efさん
レビュアー:
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傷つきやすくって、恐くって、だけど……ぼくたちは……。
あんまり注目されていないかもしれないけれど、でも、みなさん、スタージョンを読みましょう!
「シオドア・スタージョンは相当に難解な作家である。
解説担当者がのっけから難解さを売り物にしては怠慢の謗りを受けるかも知れないが、熟考の末、ありきたりの解説者的視点では歯が立ちそうにない」
…… と、これは「夢見る宝石」巻末の解説のくだりです。
そうなんですよ。非常に書くのが難しい……
実際、「人間以上」に関しては、書いておかなければ絶対に後悔するという気持ちもあって、自分への覚え書きというつもりもあって、挑戦してみることにしました。
「白痴は、黒と灰色の世界に住んでいた。飢えの白い電光と、恐怖のきらめきの中に。」……これが「人間以上」の書き出しです。
当初は名前すら持たず、人々から「白痴」と見られていた少年が主人公の作品です。
彼は、何らの欲望すら持たず、何も期待せずに、ただ生きていました。
飢えれば飢えたままにし、ただつっ立っていて、もし一片のパンでも与えられればそれを喰らい、あるいは、動物のように森に潜み、口にできる物ならば何でも喰らってただ生きていました。
一方、ひどく歪んでしまった気のふれた父親のもとに2人の娘が暮らしていました。
父親は「女性」性を醜悪な罪業と信じ、娘達のいずれかにわずかでもそのような気配を認めると、激しく鞭打つのでした。
ある日、女性に目覚めた娘の一人エヴェリンは、泉に身体を浸し、身体の奥底から湧き上がる節の無い歌を歌い始めるのでした。
「呼ばれた?」…… それまで誰からも声をかけられたこともなく、人として扱われたこともなく、何の感情も持たなかった「白痴」は、吸い寄せられるように泉に近づいていき、二人はプールへと移動し、そこで寄り添い、喜びにふるえたのでした。
エヴァリンの姿を認めた姉のアリシアは、父親に助けを求めます。
鞭を持って駆けつけた父親は、「白痴」を激しく鞭打ちます。
逃げ出す「白痴」の身体に鞭が巻き付き、父親の手から鞭が滑り出ました。父親の顔に爪を立てるエヴァリンにより、父親は片目を失います。
逆上した父親は家に戻り銃を持ち出そうとしますが、アリシアは初めて父に逆らいそれを止めます。
父親の目にはもうそれまでの虐待の対象であった娘達とは見えず、得体の知れない「恐怖」でしかありませんでした。父親は、銃口を自らの口に入れ、引き金を引きました。
……
その後、「白痴」は人の良い(息子を失った)農場の老夫婦に拾われ、そこで初めて人間として扱われ、少しずつ、概念を、言葉を、感情を得ていきます。名前を問われるうちに、彼の頭に”All alone”という言葉がよぎりますが、うまく発音できません。「ウル……ウル……ロ…ン」。
「え? 何だ? そうか、ローンか」。こうして「白痴」は「ローン」という名を得たのでした。
……
数年を経て、農場を出ることになったローンは、森の中の洞窟で暮らし始めますが、そこに吸い寄せられるように集まったテレポーテーション能力を持った黒人の双子の女の子とその庇護者であるジャニイという娘。みんな世の中から遺棄された者達でした。
共に暮らし始める彼らは、人類の新たな進化(?)形だったのです。それは、「集団有機体(ゲシュタルト・オーガニック)という形を取ったのでした。
彼らは、彼らとして進化していっただけであり、人類に仇なす意図があったわけではありませんが、再び人類と関わりを持たざるを得なくなります。そして…
というお話しです。何ともまとまりの悪いご紹介なのですが、そこで語られるSF的なストーリーもさることながら、随所に散りばめられた切なくなるような感情が得も言われぬ感動を導くように感じました。
結局ね、「弱いもの」を描きたかったんじゃないかな、とも思うのでした。だからスタージョンは優しい。
本書は「サイボーグ009」のもとになったという説もあるようですが、そうかなぁ?
