三太郎さん
レビュアー:
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派遣社員の時雨は中学の同級生だった杜子春に街で偶然であう。二人は恋人同士になるが、彼は実は異世界からの転生者だった。
島田雅彦が2024年に出したばかりのSFっぽい長編小説。我々の世界の裏には並行宇宙が無数にあって、その宇宙間で「転生」という現象が一定の割合で自然に起きる。自然の転生では誰かが死んだ瞬間にその魂?が並行宇宙(異世界)へ飛んで、その世界の誰か(宿主)に憑依するらしい。
ところが、どこかの並行宇宙では科学技術が進んで、肉体はこちらの世界に残したまま、人為的に任意の並行宇宙へ意識だけを転生できるようになった。そんな先進世界からの転生者によって日本でも人為的な転生技術が開発されつつある、という分かったようなよく解らないようなお話。
人為的な転生にはハード面ではシンクロトロンによる強力な輻射光を、ソフト面では量子力学に基づく「量子もつれ」を利用するとか。量子もつれによって転生者は元の世界の本人とシンクロできるとか。ただちょっと変なのは、異世界へ送り込むのが転生させたい人のDNA情報だというところ。人の意識はDNAには書き込まれてはいないはず。
こちらの世界でこの転生プロジェクトを企画推進するのは自身が転生者でもある老人の「ハニカミ屋」で、彼は米国の巨大な投資ファンドの日本法人の代表である榎本に技術開発の資金提供を依頼する。一方の榎本はこの技術を独占することで、並行宇宙への転生技術へ資本を投資して事業化し、生まれる莫大な利益を独り占めしようと画策している。
物語の途中で一方のリーダーであるハニカミ屋は老衰して亡くなる。転生者の寿命は短いという。彼の死後に榎本が語ったところによると、榎本もハニカミ屋同様に転生者で、偶然に出会った二人は転生技術の確立に協力し合うことになる。ハニカミ屋は転生者を援助する組織を立ち上げ、転生者のリストを作成する。榎本は資本主義社会でのし上がり、超裕福層を取り込んで、ハニカミ屋の技術開発に資金を提供する。
二人は協力関係にはあるが、目指す方向には違いがあった。榎本は完成した転生技術を独占し、超裕福層が現世では実現できない欲望を異世界で満たす手伝いをして彼らからお金を巻き上げる。一方のハニカミ屋は転生技術を広く一般の人に開放したいと思っていた。人は異世界への転生によって本当の自由を得ることができる。時雨と杜子春はハニカミ屋の計画に協力することになる。
実は榎本が転生する前に生きていた社会は「巫女」が生活を支配しており、榎本はその巫女に尽くすことに喜びを見出していた。物語の最後には、榎本は巫女にかしずいて暮らせる世界へ自分の分身を転生させて、自身は事業から身を引き、ハニカミ屋のような老衰による死を選んだ。
人工的に異世界へ転生する技術というのは、この本の中では、現世での生活を続けたままで、来世(異世界)に自分の記憶を持った宿主を作り、現世では得ることができなかった幸福を異世界で味わえる技術ということらしいです。異世界の宿主の中の自分の意識と現世の自分の意識はシンクロしていて、現世にいながら異世界を知ることができるらしい。
この榎本という人物は強欲な資本主義の体現者として描かれていますが、実は巫女にかしずく宗教的な暮らしに憧れていたというのが著者らしい皮肉なのかもしれません。
ところが、どこかの並行宇宙では科学技術が進んで、肉体はこちらの世界に残したまま、人為的に任意の並行宇宙へ意識だけを転生できるようになった。そんな先進世界からの転生者によって日本でも人為的な転生技術が開発されつつある、という分かったようなよく解らないようなお話。
人為的な転生にはハード面ではシンクロトロンによる強力な輻射光を、ソフト面では量子力学に基づく「量子もつれ」を利用するとか。量子もつれによって転生者は元の世界の本人とシンクロできるとか。ただちょっと変なのは、異世界へ送り込むのが転生させたい人のDNA情報だというところ。人の意識はDNAには書き込まれてはいないはず。
こちらの世界でこの転生プロジェクトを企画推進するのは自身が転生者でもある老人の「ハニカミ屋」で、彼は米国の巨大な投資ファンドの日本法人の代表である榎本に技術開発の資金提供を依頼する。一方の榎本はこの技術を独占することで、並行宇宙への転生技術へ資本を投資して事業化し、生まれる莫大な利益を独り占めしようと画策している。
物語の途中で一方のリーダーであるハニカミ屋は老衰して亡くなる。転生者の寿命は短いという。彼の死後に榎本が語ったところによると、榎本もハニカミ屋同様に転生者で、偶然に出会った二人は転生技術の確立に協力し合うことになる。ハニカミ屋は転生者を援助する組織を立ち上げ、転生者のリストを作成する。榎本は資本主義社会でのし上がり、超裕福層を取り込んで、ハニカミ屋の技術開発に資金を提供する。
二人は協力関係にはあるが、目指す方向には違いがあった。榎本は完成した転生技術を独占し、超裕福層が現世では実現できない欲望を異世界で満たす手伝いをして彼らからお金を巻き上げる。一方のハニカミ屋は転生技術を広く一般の人に開放したいと思っていた。人は異世界への転生によって本当の自由を得ることができる。時雨と杜子春はハニカミ屋の計画に協力することになる。
実は榎本が転生する前に生きていた社会は「巫女」が生活を支配しており、榎本はその巫女に尽くすことに喜びを見出していた。物語の最後には、榎本は巫女にかしずいて暮らせる世界へ自分の分身を転生させて、自身は事業から身を引き、ハニカミ屋のような老衰による死を選んだ。
人工的に異世界へ転生する技術というのは、この本の中では、現世での生活を続けたままで、来世(異世界)に自分の記憶を持った宿主を作り、現世では得ることができなかった幸福を異世界で味わえる技術ということらしいです。異世界の宿主の中の自分の意識と現世の自分の意識はシンクロしていて、現世にいながら異世界を知ることができるらしい。
この榎本という人物は強欲な資本主義の体現者として描かれていますが、実は巫女にかしずく宗教的な暮らしに憧れていたというのが著者らしい皮肉なのかもしれません。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:0
- ISBN:9784163918891
- 発売日:2024年08月23日
- 価格:2310円
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