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休蔵さん
休蔵
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本書は学芸員資格の取得を目指す大学生向けに書かれた教科書のようで、本書を手にした若い世代から優秀な学芸員の出現が期待できる内容の良書だった。
 以前、文化財の観光について、地方創生担当大臣(今は元大臣か)が「一番の癌は学芸員と言われる人」として「観光マインドがないから、一掃しないとダメ」かなんとか発言をしたことがあった。
 国民から投票で選出された国会議員が、特定職業を具体的に示して批判したことにすごく驚いたことを覚えている。
 結局、発言を撤回して謝罪したのだが、そもそも発言の撤回ってなんなのだろう。
 言った事実は無くならないのに。
 それはともかく、学芸員の仕事は外国人観光客をもてなすことなのだろうか?
 長らく疑問に思いながらもやもやしていたものの、特に学ぶこともなく過ごしていた。
 本書を手にしたのはたまたま。
 そのタイトル通り“やさしい”内容を優しく語り掛けながら解説してくれていて読みやすかった。
 また、タイトルには“文化観光立国時代の”と冠しているが、これは先の元大臣への解答という意味も含むのであろうか?
 そんな疑問を持ちつつも、そんなところが気になり本書を手にしたわけである。

 さて、本書は2部構成で、全6章からなる。
 第Ⅰ部は博物館概論。
 「第Ⅰ章 まずは博物館を知ろう」で、博物館そのものについて概説する。
 そのなかで学芸員という専門職についても触れる。
 そして、「第Ⅱ章 学芸員をめぐる主な業務」で学芸員の業務内容を詳述する。
 学芸員の主要業務は「収集」「保存管理」「調査研究」「展示」「教育活動」であり、そのことが博物館法第4条に明記されていることを示している。
 学芸員が観光振興に理解がないとした先の元大臣は発言は、著しくお門違いと理解できる。
 続く第Ⅲ章は「博物館をめぐる法的枠組みの概要」ということで、博物館に関わる複数の法律を解説する。
 そもそも法治国家である日本では、博物館についても学芸員についても法的根拠を持つ。
 そのことをしっかり示しながら、巻末に第Ⅱ部として博物館関連法令集を掲載する。

 「第Ⅳ章 博物館の歴史」で、ここに最も頁を割いている。
 それだけ日本における博物館の歴史が長いことが理解できよう。
 「第Ⅴ章 博物館の組織体制」では、国立、県立、市立博物館の組織体制について、具体例を示しながら解説する。
 国立には及ばないまでも、充実した体制を示す県立博物館や、そこらへんの県立博物館よりよほど体制が整った市立博物館の存在は、その自治体の文化政策に対する考え方を示していると分かる。
 博物館は存在するものの、そこに十分な人的、資金的資源を投入していない自治体は、子どもたちへの教育方針の脆弱さを思わせるし、それは大人の生涯学習の機会の少なさも推測させる。
 そして、「第Ⅵ章 近未来に向けた明るい展望」では、具体的な3地域の事例をあげて、従来の博物館の枠組みをはるかに凌駕した具体的な取り組みを紹介している。
 ここにおいて、観光という場面での学芸員の活躍っぷりが示されている。
 やはり学芸員は観光分野での癌ではけっしてないのである。
 そして、近未来の観光は、学芸員と言う専門職だけが活躍するのではなく、地域住民も主役として活躍することが重要と言うことも理解できた。
 
 本書は学芸員資格の取得を目指す大学生向けに書かれた教科書のようで、章ごとにテスト問題が付いている。
 かつて大学生だったころ、教科書と言えばその教授が書いた専門書を売りつけられるイメージしかなかった。
 本書は、きちんと教科書として書かれており、“やさしい”とした理由もよく分かるほど理解しやすかった。
 本書を手にした若い世代から優秀で、様々なアイデアを持った学芸員が出現してくれることを期待する。
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休蔵
休蔵 さん本が好き!1級(書評数:451 件)

 ここに参加するようになって、読書の幅が広がったように思います。
 それでも、まだ偏り気味。
 いろんな人の書評を参考に、もっと幅広い読書を楽しみたい! 

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