ホセさん
レビュアー:
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伊坂幸太郎デビュー25周年記念の、企画もの。
いつもの「ちょっと理屈っぽくて、言いたい事を言い過ぎ」なところは大目にみて、
井出静佳の大らかな挿画とともに、物語を楽しめた。
652 伊坂幸太郎 「楽園の楽園」
伊坂幸太郎デビュー25周年記念の、企画もの。
いつもの「ちょっと理屈っぽくて、言いたい事を言い過ぎ」なところは大目にみて、
井出静佳の大らかな挿画とともに、物語を楽しめた。
大規模停電、強毒性ウィルスの蔓延、大地震が頻発、
増殖炉からの放射能漏れに、飛行機墜落事故などが立て続けに発生して、世界は混乱する。
すべての原因は人工知能『天軸*』の暴走だと考えられた。
(*『天災及び事故、犯罪の予見と予防に関する機軸』)
五十九彦(ごじゅくひこ)、三瑚嬢(さんごじょう)、蝶八隗(ちょうはっかい)の三人は、
姿を消した『天軸』の開発者である〈先生〉が残した、巨大な樹を描いた『楽園』の絵を手掛かりに、
〈先生〉と暴走する『天軸』を探しに出向く。
苦労しながら、描かれた二つの巨木と、〈先生〉が滞在していたであろう小屋を見つけるのだが・・・
巨木を探しに自然の奥へ入る間に、幾つかの生物のことが語られる。これらもキーになってくる。
オナモミの実(ひっつき虫、くっつき虫)は、GSP探知機
外来種のセイタカアワダチソウが、ライバルのススキやイネを抑えるためには?
キャベツがアオムシを寄せ付けないようにする策とは?
道を導いてくれるバッタ
さあ、〈先生〉は、そして『天軸』はどうなっているのだろうか。
三人はどうなっていくのだろうか。
伊坂幸太郎らしい、少し理屈ばった会話のやり取りや、
ちょっと言いたい事を言い過ぎ、の嫌いはあるけれど、
25年も経つとそれが最早「また食べたい味」になっている事に気づく。
でも、お話はこの本に書かれたことだけではない。
伊坂幸太郎が自筆で書いたポップには
==
人間は物語が大好き。
いい意味でも悪い意味でも
そのことについて考えた小説です。
==
人間の脳は、結果に対しての原因・理由を知りたがり、付けたがる。
そしてその手法はAIで模倣されている。
原因を付けづらい事には、原罪だったり、アダムとイヴが約束を破ったからだったり・・・
終盤に、五十九彦が立て始めながら畏れる仮説のまま進み、その終りを見ずにこの小説は幕を閉じる事になるのだが、
それが正しいかどうかといった事は、全く問題では無いのだ。
樹上へ上った五十九彦が地上の二人を見ると、一面の白い花に囲まれて、その周りには更に違う色の群があり、
地上に居る時とは全く違った、驚くほど美しい光景があった。
見方によって、物も物語も違うものになってくるということ。
だから我々読者は、この建付けに自分なりの物語を付け始めることになり、
更には、今までの自分に物語を付け直したり、
これからの自分や近しい人の事について、物語を考えることになる。
そして、私たちに何かあった時でさえも、
終わるのはヒトの世界。
ヒト以外にとっての世界は終わらない。
これも見方の違い。
今回も伊坂幸太郎は、不穏な隠し玉を潜ませてきている。
だから止めることができないんだ。
(2025/4/20)
PS 出井静佳の挿画に味があり、挿画つながりで 井上荒野 「しずかなパレード」 を手にする事になりそうだ。
伊坂幸太郎デビュー25周年記念の、企画もの。
いつもの「ちょっと理屈っぽくて、言いたい事を言い過ぎ」なところは大目にみて、
井出静佳の大らかな挿画とともに、物語を楽しめた。
大規模停電、強毒性ウィルスの蔓延、大地震が頻発、
増殖炉からの放射能漏れに、飛行機墜落事故などが立て続けに発生して、世界は混乱する。
すべての原因は人工知能『天軸*』の暴走だと考えられた。
(*『天災及び事故、犯罪の予見と予防に関する機軸』)
五十九彦(ごじゅくひこ)、三瑚嬢(さんごじょう)、蝶八隗(ちょうはっかい)の三人は、
姿を消した『天軸』の開発者である〈先生〉が残した、巨大な樹を描いた『楽園』の絵を手掛かりに、
〈先生〉と暴走する『天軸』を探しに出向く。
苦労しながら、描かれた二つの巨木と、〈先生〉が滞在していたであろう小屋を見つけるのだが・・・
巨木を探しに自然の奥へ入る間に、幾つかの生物のことが語られる。これらもキーになってくる。
オナモミの実(ひっつき虫、くっつき虫)は、GSP探知機
外来種のセイタカアワダチソウが、ライバルのススキやイネを抑えるためには?
