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Wings to fly
レビュアー:
「反推理小説」ってなに?その興味で読み始め、読み終わって思った。「犯人は私です。」
☆上下巻合わせた書評です。

本書の裏表紙の謳い文句がまず謎だった。
「推理小説史上の大傑作」(上巻)
「反推理小説の真髄を見る究極のミステリー!!」(下巻)

上巻はわかる。でも下巻は言ってることが矛盾してない?だいたい反推理小説ってなんなの?wikipediaで調べたら、「推理小説でありながら推理小説であることを拒む」(アンチミステリーの概要)だって。ますますわからん・・・というわけで読んでみた。

昭和29年の洞爺丸沈没事故で両親を失った氷沼蒼司、紅司の兄弟と従弟の藍司。東京目白の屋敷に住む彼らに、新たな悲劇が襲う。次男の紅司が浴室で、叔父の橙司が自室で死んだのだ。果たしてこれは事故なのか?それとも密室殺人か?

数名の探偵役は、全て氷沼家との関わりを持つ人物だ。彼らは「ノックスの十戒」や「ヴァン・ダインの二十則」に基づいて自分の推理を披露し意見を戦わせ、熱心に真相を追いかける。そう、最初は普通の探偵小説だ。戦後の匂いが残る昭和の東京を舞台に、五色不動や各自の誕生石との因縁話、古今の名作に出てくる探偵やトリックなどを絡め、マニアックで仄暗く濃厚な味つけの「密室連続殺人事件」だ。

が、読み進めるに従ってだんだん妙な具合になってくる。およそあり得ないぶっ飛んだ推理、架空の人物だと思っていた人の登場、まだ起こってもいない密室殺人についての意見交換・・・「へ?どうしたの?」と思っているうちに調子外れな感じが強まり、推理小説からの逸脱が始まる。

その外れっぷりは激流のようにとめどなくなり、最後に今までの全てが崩壊する。崩壊現場は「推理小説」の墓場である。その墓場から、真のテーマが「これを見よ!」とばかりに立ちあがるのだ。

読み終えて思えば、作者はすべて計算して書いていた。そして、この手法は二度と誰も使えない。最終章でベールを脱ぐ真のテーマは、作者が「虚無」と呼んだものは、今も私たちのすぐ近くにあり、私の中にもある。だから私も、犯行に心当たりがある。うー、なんかスゴイモノを読んでしまった。

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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. ef2014-08-05 20:03

    そうそう。このトリック(?)は、この本だけしか使えないでしょうねぇ。

  2. Wings to fly2014-08-05 23:00

    efさん
    前半にすっかり騙されました。びっくりしましたわ〜!そして真摯な訴えのある作品でした。背中に喝を入れられた気分です(-_-)

  3. 小太郎2014-08-06 11:30

    懐かしい~

  4. hacker2014-08-06 11:57

    これ傑作ですよね。この作品は、発表直後よりも、時を経て評価が高まっていったという稀有なミステリーです。その理由を考えると、興味深いものがありますし、いずれ再読して、レビューを書きたいですね。

  5. Wings to fly2014-08-12 13:52

    小太郎さん
    きっと随分前にお読みになったのでしょうね(笑)添付した本↓の中にあった、中井英夫の「牧神の春」という幻想的な小品が非常に良かったのです。で、なんか有名なのあったよな~と思い出し、積読山から発掘。やっと読みました~!

  6. Wings to fly2014-08-06 14:40

    hackerさん
    >発表直後よりも、時を経て評価が高まっていったという稀有なミステリー
    そうなのですか!この作品は1964年の出版ですね。主題に据えられたのは「人間性」に関することで、今も変わっていない部分ですから、指摘されるとドキッとします。だからいつまでもテーマとして通用するのだと思いました。いやはや、すごい構成の本ですね。
    書評、是非拝見したいです。お待ちしています!

  7. ef2014-08-06 14:58

    本は違いますが、大分前にレビューしていました。よろしかったら、どぞ。

  8. Wings to fly2014-08-06 15:12

    efさん
    書評さっそく拝見しました。ホントに「読者が犯人」でしたね。どうしたらそうなるのか読んでみてよ〜くわかりました。どうしたらこんな事を思いつけるのかが全く謎です。

  9. No Image

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