武藤吐夢さん
レビュアー:
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あまりにも切なく、悲しくて、もう言葉すらも出てこない。電車の中で読んだら不審者として通報されそう。それほど感情を揺さぶる名著。読み、体感し、心震わせ、13歳の子供に回帰してみてください。
冒頭から、10月に少女がバラバラ遺体で発見されることが暗示されている。
つまり、少女のラスト(死)が確定していることを読者は知らされるのです。
1か月前の9月、転校生の海野藻屑がやってくる。有名歌手の娘で美少女だ。
「ぼくはですね。人魚なのです」という扇情的な自己紹介が、彼女の性格を見事に際立たせています。
ストックホルム症候群の彼女は、「ぼく、おとうさんのことがすごく好きだ」と言う。だが、その口で、こんなことも言っている「好きって絶望だよね」
藻屑は、近所で噂さになるほど、元有名歌手の父より虐待を受けていた。身体中に、痣。青紫の花が咲いている。
彼女は、左耳が聞こえないこと、足が悪い障害者であることを隠し続けている。自分の弱みを人に見せない子なのだ。
海野藻屑のことを語る。語り手であり、唯一の理解者であるのが親友になる山田なぎさ。
彼女も事情を抱えている。ひきこもりだが、愛すべき兄と、働きずくめの母のいる母子家庭。すごく貧乏で、家事は、すべて13歳の彼女の仕事という複雑な家庭に育ち。常に、実弾。この場合は、自立だと思う。それを欲しているので、中学を卒業したら自衛隊に入ると決めていた。
海野藻屑は、みんなから、ちやほやされるが誰にも関心を示さない。自分と同じような不幸な臭いをさせている山田なぎさだけに興味を示す。二人は互いの不幸の臭いをかぎ取り引き付けあうのです。それは、まるで磁石であるかのように。反発と結合を繰り返すジレンマ。
海野藻屑は、周囲に向かって弾丸を撃ちまくっている。それは、砂糖菓子の弾丸だ。当たっても体内で溶けてしまう。つまらない弾丸だ。撃つことをやめたら、戦うことをやめたら、死んでしまうとでも思っているかのように撃ちまくる。
実弾(現実的な自立)を求めるなぎさと、砂糖菓子の弾丸(これを現実逃避の空想の世界とも読み取れる)を放ち続ける藻屑、この小説は、この二人の物語です。
この弾丸は、海野藻屑が周囲に向かって撃ち続けているという形をとりながら、実は、読者に向かって撃ち続けているのではないかと思う。
子供の虐待は、心も身体も、場合によっちゃ、その肉体も奪う最悪の暴力。この世界からの退場を希望する。
P159 この言葉が切ない
そうでも思ってなきゃ、海野藻屑は生きてはいけない。
ラストの言葉も意味深だ。P189
心臓に鉛の弾を、ぶちこまれたような余韻が、上下左右に揺れながら、ずっと、海月のように、そこらを漂っているような読後感でした。
ぜひ、この感覚を共に体験してください。
おすすめの本です。
読書時間 3時間半
つまり、少女のラスト(死)が確定していることを読者は知らされるのです。
1か月前の9月、転校生の海野藻屑がやってくる。有名歌手の娘で美少女だ。
「ぼくはですね。人魚なのです」という扇情的な自己紹介が、彼女の性格を見事に際立たせています。
ストックホルム症候群の彼女は、「ぼく、おとうさんのことがすごく好きだ」と言う。だが、その口で、こんなことも言っている「好きって絶望だよね」
好きって・・・絶望なのか????。
幸せだろ・・・
だろ だよ。 そうあるべきだ。
だよね。 そうなんだ。
藻屑は、近所で噂さになるほど、元有名歌手の父より虐待を受けていた。身体中に、痣。青紫の花が咲いている。
彼女は、左耳が聞こえないこと、足が悪い障害者であることを隠し続けている。自分の弱みを人に見せない子なのだ。
海野藻屑のことを語る。語り手であり、唯一の理解者であるのが親友になる山田なぎさ。
彼女も事情を抱えている。ひきこもりだが、愛すべき兄と、働きずくめの母のいる母子家庭。すごく貧乏で、家事は、すべて13歳の彼女の仕事という複雑な家庭に育ち。常に、実弾。この場合は、自立だと思う。それを欲しているので、中学を卒業したら自衛隊に入ると決めていた。
海野藻屑は、みんなから、ちやほやされるが誰にも関心を示さない。自分と同じような不幸な臭いをさせている山田なぎさだけに興味を示す。二人は互いの不幸の臭いをかぎ取り引き付けあうのです。それは、まるで磁石であるかのように。反発と結合を繰り返すジレンマ。
海野藻屑は、周囲に向かって弾丸を撃ちまくっている。それは、砂糖菓子の弾丸だ。当たっても体内で溶けてしまう。つまらない弾丸だ。撃つことをやめたら、戦うことをやめたら、死んでしまうとでも思っているかのように撃ちまくる。
実弾(現実的な自立)を求めるなぎさと、砂糖菓子の弾丸(これを現実逃避の空想の世界とも読み取れる)を放ち続ける藻屑、この小説は、この二人の物語です。
この弾丸は、海野藻屑が周囲に向かって撃ち続けているという形をとりながら、実は、読者に向かって撃ち続けているのではないかと思う。
命中した、この砂糖の弾丸は、僕ら読者の中に入り込み、血管に侵入し、血をどろどろにし、身体を重くし、すごくブルーで憂鬱で悲しく切なく、1000回くらい「馬鹿野郎!!」と彼女たちの周囲の大人。担任教師、なぎさの母たちに叫びたくなります。
ときどき、犬の死体、父親の暴力という流れ弾。実弾も飛び交う。そして、彼女の死。バラバラ死体。その実弾は、読者の心臓に入り込み。そこで暴れだす。だから、切ない。辛い。
子供の虐待は、心も身体も、場合によっちゃ、その肉体も奪う最悪の暴力。この世界からの退場を希望する。
P159 この言葉が切ない
「こんな人生、ほんとじゃないんだ。」「えっ?」「きっと、全部、誰かの嘘なんだ。だから、平気。きっと、全部悪い嘘」
そうでも思ってなきゃ、海野藻屑は生きてはいけない。
ラストの言葉も意味深だ。P189
砂糖でできた弾丸では、子供は世界と戦えない。あたしの魂は、それを知っている
心臓に鉛の弾を、ぶちこまれたような余韻が、上下左右に揺れながら、ずっと、海月のように、そこらを漂っているような読後感でした。
ぜひ、この感覚を共に体験してください。
おすすめの本です。
読書時間 3時間半
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よろしくお願いします。
昨年は雑な読みが多く数ばかりこなす感じでした。
2025年は丁寧にいきたいと思います。
この書評へのコメント
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- 出版社:角川グループパブリッシング
- ページ数:201
- ISBN:9784044281045
- 発売日:2009年02月25日
- 価格:500円
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