キャベツがアオムシを寄せ付けないようにする策とは?
道を導いてくれるバッタ
さあ、〈先生〉は、そして『天軸』はどうなっているのだろうか。
三人はどうなっていくのだろうか。
伊坂幸太郎らしい、少し理屈ばった会話のやり取りや、
ちょっと言いたい事を言い過ぎ、の嫌いはあるけれど、
25年も経つとそれが最早「また食べたい味」になっている事に気づく。
でも、お話はこの本に書かれたことだけではない。
伊坂幸太郎が自筆で書いたポップには
==
人間は物語が大好き。
いい意味でも悪い意味でも
そのことについて考えた小説です。
==
人間の脳は、結果に対しての原因・理由を知りたがり、付けたがる。
そしてその手法はAIで模倣されている。
原因を付けづらい事には、原罪だったり、アダムとイヴが約束を破ったからだったり・・・
終盤に、五十九彦が立て始めながら畏れる仮説のまま進み、その終りを見ずにこの小説は幕を閉じる事になるのだが、
それが正しいかどうかといった事は、全く問題では無いのだ。
樹上へ上った五十九彦が地上の二人を見ると、一面の白い花に囲まれて、その周りには更に違う色の群があり、
地上に居る時とは全く違った、驚くほど美しい光景があった。
見方によって、物も物語も違うものになってくるということ。
だから我々読者は、この建付けに自分なりの物語を付け始めることになり、
更には、今までの自分に物語を付け直したり、
これからの自分や近しい人の事について、物語を考えることになる。
そして、私たちに何かあった時でさえも、
終わるのはヒトの世界。
ヒト以外にとっての世界は終わらない。
これも見方の違い。
今回も伊坂幸太郎は、不穏な隠し玉を潜ませてきている。
だから止めることができないんだ。
(2025/4/20)
PS 出井静佳の挿画に味があり、挿画つながりで 井上荒野 「しずかなパレード」 を手にする事になりそうだ。
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語りかける書評ブログ「人生は短く、読むべき本は多い」からの転記になります。
殆どが小説で、児童書、マンガ、新書が少々です。
評点やジャンルはつけないこととします。
ブログは「今はなかなか会う機会がとれない、本読みの友人たちへ語る」調子を心がけています。
従い、私の記憶や思い出が入り込み、エッセイ調にもなっています。
主要六紙の書評や好きな作家へのインタビュー、注目している文学賞の受賞や出版各社PR誌の書きっぷりなどから、自分なりの法則を作って、新しい作家を積極的に選んでいます(好きな作家へのインタビュー、から広げる手法は確度がとても高く、お勧めします)。
また、著作で前向きに感じられるところを、取り上げていくように心がけています。
「推し」の度合いは、幾つか本文を読んで頂ければわかるように、仕組んでいる積りです。
PS 1965年生まれ。働いています。
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- 出版社:中央公論新社
- ページ数:0
- ISBN:9784120058752
- 発売日:2025年01月22日
- 価格:1650円
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