキ)を作ったときの描写は以下。美味しそうだ~。
一ミリでも厚いホットケーキを作ろうと、フライパンに生地を流し込んでいた四年生のときと同じ集中力で、私は真逆の作業、ビスキュイとクリームとガナッシュの七層を二センチ内に美しく納めることに、全力を注いでいた。焼き上がった薄いビスキュイを四分割して、エスプレッソを染み込ませ、その表面にガナッシュをパレットナイフで漆のように薄く塗り、またビスキュイをのせ、次はコーヒー風味のバタークリームを同様に薄くとくり返し・・・全てを三ミリ弱の厚さで重ねていく。店がつぶれたことも、これから先どうしようかという不安も、作業をしている間は忘れることができる。トップにテンパリングした艶やかなコーティングチョコレートを流し、冷蔵庫でしっかり固めてから、高さぴったり二センチのそれの四辺を、最後に鋭く切り落とす。


《菓子を作っていれば幸せなんだから、それだけやっていればよかったのかも》という、ものづくりに関わる人間が、わりと共通して抱きがちな願望の吐露も。洋菓子店の経営も結構厳しいみたいだからなあ。それでも実際に独立して、五年間やったのだから、得たものは大きかったのだと思う。何だかんだで、佐渡谷さんのお陰で色々な人たちと知り合えたし、販売品目も三点に絞ったので、捲土重来。

風変わりなお菓子教室で、マカロンとイートン・メスを作った中学生の結杏(ゆあん)ちゃんも手伝いに来てくれたし。ザッハトルテを作った金髪のミュージシャン静くんが、SNSで宣伝してくれたので、それを見て洋菓子を買いに来たファンの子たちや、つられて並ぶ、近所のおじさんやおばさんたち。バイト先の先輩の姿も。「お待たせしております。間もなく開店しますので!」
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shawjinn
shawjinn さん本が好き!1級(書評数:85 件)

読んでいて面白い~と思った本の読書記録です。

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