海を失った男
解説担当者がのっけから難解さを売り物にしては怠慢の謗りを受けるかも知れないが、熟考の末、ありきたりの解説者的視点では歯が立ちそうにない」
…… と、これは「夢見る宝石」巻末の解説のくだりです。
そうなんですよ。非常に書くのが難しい……
実際、「人間以上」に関しては、書いておかなければ絶対に後悔するという気持ちもあって、自分への覚え書きというつもりもあって、挑戦してみることにしました。
「白痴は、黒と灰色の世界に住んでいた。飢えの白い電光と、恐怖のきらめきの中に。」……これが「人間以上」の書き出しです。
当初は名前すら持たず、人々から「白痴」と見られていた少年が主人公の作品です。
彼は、何らの欲望すら持たず、何も期待せずに、ただ生きていました。
飢えれば飢えたままにし、ただつっ立っていて、もし一片のパンでも与えられればそれを喰らい、あるいは、動物のように森に潜み、口にできる物ならば何でも喰らってただ生きていました。
一方、ひどく歪んでしまった気のふれた父親のもとに2人の娘が暮らしていました。
父親は「女性」性を醜悪な罪業と信じ、娘達のいずれかにわずかでもそのような気配を認めると、激しく鞭打つのでした。
ある日、女性に目覚めた娘の一人エヴェリンは、泉に身体を浸し、身体の奥底から湧き上がる節の無い歌を歌い始めるのでした。
「呼ばれた?」…… それまで誰からも声をかけられたこともなく、人として扱われたこともなく、何の感情も持たなかった「白痴」は、吸い寄せられるように泉に近づいていき、二人はプールへと移動し、そこで寄り添い、喜びにふるえたのでした。
エヴァリンの姿を認めた姉のアリシアは、父親に助けを求めます。
鞭を持って駆けつけた父親は、「白痴」を激しく鞭打ちます。
逃げ出す「白痴」の身体に鞭が巻き付き、父親の手から鞭が滑り出ました。父親の顔に爪を立てるエヴァリンにより、父親は片目を失います。
逆上した父親は家に戻り銃を持ち出そうとしますが、アリシアは初めて父に逆らいそれを止めます。
父親の目にはもうそれまでの虐待の対象であった娘達とは見えず、得体の知れない「恐怖」でしかありませんでした。父親は、銃口を自らの口に入れ、引き金を引きました。
……
その後、「白痴」は人の良い(息子を失った)農場の老夫婦に拾われ、そこで初めて人間として扱われ、少しずつ、概念を、言葉を、感情を得ていきます。名前を問われるうちに、彼の頭に”All alone”という言葉がよぎりますが、うまく発音できません。「ウル……ウル……ロ…ン」。
「え? 何だ? そうか、ローンか」。こうして「白痴」は「ローン」という名を得たのでした。
……
数年を経て、農場を出ることになったローンは、森の中の洞窟で暮らし始めますが、そこに吸い寄せられるように集まったテレポーテーション能力を持った黒人の双子の女の子とその庇護者であるジャニイという娘。みんな世の中から遺棄された者達でした。
共に暮らし始める彼らは、人類の新たな進化(?)形だったのです。それは、「集団有機体(ゲシュタルト・オーガニック)という形を取ったのでした。
彼らは、彼らとして進化していっただけであり、人類に仇なす意図があったわけではありませんが、再び人類と関わりを持たざるを得なくなります。そして…
というお話しです。何ともまとまりの悪いご紹介なのですが、そこで語られるSF的なストーリーもさることながら、随所に散りばめられた切なくなるような感情が得も言われぬ感動を導くように感じました。
結局ね、「弱いもの」を描きたかったんじゃないかな、とも思うのでした。だからスタージョンは優しい。
本書は「サイボーグ009」のもとになったという説もあるようですが、そうかなぁ?
海を失った男
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幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!
この書評へのコメント
- ef2014-08-06 19:29
ごめんなさい。沢山のみなさんのコメントを頂いて(本当にありがとうございます)
、それとは別の、スタージョンのことで、もう一つだけ、書いておかなければならないことを書いていなかったと気付きました。
それは、スタージョンは、いつも、いつも、「弱い」人、存在、そういうことをとても気遣っていたということです。
だからこそ、あんな作品を書けたのだと、efはそう、「納得」しています。
それは、異論も沢山あると思います。
だからこそ、スタージョンは面白いし、何よりも優しいのかもしれませんね。
ただ、efが、一番の魅力を感じるところは、スタージョンが好きで好きでたまらない意味は、やっぱり、弱い者へのやわらかい心、せつない気持ちが大好きなこと、儚いことを追い続ける夢、そういう、まさに「幻想」って言えることだと、そう思っています。
ごめんなさい。少し書きすぎました。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
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